どうも初めまして! 異種族通訳者のアリスと申します!

わさびもち

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とりあえず……中間地点です……うぇえぇぇ……!

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「ふぃー! おーいジーナ! 一旦休憩にしとこーぜ?」
「え? もう辞めちゃうの? まだ出来るわよ!」

 王都から近いとある集落にて一組の男女が微笑ましく農業に取り組んでいた。
 汗を拭いながら休憩をとることを提案した青年……カムラには一つの秘密があった。 それは……近くにいる自分の交際相手ジーナに黙って一人のエルフとも関係を結んでいるということだった。
(ジーナには悪いが……あの子の料理はめちゃくちゃ美味かったからなぁ……)

「んー? どうしたの、カムラ?」
「……! あぁいや、何でもないんだ!」

 いつの間にか物思いに耽っていたカムラの意識を呼び戻したのは、他でもないジーナの声であった。
 取り繕うように慌てて前を見ると、少し頬を膨らませたジーナが顔を覗き込んでいた。

「……何? 私の顔に何かついてるの?」
「ん? あぁごめんごめん! やっぱりジーナは可愛いなって思ってさ!」
「なっ……もうっ! それよりもうひと頑張りするわよ!」

 何の気なしに言って見せたカムラの言葉に、ジーナは顔を赤らめる。 そして、恥ずかしさを紛らわすかのようにカムラに作業道具を渡して……足早に作業へと戻ってしまった。

「やれやれ……んじゃ、もうひと頑張りしますかねぇ……」

 そう呟いて、再び農作業を始めたカムラが思い出すのは森の中での一時。 
 今でも脳裏に焼き付いている、道に迷ってしまった彼が見かけた水浴びをしているエルフの姿であった。
 思わずグーパンチをしてしまった詫びにとカタコトの人類の言語を使いながらも必死に料理を振る舞ってくれた一人のエルフの美少女。
(はぁ……また会いたいなぁ。 どうにかならないかなぁ……)
 そう考えながら……カムラは懸命に農作業へと励むジーナをちらりと見やった。 そして……だらしなく笑みを浮かべる。
(いやいやしかし……ジーナも何という美しさ……まぁ正直言って飯はまずいんだが……)
 そう。 このカムラという男、超がつくほどの女好きであった。 彼が住んでいる村の人口が少ない上に、お眼鏡にかなう同年代の女子もジーナ以外にいなかったため今までは、なりを潜めていたのだが……かのエルフの少女と出会ってしまってからというもの、その存在を激しく主張していたのだった。

 はぁ……とため息を吐くカムラはこの時知らなかった。
 そのエルフの美少女……アーチェが自分の元に向かってきていることに。 そして……こののどかな雰囲気は、あと数日で修羅場へと変化してしまうことに。

 ★★★★★

『お~いアリス~? 大丈夫~?』
『……っっっ! ふぅっ……。 ………………おぇぇぇぇぇぇ!!!』
『うん……大丈夫じゃなさそうだね』

 街の近くに位置するとある森の一角にて、私は盛大に吐瀉物をまき散らしておりました。
 ……理由? 言うまでもないでしょう………………おぇぇぇぇ!

『ほら、アリス? 私のお水あげるよ。 とりあえずこれで口ゆすいで?』
『うぅぅぅ……。 恩に着ます』

 くちゅくちゅくちゅ……ぺっ!
 依然として口の中に嫌な感触は残っていますが……とりあえず幾分かはマシになりました。

『いやぁ……ごめんね? あれくらいなら耐えられると思ったんだけど……』
『確かに私達も少しばかり調子に乗り過ぎたが……あれくらいは耐えられると思ったんだがねぇ……』
『…………え? これってもしかして私が悪いんですか???』

 セシリアとアーチェさんから何とも言えない視線を送られて……私は思わず問い返してしまいました。 ……だって私、安全運転でって言ったよね???
 そう叫びたいところでしたが……あいにく今の私にそのような元気は微塵もありません……ちくせう。

『…………まぁ今回のところはおあいこってことにしておきます。 それはそうと……今日はあそこの街に泊まるんですよね?』
『そうそう! また皆で女子会だね!』
『『……うぅ』』

 昨日の記憶が蘇ってナーバスになる人が若干二名。 ちなみに私も含まれております。

『でも……早くないかい?』
『そうだねぇ……もう少し遅く出ても良かったかも???』
『……なんで予定より早いのか理由が知りたいですか? えぇ!?!?』

 軽く湧いてきた怒りをぐっと押しこらえる私。 えらいです。
 まぁ理由はともかくとしても……少し時間が余っちゃいますね……。

『……あ! だったらさ! ショッピングしようよ! ここの街って洋服でちょっと有名らしいよ?』
『へぇ! そうなんですか!』

 言うが早いか、街の入口へと駆け足で向かっていくアーチェさん。
 慌てて追いかける私達の方を振り返って……笑顔で口を開きました。
 
『うんうん! 私はあんまりお金もってないけど……二人がいるなら大丈夫だよねっ!』

 ……え? もしかして私達って財布役???

 
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