42 / 54
42 普通の転生者、予定を終えて王都へ戻る
しおりを挟む
何だか驚く事ばかりだ。エマーソンが僕が思っていたよりも有能で、出る杭は打たれるというような事にならないようにしていたとか、にわかには信じ難い。
「エマーソンのこの土地だから出来る。そういうものに守られている。そういう所と縁を結びたい権力者もいるだろう。もっとも単純に母上の血縁者と縁を縁を結びたいと思っている者もいるだろうがな」
お祖父様はそう言ってニッコリと笑った。僕はなんだか余計に訳が分からなくなってしまった部分もあるけれど、何となくエマーソンのこだわる人達が一定数居ることは分かった。でも当初の目的だけはきちんとして帰らなくては。
「すみません……。僕は自分の領の事なのに、きちんとした事は何も知らなかったみたいです。でも僕はエマーソン領の事が嫌いだから帰りたくないって思ったわけではないんです」
「ああ、分かっているよ。部屋住みで世話になるのは嫌だと言われたのは少し淋しい気持ちもしたが、それでも王城で文官をしたいという目標があるのならばそれでいいと思った。自分のやりたい事をやるのが一番だ」
「ありがとう、ございます」
胸の中が温かくなって、何だか目の辺りも熱くなってきてじんわりとしてしまうけれど、それをぐっとこらえて僕は当初の予定の言葉をお祖父様に告げた。
「僕はせっかくやり始めた仕事をまだまだ続けていきたいです。そしてこうして時々はエマーソンに帰ってきたいとも思いました。我儘かもしれませんが、好きな事を好きなようにやり続けていきたい。自分の可能性を試していきたい。だから他の家の子になるのも、ましてや王族になるのも嫌です。まだ一度しかお会いしていませんが、第四王子様とは性格的に合いそうにありません。一緒に歩いていきたい、過ごしていきたいと思う人ではありません」
「そうか……」
お祖父様はどこか楽しそうに返事をした。
「改めて、正式にお断りをしていただきたいのですが、お断りをしたらやはり城勤めを続けて行くのは難しいでしょうか」
「いや、関係なかろう」
「では、お手数をおかけしますが、お断りをお願いいたします」
「ふむ。まぁ、アルトマイヤーは養子の件は関係なくとも、上司としては付き合う事になると思うが」
「上司としてはとても良い方です」
「ふふふ、そうか。ではそのように断りを入れておこう」
それから少しだけお祖父様と大祖父様と大祖母様の話をした。可愛らしくて逞しい王女様。その王女様を守り、愛した騎士の話はまるで本で読む物語のようだった。
「ねぇサミー、貴方は先ほど一緒に歩いていきたい、過ごしていきたいと思う人って言っていたけれど、そんな人はいるの?」
「え?」
「そんな人がいるなら、大事にしなくてはね」
お茶とお菓子を持ってきてくれた今までちょこんと座っていただけのお祖母様の言葉に、何故かフィルの顔が浮かんで、僕は慌てて首を横に振って「いません」と言った。
こうして僕は王都へと戻った。今日出仕しているフィルはまだ戻ってはいないようで、僕はなぜだかほっとした。
「エマーソンのこの土地だから出来る。そういうものに守られている。そういう所と縁を結びたい権力者もいるだろう。もっとも単純に母上の血縁者と縁を縁を結びたいと思っている者もいるだろうがな」
お祖父様はそう言ってニッコリと笑った。僕はなんだか余計に訳が分からなくなってしまった部分もあるけれど、何となくエマーソンのこだわる人達が一定数居ることは分かった。でも当初の目的だけはきちんとして帰らなくては。
「すみません……。僕は自分の領の事なのに、きちんとした事は何も知らなかったみたいです。でも僕はエマーソン領の事が嫌いだから帰りたくないって思ったわけではないんです」
「ああ、分かっているよ。部屋住みで世話になるのは嫌だと言われたのは少し淋しい気持ちもしたが、それでも王城で文官をしたいという目標があるのならばそれでいいと思った。自分のやりたい事をやるのが一番だ」
「ありがとう、ございます」
胸の中が温かくなって、何だか目の辺りも熱くなってきてじんわりとしてしまうけれど、それをぐっとこらえて僕は当初の予定の言葉をお祖父様に告げた。
「僕はせっかくやり始めた仕事をまだまだ続けていきたいです。そしてこうして時々はエマーソンに帰ってきたいとも思いました。我儘かもしれませんが、好きな事を好きなようにやり続けていきたい。自分の可能性を試していきたい。だから他の家の子になるのも、ましてや王族になるのも嫌です。まだ一度しかお会いしていませんが、第四王子様とは性格的に合いそうにありません。一緒に歩いていきたい、過ごしていきたいと思う人ではありません」
「そうか……」
お祖父様はどこか楽しそうに返事をした。
「改めて、正式にお断りをしていただきたいのですが、お断りをしたらやはり城勤めを続けて行くのは難しいでしょうか」
「いや、関係なかろう」
「では、お手数をおかけしますが、お断りをお願いいたします」
「ふむ。まぁ、アルトマイヤーは養子の件は関係なくとも、上司としては付き合う事になると思うが」
「上司としてはとても良い方です」
「ふふふ、そうか。ではそのように断りを入れておこう」
それから少しだけお祖父様と大祖父様と大祖母様の話をした。可愛らしくて逞しい王女様。その王女様を守り、愛した騎士の話はまるで本で読む物語のようだった。
「ねぇサミー、貴方は先ほど一緒に歩いていきたい、過ごしていきたいと思う人って言っていたけれど、そんな人はいるの?」
「え?」
「そんな人がいるなら、大事にしなくてはね」
お茶とお菓子を持ってきてくれた今までちょこんと座っていただけのお祖母様の言葉に、何故かフィルの顔が浮かんで、僕は慌てて首を横に振って「いません」と言った。
こうして僕は王都へと戻った。今日出仕しているフィルはまだ戻ってはいないようで、僕はなぜだかほっとした。
23
お気に入りに追加
978
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる