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21 普通の転生者、試験に合格する
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ずっと目指していた官吏の試験。
文官になって、家を出ると決めていた。
そして試験を受けて、本日めでたく受かりました!
届いた『合格のお知らせ』に、ホッとした気持ちと、いよいよだと言う気持ちが胸の中に押し寄せる。
まずは推薦状を書いてくれた教授に知らせて、それからフィルと思ったけれど、生憎夕食にならないと会えなくて、偶然会ったブラッドに伝えたら、すごく喜んでくれた。
「良かったね。サミュエルならきっと受かると思っていたよ。これで王都に住む事になるね。私はしばらくは領地でなくタウンハウスで父の仕事を手伝う事になるから、何かあれば、ううん、なくても声をかけて? 一緒に仕事の話でもしよう。ああ、勿論お菓子の差し入れも継続だね」
「ありがとう。ブラッド。知り合いが居てくれるのはとても心強いよ。それにお菓子もね。本当にブラッドの家から送られてくるお菓子はとても美味しくて大好きなんだ」
「ふふふ、そう言ってくれて嬉しいな。本当に私が嫡子でなければ外堀から内堀まで埋めまくって手に入れたのに」
「ブラッド?」
何だろう? 何を言っているのかな。堀? お城の事かな?
「まぁ、それが判っているから私は無事に君の傍に居られたんだろうけどね」
「ううん? 何の話なの?」
「何でもないよ。それで手続きはいつ?」
「ああ、明日にでも行ってくるよ。早い方がいいし。文官のね、制服があるんだって。制服がある方が助かるからさ。しかも支給されるんだって。そういうのが色々とかかると思っていたからありがたいよ」
僕がそう言うと、ブラッドはニコニコ顔をそのままにして「良かったね」って言ってくれた。
「じゃあ、服の事はどうにかなりそうだね。その他に何か入用なものがあったら教えてね。合格祝いに贈らせて? ああ、あと、サミュエルが嫌でなければここにある家具でほしいものはあげるからそれも言ってね。タウンハウスには別の家具があるから、ここのものはほとんど処分しないといけないんだ」
「ええ⁉ 本当に? それは、とても助かるよ。とりあえず、文官用の寄宿舎に入ると思うから、聞いてみるね。本当にありがとう」
「ううん。こちらこそ助かる」
そんなやりとりをして僕は一旦自分の部屋に戻った。
ブラッドの部屋と比べて僕の部屋は物がほとんどない。ある家具も元からここにあったものだけだ。
「すごいなぁ。何だかいきなり幸せが押し寄せてきたみたいな感じだよ」
これで明日手続きをして、入るまでにどんな事をして、何が必要なのかを確認して。そして……
「フィルはどうするのか決まったのかなぁ」
どうしてだか分からないけれど、何だかそれが気になって仕方がない。
「夕食の時に聞いてみよう」
今日の夕食は俺の大好きな煮込みハンバーグだった。
やった! なんか幸せ度が上がっているよ~。やっぱり幸せって沢山ある方に集まってくるんだな。
「おう。試験受かったんだって? おめでとう」
「ありがとうございます。えへへ」
官吏の試験については合格者が掲示板に貼りだされる事になるからそれで知ったのかな。
やっぱりおめでとうって言われると嬉しいな。
「これ、ささやかだけどお祝だ」
そう言って食堂のお兄さんは果物が乗った小さなケーキをくれた。
「あ、ありがとうございます! 嬉しいです」
「おう。あと少しだけど。ちゃんと食べにこいよ。細っこくて心配になるからよ」
「あはは、ちゃんと食べます。ありがとうございました」
えへへ、思っていたよりも出費が抑えられそうだからお昼も抜かさずちゃんと食べるよ。
フィルはそのやり取りを見ていて、テーブルにつくと「良かったな」って言った。
「あ、うん。えっと、あの、報告が遅くなったけど、受かったよ」
「ああ、おめでとう」
あっさりとした言葉が返ってきた。そして僕たちは夕食を食べ始める。
「あのさ」
「ああ?」
「ブラッドは卒業後はどうするの? 」
「ああ、まだ決まってない」
「え? ええ⁉」
ちょっと待って、もう11月の半ばすぎたよ? 騎士科の事はよくは分からないけど、こっちは卒業のレポートを来週提出して及第点がとれたらお終いだよ? 12月の半ばにはもう卒業式だよ?
「なんだよ。まだ卒業までにひと月あるだろう?」
「それはそうだけど」
「それよりも試験受かったなら一度は領に帰ってちゃんと報告しろよ。いくら何でもこのまま寄宿舎ぐらしっていうのはありえないからな」
「…………」
「まぁ、もう受かったんだし。それはお前が頑張った成果なんだし、やめろとは言わないだろう。きちんと自立する挨拶くらいはして来い」
「フィ、フィルは?」
「なんでお前の挨拶に俺が一緒に行くんだよ」
「だ、だよね」
それは確かにそう。変な事言っちゃった。でもそうだよね。別に悪い事をしているわけじゃないし、ちゃんと出来るよって報告は必要だよね。
「レポートを提出したら行ってくるよ」
「ああ、それがいい」
フィルの声を聞きながら、僕は合格祝いのケーキを口に入れた。
--------
文官になって、家を出ると決めていた。
そして試験を受けて、本日めでたく受かりました!
