普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

tamura-k

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32 普通の転生者、春の祭りの意味を知る

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 数を確認したり、書類のやりとりをしたり、或いは頼まれた何に使うのか分からないものを分からないまま発注したりしながら時間がビュンビュン過ぎて行く。
 
 祭りのどういった部分になるのか分からないまま、上の方から下りて来る仕事をひたすらこなしつつ、これでいいのかなぁと自問をしたりしたけれど、祭りの内容自体がきちんと把握を出来ていないので、とりあえず今年は言われた仕事を間違いなくこなすという事に決めたんだ。  
 そして、今年はちゃんとお祭りを見て、祭りの全体を把握する。それから自分が任されていた事がどういう所のものなのか、何の為のものなのかまできちんと調べようと思ったよ。

 でもね、さすがに、王都の春の祭りがどんなお祭りなのかは調べたんだ。
 王都で行われる春の祭りは、豊穣を祈る祭りだった。冬が終わり芽吹きの季節となり、秋に向けての豊穣を願う祭り。街を花で飾り、春の訪れを祝い、収穫に向けて頑張って行こうという祈りと舞を捧げるんだそうだ。
 まぁ、よくある祭りといえばそうだよね。だけど僕がその祭りを知らなかったのはエマーソンにはない祭りだったから。
 冬という季節がないというか、雪も降らないエマーソンでは春を祝うという感覚はない。というか、一般的に冬と言われている11月と12月が最高級の茶葉が採れる時期だからね。これからの豊穣じゃなくて、大きな波を乗り切って、さぁ次っていうシーズンだからさ。春の訪れ云々って言う感じじゃないんだよ。

 同じ王国内でもそれぞれの土地にあったお祭りとか約束事とかそういうものがあるんだよねって当たり前の事だけど祭りっていうものに関わって改めて思った。
 でも時間がある時にそういうのも調べてみたら面白いかもしれないな。今までは各地の祭りなんて気にも留めなかったけど、そういう事も教養として必要になってくるかもしれない。そんな事を考えてちょっと楽しくなってなんだか幸せって思った。
 そう。忘れちゃいけない幸せ集め。
 僕にとっての幸せが何なのかはまだ分からないんだけど、集めるのは続けて行かなきゃって思っているんだ。




 そうしていよいよ祭りまであと一週間を切った頃から、なんだかやたらと祭りは誰と行くのか、予定はあるのか、一緒に行かないかと声をかけられることが増えてきた。

「なんでかな。王都では知らない人とお祭りに行くっていう風習みたいなものがあるのかな?」
「……さすがだな、サミー。まさかそんな事になっているとは思わなかった」

 今の所は宰相をマークしておけばいいと思っていたのにとブツブツいうフィルを見ながら、僕は夕食の鶏肉の香草焼きをパクリと口に入れた。
 うん。美味しい。
 フィルはこの仮宿舎の護衛だけど、結局住んでいるのは僕達二人だけなので、お互いの仕事で時間が合わない時以外は一緒に食事をしているんだ。

「今年はさ、お祭りがどう言うものなのかは見に行こうって思っているんだよ。訳も分からずに色々下っ端仕事をしていたからさ、自分がやった事がどういうものだったのかちゃんと知りたいなって思ったから。でも多分、僕が知りたいなって思う事って他の人達からすると、あんまり面白い事じゃないような気がするんだよね」

 そう言うとフィルは小さく吹き出すようにして笑った。

「フィル?」
「ああ、悪い。サミーらしいなと思って。じゃあ、俺と回らないか?」
「フィルと?」
「ああ、大きな祭りだからさ、王城内の見回り騎士の下っ端はこの時期、街の警護に借り出されるんだそうだ」
「警護に?」
「ああ、警護だからさ、立ち入りが難しいような所も色々見て回れると思うぞ」
「! そ、それはかなり魅力的。あ、でもさ、フィルは一応っていうか、仕事中なんだよね」
「ああ、まぁ一応な。でも見回りをしながら祭りに参加をしてもいいらしい」
「そうなの?」
「ようするに下っ端がこの仕事を任されているって言う事は警護というよりは、祭りの状況とか雰囲気とか流れ的なものを把握しろって言う事だと思っている」
「ああ、なるほど」

 僕が大きく頷くと、フィルはマッシュポテトを口に入れて、再び口を開いた

「だから見回りの間に少し祭りに参加をしても許されるらしい。実際は祭りの最中にはそんなに大きな揉め事はほとんどないそうで、酔っ払いや小さな喧嘩は街の警ら隊の仕事だそうだ」
「へぇ、じゃあなんで王城の見回り騎士がわざわざ? お祭りの雰囲気とかを把握させるだけっていうのはちょっと……あ、もしかして」
「ふふ、気づいたか。さすがサミー。城からも警護が来ているっていうアピールっていうか、まぁ、一種のパフォーマンスみたいなもんなんだろうな」
「ふぅん、抑止効果狙いっていう感じなのかな。分かった。じゃあ、フィルと回るよ。ありがとう。もうさ、断ったり説明したりするのが面倒くさいって思っていたんだ。一人で見て回りたいからっていうと「危ないから」って言われるし。豊穣を祈るのに何で危ないのか分からないんだけど」
「ああ、そうだな。でも駆け出しの王城勤めが一人でフラフラしていたらカモられるということかもしれないぞ」
「なるほど……。じゃあ王城の見回り騎士と一緒なら安心って事だよね」

 僕がにっこり笑ってそう言うと、フィルもニッコリと笑って頷いた。

「そう言う事だ。いいか、サミー。今度誰かに誘われたらもう一緒に行く奴は決まったって言うんだぞ」
「うん。分かった」

 僕は大きく頷いて鶏肉の香草焼きの最後の一口を口に入れた。

「ちなみにな、サミー。この祭りは豊穣の祭りでもあるけれど、恋の祭りでもあるそうだ」
「こ、恋?」
「そう。恋人が居る者は胸に白い花を、恋人を募集する者は赤い花をつけるそうだ」
「…………は?」
「恋人になりたい者を誘って祭りに行くっていうのが街の若い連中の定番だそうだ。何が見たいのかあれば調べておけよ。後はまぁ、初めての祭りをお互いに楽しもう」

 そう言っていつかのように甘い微笑みを浮かべたフィルに僕は「ひぇ」っとまったく色気のない声を出した。
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