機械仕掛けの魔法使い

わさびもち

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《原初の魔女》が目覚めた日

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 あぁ……こんな事になるって分かってたのに……どうして私は『この力』を追い求めちゃったんだろうか?
 燃え盛る洋館の中にただ一人、鎖で柱に縛り付けられた私は自らの愚かさを思い……小さく笑った。
 あぁ、笑おうにも声が出ないや。
 万が一にも『あの力』を使って逃げられないように、私の喉は焼き切られているのだから。

 眼前に迫る炎に対するせめてもの抵抗として払い除けようとしても……へし折られ、縛り付けられた私の両腕は思うようには動かない。
 あぁ……そうだ思い出した。 私はかつて一緒に冒険していた『あの子』の苦痛を少しでも和らげてあげたくて……『この力』を追い求めたんだった。
 あの頃は幸せだったなぁ……。

 頬を伝って流れた涙が地面に落ちることはなく、大口を開けた炎が私を飲み込んでいくのであった。

 やがて燃え尽きた洋館には、このような墓標が建てられるのであった。
 《多くを愛し、多くを尽くし、多くに裏切られその生涯を終えた偉大なる異形の魔女、アリドネ=ミストリア ここに眠る》

 ✻

「……がい、……お願い! 目を覚まして!」
「……!」

 その言葉を受けた私の意識は、頭に直接電流を流されたかのような衝撃と共に目を覚ました。

「……願いが……届いた!」
「……ッ!?」

 なぜ目が覚めた? なぜ私は生きている?
 色々と混濁していた私の思考は……眼前の少女の凄惨なる光景と共に一瞬で停止した。
 所々に傷を負い、赤く染まったドレスが元々の物なのか、彼女自身の血によって染められた物なのか分からないほどの大怪我を負っている少女が荒い息と共に何やら端末のようなものを操作していたのだから。

「時間がない……ッ。 私の話を聞いて、アリドネ=ミストリア! ……ッ! ぐあぁ……ッ!」
「なっ……え……ッ!?」

 息も絶え絶えの状態で、命の最後の灯火を奮い立たせて指を動かす彼女の鬼気迫る表情に圧倒された私は、困惑しながらも彼女の言葉に耳を傾ける。

「私は……ッ……この国の王女。 この国は……《魔法使いの国》に逆らった愚かな反逆国よ……ッ。 もう死んでしまったけれど……私の父も滅ぶこと覚悟であの国に反逆した……ハァ……ッ。 別に……その事は間違えではないと思ってる……ッ。 私達の役目は……あの国に反逆したいと願っている者たちの起爆剤となること」
「な、何を言って……」

 目の前の少女が何を言いたいのか全く理解できない私は、ただ呆然とすることしか出来ない。

「あなたの持つ《原初の魔法》なら、それを実現できるかもしれない! 私達の代わりにこの国を滅ぼしてほしいの! そうすれば……私は安心して死ねる……ッ。 あぁ……お願い、アリドネ=ミストリア……私の最後の願いを聞き届けてちょうだい!」

 少女の必死の懇願を受ける私の心は……正直な話揺れていた。
 人に尽くしたところで……結局あの時のように裏切られて終わるのではないだろうか?
 しかしそれでも……。

「……………分かった。引き受けるわ。 それで……私は何をすればいいの?」

 それでも私は……助けを求める人の存在を見捨てることはできなかった。

「これを……これを手にとっ……て……ッ」

 私に手渡された十枚のカード。 初めて触る質感であったものの……その能力は手に取るように理解できた。
 なぜならそれは……。

「それは……あなたの魔法を起動させるための十枚の……カード。 それを……私なりに復元させたものよ……ッ。 その力なら……きっと……ッ」
「……ありがとう」

 今にも事切れそうな少女の手から受け取ったカードを握りしめながら……私は小さく呟く。

「必ず成し遂げてみせる」

 こうして……私は再び戦うことを決意するのであった。

「最期にこの魔結晶を……。 あなたの魔力で解凍すれば……情報を取り出せる……から……」

 がくり、と崩れ落ちた少女を抱き寄せようと腕を動かした私は……その違和感に気がついた。
 両腕があった場所には、私の時代には到底存在しなかったような素材での義手が取り付けられていたのだ。 改めて全身を探ると……至るところに機械のようなものが取り付けられているのに気がついた。

「あなたを復活させるために……色々と付けさせてもらったわ。 殆ど残ってなかったから……ッ」
「……ありがとう。もしかしてだけど……私を復活させるためにそんな大怪我を?」

 私の問いかけに対して少女は、少し迷った後に静かに首を横に振った。

「確かにそうだけれど……あなたがそれを気負う必要は無い……わ。 勝手に私がやったことだもの。 寧ろあなたは怒っていいのよ? 勝手に眠りを覚まされたのだか……ら。 ……あぁ……もうお迎えが来たみたい……。 アリドネ=ミストリア。 勝手に復活させてごめんなさい。 どうかあなたの行く末に幸多からんことを」

 そう言い残した少女の身体が徐々に透けていき、遂には消えてしまったのを見届けて、私は自らの両頬を思い切り叩いた。
 そして……結晶を解凍した。

「『魔法使いの国』……か。 私も無関係じゃなさそうね」

 彼女の遺したカードを取り出した私は……頬を伝った涙が地面に流れ落ちるのを見ながら、そう呟いた。

「覚悟なさい。 この私が……いや、《原初の魔女》アリドネ=ミストリアが……後輩達に痛い目を見せてあげる。 だから安心して眠って……セシリア」

 私は私を復活させた少女の名前を呟くと共に……カードに魔力を通して叫ぶのであった。

「十戒魔法……発動!」
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