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35 普通の転生者、祭りを理解する②
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僕がホットドッグを食べている間、フィルはちゃんと仕事をしていた。
混雑をして、揉めてしまった人たちに注意をしたり、スリだと騒いでいる人の所に行って、近くにいた警ら隊に取り押さえた犯人を引き渡す。
「食べ終えたか? じゃあ、もう少し南の方に行ってもいいか? 午後はそっちが担当なんだ」
「うん。分かった。でもさ、いいの? 僕がずっと一緒に居ても」
そうなんだ。だって一緒にお祭りを回っているけれど、フィルは仕事中なんだよね。まぁ、参加しながら仕事可能って言われているみたいだけど。それにほんとに参加しながら仕事しているし。
フィルが言っていた通り、城からの見回り騎士が来ているというだけで、祭りでちょっと興奮してねじが外れてしまったような人達への抑止力になるみたい。
その後の処理は街の警ら隊が行っているし、何て言うか、お手伝いみたいな感じだ。でも仕事は仕事だしさ、ずっと一緒に回っていてもいいのかなって思っちゃうんだよね。
「ああ? この人混みの中でお前を一人にさせられると思うか? 宿舎に戻って来られないぞ」
「あ、うん。そうだねぇ」
それはかなり、正しい。多分ここでフィルを別行動をとったらまずいのは僕も分かるんだ。でもね。さっきホットドックを食べながらちょっと聞こえちゃったんだよね。
『城勤めは恋人同伴で見回りかよ』ってね。
「サミー」
「なに?」
「言わせたい奴には言わせておけ。俺はちゃんと自分の仕事をしているし、お前も自分の仕事の確認作業中だ」
「……聞こえていたの?」
「それ位じゃないと城の見回りは務まらない。結構気温が上がっているからな。ちゃんと水分取っておけよ。疲れたなら送るから言うんだぞ」
「うん…………」
なんだよ、これ。もう、フィルってばちょっとカッコよすぎない? もう、もう、もう!
結局僕たちは市場の場外に立っている市の方と、大道芸人が集まっている道を回り、やっぱり豊穣を祈るんだからねって神殿の方にも行ってみた。神殿は結局中には入れずに供物台の所にちゃっかりエマーソンの紅茶の茶葉を供えてきた。
途中で休憩を挟みながら結局お祭りの最後まで街を巡って歩いた。フィルはお祭りが閉会をしたらお仕事が終了らしくて、少し早めに夕食を取って、もう一度王城に近い中央広場に戻って来た。勿論国王陛下が閉会宣言をする為にベランダに出ても、ここから陛下の顔なんか見えやしないけれど、それでもこういう雰囲気っていうか、習わしっていうか、そう言うものなんだって見るのは大事。
「疲れてないか?」
「うん。ちょっとだけ。でも大丈夫。最後までちゃんと見る」
「そうか」
「うん」
広場はどんどん混んでくる。お祭りのフィナーレらしく色々な楽器の音や、音楽やら、歌やら、出店の値下げの掛け声も聞こえ始めた。
なんだかすごいな。豊穣を祈る祭りというよりも冬が終わって春の訪れに浮かれまくるという感じだ。
「ほら、そろそろ終わりだ。陛下がバルコニーに現れる」
フィルが耳元でそう言って僕は王城の方を見たけれど、背の高さの問題だけじゃなく、どうして分かる? っていうくらいに分からないんだけど。え? 見えるの? バルコニーは辛うじて分かるけど陛下?
『豊穣を祈る祭りの閉会をここに宣言する。今年が良き恵みの年である事の願い、秋の実りをまた皆で祝いたいと思う』
風の魔法で届けられた少し低めの声が、大きな歓声で消された。
と同時に上がった大きな花火。
だけど……
(えええええぇぇぇぇぇぇ!!!)
僕が驚いたのは花火じゃなかった。だって、だって、だって!!!
周りに居た人たちの多くが皆、抱き合って、キスをしているんだよ!