届いた『合格のお知らせ』に、ホッとした気持ちと、いよいよだと言う気持ちが胸の中に押し寄せる。
まずは推薦状を書いてくれた教授に知らせて、それからフィルと思ったけれど、生憎夕食にならないと会えなくて、偶然会ったブラッドに伝えたら、すごく喜んでくれた。
「良かったね。サミュエルならきっと受かると思っていたよ。これで王都に住む事になるね。私はしばらくは領地でなくタウンハウスで父の仕事を手伝う事になるから、何かあれば、ううん、なくても声をかけて? 一緒に仕事の話でもしよう。ああ、勿論お菓子の差し入れも継続だね」
「ありがとう。ブラッド。知り合いが居てくれるのはとても心強いよ。それにお菓子もね。本当にブラッドの家から送られてくるお菓子はとても美味しくて大好きなんだ」
「ふふふ、そう言ってくれて嬉しいな。本当に私が嫡子でなければ外堀から内堀まで埋めまくって手に入れたのに」
「ブラッド?」
何だろう? 何を言っているのかな。堀? お城の事かな?
「まぁ、それが判っているから私は無事に君の傍に居られたんだろうけどね」
「ううん? 何の話なの?」
「何でもないよ。それで手続きはいつ?」
「ああ、明日にでも行ってくるよ。早い方がいいし。文官のね、制服があるんだって。制服がある方が助かるからさ。しかも支給されるんだって。そういうのが色々とかかると思っていたからありがたいよ」
僕がそう言うと、ブラッドはニコニコ顔をそのままにして「良かったね」って言ってくれた。
「じゃあ、服の事はどうにかなりそうだね。その他に何か入用なものがあったら教えてね。合格祝いに贈らせて? ああ、あと、サミュエルが嫌でなければここにある家具でほしいものはあげるからそれも言ってね。タウンハウスには別の家具があるから、ここのものはほとんど処分しないといけないんだ」
「ええ⁉ 本当に? それは、とても助かるよ。とりあえず、文官用の寄宿舎に入ると思うから、聞いてみるね。本当にありがとう」
「ううん。こちらこそ助かる」
そんなやりとりをして僕は一旦自分の部屋に戻った。
ブラッドの部屋と比べて僕の部屋は物がほとんどない。ある家具も元からここにあったものだけだ。
「すごいなぁ。何だかいきなり幸せが押し寄せてきたみたいな感じだよ」
これで明日手続きをして、入るまでにどんな事をして、何が必要なのかを確認して。そして……
「フィルはどうするのか決まったのかなぁ」
どうしてだか分からないけれど、何だかそれが気になって仕方がない。
「夕食の時に聞いてみよう」
今日の夕食は俺の大好きな煮込みハンバーグだった。
やった! なんか幸せ度が上がっているよ~。やっぱり幸せって沢山ある方に集まってくるんだな。
「おう。試験受かったんだって? おめでとう」
「ありがとうございます。えへへ」
官吏の試験については合格者が掲示板に貼りだされる事になるからそれで知ったのかな。
やっぱりおめでとうって言われると嬉しいな。
「これ、ささやかだけどお祝だ」
そう言って食堂のお兄さんは果物が乗った小さなケーキをくれた。
「あ、ありがとうございます! 嬉しいです」
「おう。あと少しだけど。ちゃんと食べにこいよ。細っこくて心配になるからよ」
「あはは、ちゃんと食べます。ありがとうございました」
えへへ、思っていたよりも出費が抑えられそうだからお昼も抜かさずちゃんと食べるよ。
フィルはそのやり取りを見ていて、テーブルにつくと「良かったな」って言った。
「あ、うん。えっと、あの、報告が遅くなったけど、受かったよ」
「ああ、おめでとう」
あっさりとした言葉が返ってきた。そして僕たちは夕食を食べ始める。
「あのさ」
「ああ?」
「ブラッドは卒業後はどうするの? 」
「ああ、まだ決まってない」
「え? ええ⁉」
ちょっと待って、もう11月の半ばすぎたよ? 騎士科の事はよくは分からないけど、こっちは卒業のレポートを来週提出して及第点がとれたらお終いだよ? 12月の半ばにはもう卒業式だよ?
「なんだよ。まだ卒業までにひと月あるだろう?」
「それはそうだけど」
「それよりも試験受かったなら一度は領に帰ってちゃんと報告しろよ。いくら何でもこのまま寄宿舎ぐらしっていうのはありえないからな」
「…………」
「まぁ、もう受かったんだし。それはお前が頑張った成果なんだし、やめろとは言わないだろう。きちんと自立する挨拶くらいはして来い」
「フィ、フィルは?」
「なんでお前の挨拶に俺が一緒に行くんだよ」
「だ、だよね」
それは確かにそう。変な事言っちゃった。でもそうだよね。別に悪い事をしているわけじゃないし、ちゃんと出来るよって報告は必要だよね。
「レポートを提出したら行ってくるよ」
「ああ、それがいい」
フィルの声を聞きながら、僕は合格祝いのケーキを口に入れた。
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