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16 普通の転生者、休暇の終わりにホッとする
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「それじゃあ、来週からはまた今まで通りに週二で頼むよ。ほら、これは今日のお土産。給金はこれ。助かったよ、ロイ」
「いえ、こちらこそありがとうございました。これでまた本が買えます」
そう言って僕は食堂の女将さんにぺこりと頭を下げて、頂いたものをしっかりとバッグに入れて転移をした。
約2ヶ月のバカンスシーズンが終わろうとしている。
始まりに色々あったけれど、休み中に特に大きな問題はなく過ごせた。
あれから黒髪騎士のダリオンさんは食堂には来るけれど、ちょっとでも俺に個人的に話しかけるような人がいると女将さんの喝が飛ぶため、お店の中で俺に話しかける事は出来ない。
そして女将さんから直接転移を認められている為、俺は直接店に来て、直接自分の寮部屋に帰るので、全く個別にお会いする隙なしなのである。
なんなら最近は受けた注文も、マルクが運んでくれるから、顔つきがかなり暗い。
なんかこれでいいのかなって思うけど、でも彼が好きなのはロイで、ロイはほんとはいないからさって思う事にした。だって、返事をしてもごめんなさいしか言えないから。
一度フィルに聞いたら「馬鹿、付け入る隙を与えてどうする」と言われた。
そういうものなのかな。ごめんね。でも僕、誰かとお付き合いするつもりはないんだ。今のところはこれからの為にお金を稼ぐ事と、試験に受かるように勉強して、ちゃんと卒業する事で精いっぱいなんだ。
ささやかな幸せを集めながら、これからの幸せを呼び寄せる、そんなおまじないみたいな事を信じちゃうくらいに。
だからね。僕の態度を見て判ってほしいの。
それはとても狡い事なんだけれど、ちゃんとお付き合いできませんって言えばいい話なんだろうけれど。
逃げ出してもすぐに捕まっちゃうような僕だから、万が一にでもキレられたら自分でどうする事も出来ないし、何よりも僕をこうして雇ってくれた女将さんに迷惑がかかるのは嫌なんだ。
学園が始まって僕の生活も元に戻った。
ブラッドも領地から帰ってきて、沢山のお土産をくれた。お菓子だ。
「それにしても公爵家の子息の件は無事に片付いて良かったね」
僕の淹れた紅茶を飲みながらブラッドがそう言った。
「え? どういう事?」
「何だい? 知らなかったのかい? 街のマルシェを取り仕切る者から何度も苦情が入ったらしい。貴族が沢山の護衛を引き連れて買い物をするでもなく長時間そこに居座って販売の妨害をするってね」
なんと!
「代表者だけでなく、買い物をする客や店の店主たちからも直接街の役人の方に文句が行ったとか。それがあの地区の貴族に伝わって、巡り巡って父親である公爵に伝わって、お前は何をしているんだって話になってお叱りを受けたらしいよ。マルシェは出禁。子爵子息に会うのも禁止」
「出禁と禁止?」
そうか、それでいきなり来なくなったのか。それにしても出禁。しかも禁止。
「ところでさ、サミュエルの所って、高位の貴族とどこか繋がりがあるの?」
「へ? そんなものあるわけないでしょ」
あったらあんなに貧乏じゃないと思う。
「そうなんだ。ふ~ん。いや、いくらマルシェやその地域を管轄している貴族からの声が上がっても、こちらに全くお咎めがなく、こんな風になるってあんまりない事だからさ。何か動いたのかなって思って」
「えええ、お咎め!? でもエマーソン家に限ってどこかに繋がりがあるとかはないと思うよ。けど、良かった。公爵家の人とお付き合いなんて考えられないからね」
「ふふふ、普通はそこは玉の輿って喜ぶところだけどね。さすがサミュエル」
「え~、僕はこうしてお茶を飲んでお菓子を食べて幸せって思っている方がいいな」
そう言って僕はブラッドがくれたマドレーヌをパクリと食べた。