「なななななななな」
「落ち着け、サミー」
「フィ……フィル、なん、なんで」
この人たちはこんなに大ぴらにキスをしているんだろう。
「本当に何も知らなかったんだな。祭りの最後にお互いの花を贈って告白をするんだよ。キスをしているのは赤い花の奴が多いけど、白い花の奴は大体プロポーズが成功した奴だ」
「そそそそそそうなんだ」
「サミー」
「ななななに!」
「デカい声を出すな。何もしないよ。ほらここから抜けるからもう少し近くに来てくれ」
「わ、わかった」
あちこちで冷やかすような声が上がる中、僕はフィルに肩を抱かれるようにして、広場の群衆の中から抜け出した。
「よし。お疲れ様、サミー」
フィルはそう言って笑って肩に置いていた手を外した。そうして目立つ騎士のマントをするりと取ってしまう。
「業務も終了だ。帰ろう」
「う、うん」
僕たちは並んで歩き出した。フィルは片手にマントを持って、片手は僕と手を繋いでいる。まだ人通りは多いし、何なら酔っ払いも結構いるからだ。
「フィルは……」
「ああ?」
「お祭りの内容を全部知っていたの?」
「あ~、まぁ全部っていうか、見回りするのに概要を知らなきゃまずいだろう」
「……そうだよね」
というか、僕だってもっとちゃんと調べておかなきゃ駄目だったんだ。まさか豊穣の祭りが恋人の祭りでもあるなんて思わなかったけど。
そのまま僕たちは言葉もなく、ただただ宿舎に向かって歩いた。でも繋いだ手は離さなかった。
「サミー」
「……うん?」
「今年は、花の交換はなかったけど……いつか、できたらいいって思ってる」
「…………」
「それだけは覚えておいてくれ。それだけだ。ほら、到着。朝からお疲れ様。ゆっくり風呂に入って寝ろ」
離れされた手。開かれた扉。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
そうしてこことは違う、護衛用の出入り口に向かったフィルの背中に「今日はありがとう」という声をかけると「おう」と声が返ってきて、僕はまた胸の辺りがキュッとした、気がした。
混雑をして、揉めてしまった人たちに注意をしたり、スリだと騒いでいる人の所に行って、近くにいた警ら隊に取り押さえた犯人を引き渡す。
「食べ終えたか? じゃあ、もう少し南の方に行ってもいいか? 午後はそっちが担当なんだ」
「うん。分かった。でもさ、いいの? 僕がずっと一緒に居ても」
そうなんだ。だって一緒にお祭りを回っているけれど、フィルは仕事中なんだよね。まぁ、参加しながら仕事可能って言われているみたいだけど。それにほんとに参加しながら仕事しているし。
フィルが言っていた通り、城からの見回り騎士が来ているというだけで、祭りでちょっと興奮してねじが外れてしまったような人達への抑止力になるみたい。
その後の処理は街の警ら隊が行っているし、何て言うか、お手伝いみたいな感じだ。でも仕事は仕事だしさ、ずっと一緒に回っていてもいいのかなって思っちゃうんだよね。
「ああ? この人混みの中でお前を一人にさせられると思うか? 宿舎に戻って来られないぞ」
「あ、うん。そうだねぇ」
それはかなり、正しい。多分ここでフィルを別行動をとったらまずいのは僕も分かるんだ。でもね。さっきホットドックを食べながらちょっと聞こえちゃったんだよね。
『城勤めは恋人同伴で見回りかよ』ってね。
「サミー」
「なに?」
「言わせたい奴には言わせておけ。俺はちゃんと自分の仕事をしているし、お前も自分の仕事の確認作業中だ」
「……聞こえていたの?」
「それ位じゃないと城の見回りは務まらない。結構気温が上がっているからな。ちゃんと水分取っておけよ。疲れたなら送るから言うんだぞ」
「うん…………」
なんだよ、これ。もう、フィルってばちょっとカッコよすぎない? もう、もう、もう!
