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……顕現せよ! 十戒魔法!
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……よし、発動に成功した。
私は十枚のカードが淡く光を放ったのを確認して……密かに胸を撫で下ろした。
「さて……それじゃあ……」
私はチラリと窓から外の様子を覗く。
先程から鳴り止まぬ悲鳴や轟音からある程度の予想はついているのだが……
「うっ……」
外の様子は私の予想以上に凄惨なものであった……まさしく地獄絵図。
一様にフード付きの外套を着込んだ集団……恐らくは敵であろう。 その集団が民衆に対して一方的な虐殺を繰り広げていたのだった。
閃光、灼熱、水流……彼らが呪文を唱え、その腕を振るうたびに一つ、また一つと命の灯火が潰えていった。
「……許せない」
内側からふつふつと湧き上がる激情を感じながら……私はこの身体に取り付けられた機構へと、セシリアの託した結晶の説明の通りに魔力を流していく。
私の魔力を感知して急回転を始める歯車。 その機構に力が満ちたのを確信した私は、三階に位置するこの場所の窓を蹴り破って飛び出すと共に……一枚のカードを取り出して叫んだ。
「顕現せよ……十戒の肆《安寧の障壁》!」
私の命令に従い、カードに込められた魔法が発動する───。瞬間、私の周りに展開された半透明の薄い膜が、周囲に放たれていた敵の魔法を全て吸収し、霧散させた。
私の魔法《安寧の障壁》の効果は至って単純。 カードに込められた魔力が尽きるまでの間……私を中心とした一定範囲内に絶対防御の結界を発動することである。
「な、何が起きた!?」
「馬鹿な! 我らの魔法の悉くが打ち消されるなど……一体誰の仕業だ!?」
突如として魔法を打ち消す力によって窮地に立たされた彼らは動揺を隠せていないようであった。
「みんな聞いて! 私の名前はアリドネ=ミストリア! あなた達を助けるために復活した……《原初の魔女》よ!」
呆気にとられる彼らを尻目に、私はセシリアによって両足に取り付けられた機構、その名も《魔力可動式ブーストエンジン》で空を縦横無尽にかけながら、生き残っている人々に向けて力の限り叫ぶ。
「原初の魔女だと?」
「バカな……。あのお伽噺の……?」
「でも……確かに今あの女が言ったことは……」
「……間違いない。 あれは間違いなく……原初様の魔法だッ!!!」
私の叫び声を聞いた周囲の人々が次々と口々に驚きの声を上げる中、リーダー格と思われる男が一人、高らかに笑い始めた。
「フハハッ!! これは面白い。まさか我々の計画にこんな形で邪魔が入るとは。だが……これでこそ面白くなるというものだッ」
「あなたがこの騒動を起こした張本人ね?」
「あくまで将軍ではあるが……俺がこの作戦の統括を任された者である。 このような価値の無い小国を落とすなど退屈で仕方がなかったが……《原初の魔女》とは面白い者が出てきたな!」
私は男の物言いに確かな怒りを覚えた。
「……そう。別にそれでもいいや。 邪魔するなら……消えてもらうから」
そうして私は新たに二枚のカードを引っ張り出した。
「まずは一枚……顕現せよ! 十戒の壱《孤高の玉座》!」
カードから眩い光が放たれると共に、状態を変化させて一つの玉座が完成した。
「ほう? それがお前の!」
「……なッ! あれはまさか……」
「……逃げろ! 取り返しのつかないことになるぞ!」
不敵に笑うリーダー格の男と対象的に、その取り巻きの敵たちが慌ただしく動き始める。
私の代名詞とも言えるこの魔法……かなり有名になっているようだ。
けど……もう遅いよ。
玉座に座った私はもう一枚のカードを手に持って発動させた。
「安心しなよ、死にはしないから。 それより辛いけどね。 ……十戒の陸《腐敗の時雨》!」
どす黒い雲が……天に現れる。
大きく広がるその雲は……やがてポツリポツリと雨を降らせ始めた。
そしてそれは瞬く間に豪雨となり、その場にいた全ての人間を濡らす。
「あ……うぁ……ああ」
「なんだこれ……身体が……腐っていく」
「やめてくれぇ!」
「苦しい……息ができない……」
私の魔法を受けて、次々と倒れ伏していく敵。 民衆は《安寧の障壁》で護っているから問題ない。
そして、私が護らずに倒れ伏す彼らが見ているのは全て幻想だ。
《腐敗の時雨》……この雨を受けた者は……その精神を少しずつ溶かされていくのである。
尤も、この魔法の本来の範囲はせいぜい人三人分程度である。
それならば何故このような大きな雲ができているのか?
