どうも初めまして! 異種族通訳者のアリスと申します!

わさびもち

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ホンレンソウ、大事ですよ???

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『杖さん! どうですか? なんかいい案が浮かびましたか?』
『……』

 物陰に潜んだ私は急ピッチで杖さんに問いかけました。
 あれ……? 応答がない!?

『杖さーん? 聞こえますかー?』
『……ごめん』
『……へ?』

 あまりに聞きなれない杖さんの謝罪の言葉に、私は少なからず驚きました。
 ……一体なぜ?
 その答えは誰でもない杖さん自身の口から語られました。

『さっきアンタに呼び出されたあとさ、ちょっとばかし眠いなーって思ってて? ほら、私ずーっと考えてたわけだし。 それで少しだけ仮眠を取ろうとして……』
『そのまま今まで眠っていたと』
『……そう』

 申し訳なさそうに呟いた杖さん。
 杖にも眠いって感覚があるのだなーと。 いつもならその程度の感想で収まるような事件ですが……今は状況が状況です。

「……おや? ここにいたのかいアリス。 急に飛び出して行ったからどうしたものかと思ったよ」
「あ!? セシリア!?」

 ふいっと唐突に顔を覗かせたセシリアに、私は慌てて杖さんを背中の方へと隠しました。
 私の行動に訝しげに首を傾げたセシリアでしたが、やがて私への手招きと共に「さあ。 早く行こうか。 オークさん達が待っているよ?」と先に行ってしまいました。
 ……はぁ。 もうこれは覚悟を決めるしかないですね。
 こうなったら誠心誠意謝り倒してやりますよっ!
 魔法大学時代、赤点ギリギリを低空飛行していた私の在籍を勝ち取り続けた必殺技『The土下座』の出番さんですね!

 そう勇んで再び会議室の扉の前へと舞い戻ってきた私ことアリス。
 こほんと一つ咳払いをした後にドアノブに手をかけ、ガチャリとその扉を開けました。

『ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!』
「「……えぇ!?」」

 目の前に飛び込んできた光景に驚嘆の声を上げる私とセシリア。
 なぜなら……オークさん達が揃いも揃って、腕立て伏せやら腹筋やらを行っていたから。

『なっ……何をやっているのですか!?』
『これはアリス殿。 いえ……折角なのでこのスキマ時間を筋肉の成長に活かそうかなと思いまして』
『そ……そうですか』
『時にアリス殿にセシリア殿。 ご一緒にいかがでしょうか? 皆で汗を流せば気持ちよく……』
『結構ですっ! そんな事より早く会議をさいか……あ』

 その時、私の頭に電流のように走ったひとつのひらめきアイデア
 何度もその考えを頭の中で反芻して……やがて確信しました。
 ───コレはいけるっ!

『ひらめきましたぁぁぁ!』
『『『アリス殿!?』』』

 叫び声とともに、机を大きくバァン! と叩いた私。
 その奇行に否が応でもオークさん達の視線が集中しました。

『貴方方のイメージアップを行う最善策。 それを紹介致しましょう』
『最善策?』

 ええ最善策です。
 ふっふっふっ……聞いて驚くがいいですっ!

『貴方方の特性……筋肉を活かして運営しましょう。 《オークが教える! マッチョへの道!》というキャッチコピーでジムを!』
『……ジム? それで我らのイメージアップが果たされるのでしょうか?』
『もちろん果たされますとも』

 なぜなら……筋肉を育てる為だけに人生を捧げているという方は、以外にも沢山いらっしゃるからです。
 オークさん達の筋肉は素人である私の目から見ても明らかにハイレベルなものです。
 キレてるよ! はち切れそうな大胸筋! って感じですね!

『あくまでジムというのは、オークさん方が人間と共存するためのきっかけにすぎません。 しかし……その筋肉があれば、よってくる人間は少なくないでしょう』
『『『なっ……なるほど』』』

 私の言葉に感心したように頷くオークさん達。
 即興でしたが我ながら名案なのではないでしょうか?

『杖さんなんていらんかったんや』
『……聞こえてるわよー』

 それは当然でしょう。
 だって聞こえるように言ったんですから。

『それでは私が出せる案はこれでおしまいですが……何か他にある方は……あ。 はいそこの方』

 私に当てられて立ち上がったオークさん。

『そういえば……我らはこの森から出てはいけないと、はるか昔に盟約を結んでいたのですが……』
『……はぁ!? 一体誰と?』

 そーんな馬鹿げた盟約を強制するなんて余程人の心がないやつでしょう!
 私が憤慨していると、オークさんは非常に気まずそうに口を開きました。

『ええと……魔王様です』

 なるほどなるほど。
 どうやら魔王さんは愚王のようですね。
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