結局僕たちは市場の場外に立っている市の方と、大道芸人が集まっている道を回り、やっぱり豊穣を祈るんだからねって神殿の方にも行ってみた。神殿は結局中には入れずに供物台の所にちゃっかりエマーソンの紅茶の茶葉を供えてきた。
途中で休憩を挟みながら結局お祭りの最後まで街を巡って歩いた。フィルはお祭りが閉会をしたらお仕事が終了らしくて、少し早めに夕食を取って、もう一度王城に近い中央広場に戻って来た。勿論国王陛下が閉会宣言をする為にベランダに出ても、ここから陛下の顔なんか見えやしないけれど、それでもこういう雰囲気っていうか、習わしっていうか、そう言うものなんだって見るのは大事。
「疲れてないか?」
「うん。ちょっとだけ。でも大丈夫。最後までちゃんと見る」
「そうか」
「うん」
広場はどんどん混んでくる。お祭りのフィナーレらしく色々な楽器の音や、音楽やら、歌やら、出店の値下げの掛け声も聞こえ始めた。
なんだかすごいな。豊穣を祈る祭りというよりも冬が終わって春の訪れに浮かれまくるという感じだ。
「ほら、そろそろ終わりだ。陛下がバルコニーに現れる」
フィルが耳元でそう言って僕は王城の方を見たけれど、背の高さの問題だけじゃなく、どうして分かる? っていうくらいに分からないんだけど。え? 見えるの? バルコニーは辛うじて分かるけど陛下?
『豊穣を祈る祭りの閉会をここに宣言する。今年が良き恵みの年である事の願い、秋の実りをまた皆で祝いたいと思う』
風の魔法で届けられた少し低めの声が、大きな歓声で消された。
と同時に上がった大きな花火。
だけど……
(えええええぇぇぇぇぇぇ!!!)
僕が驚いたのは花火じゃなかった。だって、だって、だって!!!
周りに居た人たちの多くが皆、抱き合って、キスをしているんだよ!
「なななななななな」
「落ち着け、サミー」
「フィ……フィル、なん、なんで」
この人たちはこんなに大ぴらにキスをしているんだろう。
「本当に何も知らなかったんだな。祭りの最後にお互いの花を贈って告白をするんだよ。キスをしているのは赤い花の奴が多いけど、白い花の奴は大体プロポーズが成功した奴だ」
「そそそそそそうなんだ」
「サミー」
「ななななに!」
「デカい声を出すな。何もしないよ。ほらここから抜けるからもう少し近くに来てくれ」
「わ、わかった」
あちこちで冷やかすような声が上がる中、僕はフィルに肩を抱かれるようにして、広場の群衆の中から抜け出した。
「よし。お疲れ様、サミー」
フィルはそう言って笑って肩に置いていた手を外した。そうして目立つ騎士のマントをするりと取ってしまう。
「業務も終了だ。帰ろう」
「う、うん」
僕たちは並んで歩き出した。フィルは片手にマントを持って、片手は僕と手を繋いでいる。まだ人通りは多いし、何なら酔っ払いも結構いるからだ。
「フィルは……」
「ああ?」
「お祭りの内容を全部知っていたの?」
「あ~、まぁ全部っていうか、見回りするのに概要を知らなきゃまずいだろう」
「……そうだよね」
というか、僕だってもっとちゃんと調べておかなきゃ駄目だったんだ。まさか豊穣の祭りが恋人の祭りでもあるなんて思わなかったけど。
そのまま僕たちは言葉もなく、ただただ宿舎に向かって歩いた。でも繋いだ手は離さなかった。
「サミー」
「……うん?」
「今年は、花の交換はなかったけど……いつか、できたらいいって思ってる」
「…………」
「それだけは覚えておいてくれ。それだけだ。ほら、到着。朝からお疲れ様。ゆっくり風呂に入って寝ろ」
離れされた手。開かれた扉。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
そうしてこことは違う、護衛用の出入り口に向かったフィルの背中に「今日はありがとう」という声をかけると「おう」と声が返ってきて、僕はまた胸の辺りがキュッとした、気がした。
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