ああ、幸せ。よし、また小さな幸せ集めをしていくぞ。
あ、フィルにも夕飯の時にブラッドのお菓子を一つあげてこの話をしようっと。
「いえ、こちらこそありがとうございました。これでまた本が買えます」
そう言って僕は食堂の女将さんにぺこりと頭を下げて、頂いたものをしっかりとバッグに入れて転移をした。
約2ヶ月のバカンスシーズンが終わろうとしている。
始まりに色々あったけれど、休み中に特に大きな問題はなく過ごせた。
あれから黒髪騎士のダリオンさんは食堂には来るけれど、ちょっとでも俺に個人的に話しかけるような人がいると女将さんの喝が飛ぶため、お店の中で俺に話しかける事は出来ない。
そして女将さんから直接転移を認められている為、俺は直接店に来て、直接自分の寮部屋に帰るので、全く個別にお会いする隙なしなのである。
なんなら最近は受けた注文も、マルクが運んでくれるから、顔つきがかなり暗い。
なんかこれでいいのかなって思うけど、でも彼が好きなのはロイで、ロイはほんとはいないからさって思う事にした。だって、返事をしてもごめんなさいしか言えないから。
一度フィルに聞いたら「馬鹿、付け入る隙を与えてどうする」と言われた。
そういうものなのかな。ごめんね。でも僕、誰かとお付き合いするつもりはないんだ。今のところはこれからの為にお金を稼ぐ事と、試験に受かるように勉強して、ちゃんと卒業する事で精いっぱいなんだ。
ささやかな幸せを集めながら、これからの幸せを呼び寄せる、そんなおまじないみたいな事を信じちゃうくらいに。
だからね。僕の態度を見て判ってほしいの。
それはとても狡い事なんだけれど、ちゃんとお付き合いできませんって言えばいい話なんだろうけれど。
逃げ出してもすぐに捕まっちゃうような僕だから、万が一にでもキレられたら自分でどうする事も出来ないし、何よりも僕をこうして雇ってくれた女将さんに迷惑がかかるのは嫌なんだ。
学園が始まって僕の生活も元に戻った。
ブラッドも領地から帰ってきて、沢山のお土産をくれた。お菓子だ。
「それにしても公爵家の子息の件は無事に片付いて良かったね」
僕の淹れた紅茶を飲みながらブラッドがそう言った。
「え? どういう事?」
「何だい? 知らなかったのかい? 街のマルシェを取り仕切る者から何度も苦情が入ったらしい。貴族が沢山の護衛を引き連れて買い物をするでもなく長時間そこに居座って販売の妨害をするってね」
なんと!
「代表者だけでなく、買い物をする客や店の店主たちからも直接街の役人の方に文句が行ったとか。それがあの地区の貴族に伝わって、巡り巡って父親である公爵に伝わって、お前は何をしているんだって話になってお叱りを受けたらしいよ。マルシェは出禁。子爵子息に会うのも禁止」
「出禁と禁止?」
そうか、それでいきなり来なくなったのか。それにしても出禁。しかも禁止。
「ところでさ、サミュエルの所って、高位の貴族とどこか繋がりがあるの?」
「へ? そんなものあるわけないでしょ」
あったらあんなに貧乏じゃないと思う。
「そうなんだ。ふ~ん。いや、いくらマルシェやその地域を管轄している貴族からの声が上がっても、こちらに全くお咎めがなく、こんな風になるってあんまりない事だからさ。何か動いたのかなって思って」
「えええ、お咎め!? でもエマーソン家に限ってどこかに繋がりがあるとかはないと思うよ。けど、良かった。公爵家の人とお付き合いなんて考えられないからね」
「ふふふ、普通はそこは玉の輿って喜ぶところだけどね。さすがサミュエル」
「え~、僕はこうしてお茶を飲んでお菓子を食べて幸せって思っている方がいいな」
そう言って僕はブラッドがくれたマドレーヌをパクリと食べた。
ああ、幸せ。よし、また小さな幸せ集めをしていくぞ。
あ、フィルにも夕飯の時にブラッドのお菓子を一つあげてこの話をしようっと。
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