それが《孤高の玉座》の権能である。 私が十戒魔法の中で一番最初に発現させたこの魔法の効果は強大無比にして、あまりに単純。
玉座に座って放つあらゆる魔法の範囲を大幅に拡大させる、というものである。
「さて……これで終わってくれたら楽なんだけど?」
豪雨が去った後……大きな笑い声が響いていた。
「そうつれないことを言うなよ。 俺はもっと……お前の魔法を見てみたい!」
倒れ伏す敵達の中にただ一人、リーダー格の男は余裕に満ちた表情で私の前に現れるのであった。
私は十枚のカードが淡く光を放ったのを確認して……密かに胸を撫で下ろした。
「さて……それじゃあ……」
私はチラリと窓から外の様子を覗く。
先程から鳴り止まぬ悲鳴や轟音からある程度の予想はついているのだが……
「うっ……」
外の様子は私の予想以上に凄惨なものであった……まさしく地獄絵図。
一様にフード付きの外套を着込んだ集団……恐らくは敵であろう。 その集団が民衆に対して一方的な虐殺を繰り広げていたのだった。
閃光、灼熱、水流……彼らが呪文を唱え、その腕を振るうたびに一つ、また一つと命の灯火が潰えていった。
「……許せない」
内側からふつふつと湧き上がる激情を感じながら……私はこの身体に取り付けられた機構へと、セシリアの託した結晶の説明の通りに魔力を流していく。
私の魔力を感知して急回転を始める歯車。 その機構に力が満ちたのを確信した私は、三階に位置するこの場所の窓を蹴り破って飛び出すと共に……一枚のカードを取り出して叫んだ。
「顕現せよ……十戒の肆《安寧の障壁》!」
私の命令に従い、カードに込められた魔法が発動する───。瞬間、私の周りに展開された半透明の薄い膜が、周囲に放たれていた敵の魔法を全て吸収し、霧散させた。
私の魔法《安寧の障壁》の効果は至って単純。 カードに込められた魔力が尽きるまでの間……私を中心とした一定範囲内に絶対防御の結界を発動することである。
「な、何が起きた!?」
「馬鹿な! 我らの魔法の悉くが打ち消されるなど……一体誰の仕業だ!?」
突如として魔法を打ち消す力によって窮地に立たされた彼らは動揺を隠せていないようであった。
「みんな聞いて! 私の名前はアリドネ=ミストリア! あなた達を助けるために復活した……《原初の魔女》よ!」
呆気にとられる彼らを尻目に、私はセシリアによって両足に取り付けられた機構、その名も《魔力可動式ブーストエンジン》で空を縦横無尽にかけながら、生き残っている人々に向けて力の限り叫ぶ。
「原初の魔女だと?」
「バカな……。あのお伽噺の……?」
「でも……確かに今あの女が言ったことは……」
「……間違いない。 あれは間違いなく……原初様の魔法だッ!!!」
私の叫び声を聞いた周囲の人々が次々と口々に驚きの声を上げる中、リーダー格と思われる男が一人、高らかに笑い始めた。
「フハハッ!! これは面白い。まさか我々の計画にこんな形で邪魔が入るとは。だが……これでこそ面白くなるというものだッ」
「あなたがこの騒動を起こした張本人ね?」
「あくまで将軍ではあるが……俺がこの作戦の統括を任された者である。 このような価値の無い小国を落とすなど退屈で仕方がなかったが……《原初の魔女》とは面白い者が出てきたな!」
私は男の物言いに確かな怒りを覚えた。
「……そう。別にそれでもいいや。 邪魔するなら……消えてもらうから」
そうして私は新たに二枚のカードを引っ張り出した。
「まずは一枚……顕現せよ! 十戒の壱《孤高の玉座》!」
カードから眩い光が放たれると共に、状態を変化させて一つの玉座が完成した。
「ほう? それがお前の!」
「……なッ! あれはまさか……」
「……逃げろ! 取り返しのつかないことになるぞ!」
不敵に笑うリーダー格の男と対象的に、その取り巻きの敵たちが慌ただしく動き始める。
私の代名詞とも言えるこの魔法……かなり有名になっているようだ。
けど……もう遅いよ。
玉座に座った私はもう一枚のカードを手に持って発動させた。
「安心しなよ、死にはしないから。 それより辛いけどね。 ……十戒の陸《腐敗の時雨》!」
どす黒い雲が……天に現れる。
大きく広がるその雲は……やがてポツリポツリと雨を降らせ始めた。
そしてそれは瞬く間に豪雨となり、その場にいた全ての人間を濡らす。
「あ……うぁ……ああ」
「なんだこれ……身体が……腐っていく」
「やめてくれぇ!」
「苦しい……息ができない……」
私の魔法を受けて、次々と倒れ伏していく敵。 民衆は《安寧の障壁》で護っているから問題ない。
そして、私が護らずに倒れ伏す彼らが見ているのは全て幻想だ。
《腐敗の時雨》……この雨を受けた者は……その精神を少しずつ溶かされていくのである。
尤も、この魔法の本来の範囲はせいぜい人三人分程度である。
それならば何故このような大きな雲ができているのか?
それが《孤高の玉座》の権能である。 私が十戒魔法の中で一番最初に発現させたこの魔法の効果は強大無比にして、あまりに単純。
玉座に座って放つあらゆる魔法の範囲を大幅に拡大させる、というものである。
「さて……これで終わってくれたら楽なんだけど?」
豪雨が去った後……大きな笑い声が響いていた。
「そうつれないことを言うなよ。 俺はもっと……お前の魔法を見てみたい!」
倒れ伏す敵達の中にただ一人、リーダー格の男は余裕に満ちた表情で私の前に現れるのであった。
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