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さて、一旦攫われたティティナことハルは、この国のファラオであるクフ王の目の前でガクガクと震えていた。
「あんなヒッタイトのやつと一緒に我から逃げる気だったのか?」
エジプトの王様がよく被っている金のマスクがギラリとひかる。
ひぇぇぇーーーー⁉︎
「め、めっそうもない!」
「なんだ? いつもなら反抗する所だろう? 何故そんなに怯えておる」
その言葉でハルは本来のヒロインの性格を思い出していた。
確か、天然で負けず嫌い。よくクフ王に噛み付いていたような……
そんな負けん気の強いヒロインは貴方に監禁されそうになってびびって逃げましたなんて言え……
そこまで考えてフッと無責任な手紙の存在を思い出す。
あ、言える。
うん、余裕で言えるわ。
証明できるし。
「あの~、これを読んでくれたらお分かりになるかと」
「なんだ?」
サッとハルが差し出した手紙を受け取るクフ王。順調に物事は進んでいた。
なんだぁ、ティティナからの手紙渡せば私は晴れて自由の身じゃない!
能天気なハルは、ニヤリと怪しげに唇が吊り上がったクフ王の顔を見ていなかった。
「ほう、お前がティティナが言っていた我の伴侶か。あやつ、いなくなったかと思ったら神官に監禁されそうになっておったか。だが、成功したようだな!」
ガシッと掴まれるハルの手首。
「へ?」
「ティティナから全て聞いておる。お前は我がティティナを監禁しようとしていたと勘違いしておるがソレは違うぞ? 我の名を語った神官がティティナを監禁しようとしたのだ。ティティナは神の子を宿す大事な依代」
は? 手紙には逃げてって……
「ふむ、大地の神に仕え、先読みの巫女であったティティナは"監禁エンドは神官ルートもあるの!"とか言っておったな」
その言葉にハッとなるハル。
そう言えば私、全部クリアしてない……⁉︎
攻略対象はクフ王と神官。クフ王までは攻略していたけれど神官ルートの方はまだ途中だった。
「うそぉ⁉︎」
そう言われればティティナが逃げ出せたのも頷ける。神官ルートならばもしかしたらハルの知らない話があってもおかしくない。"神官から逃げろ"そういうメッセージだったのかもしれない。
「その、ティティナを監禁しようとしていた神官はどうなったのですか」
「あやつは下エジプトに飛ばしてやったわ」
つまりは左遷。主要な王宮と神殿があるのは上エジプト。よって攻略対象の神官はいなくなったと言ってもいい。
なぁんだ、じゃあもう大丈夫か! とりあえず、ティティナがいた神殿に戻ろう!
そう思ったハルは、未だに手首を掴んでいるクフ王に恐る恐る「じゃあ、神殿に戻るので……」と言った。が、手の拘束はますますキツくなるばかり。
あれ? 心なしか目つきが……
「ならぬ」
「はい?」
「ならぬと言ったのだ。お前はハルというらしいな。ティティナに転生した以上、我のものだ」
……チョットナニイッテルカワカンナイ。
理解できなかったハルはもう一度繰り返す。
「神殿に戻ります。私は見た目はティティナですが、中身はティティナじゃないんです」
「知っておる」
「じゃあ……」
「ハルはティティナに転生したであろう?」
「手紙にはそう書いてありますけど……」
「ならば我のものだ」
あれ? 会話が続いているようでそうでないように感じるのは私だけかな?
「ハルはティティナが呼んだ神だ。我はクフ王。神である」
「そうなんですね」
よく分からないので、適当に相槌を打っていたハルはクフ王の次の動作に反応できなかった。
「神が他の神に仕えるなどおかしいであろう? ティティナは巫女だがハルは神だ」
「私は神じゃないですよ。人間です。地球人です。言いようによっては宇宙人とも言えますね。ええ、ですから神ではありませんよ。神ではないです」
グイッと引き寄せられ、顔を寄せられる。
顔の筋肉を総動員して、ポーカーフェイスで凌ぐハルだが、内心バクバクと心臓が破裂しそうだった。
ちーかーい! ソーシャルディスタンス‼︎ 何故、何故抱き寄せる!?
「チキュウ? ウチュウジン? やはりハルは我とは違う。その頭の中には我の知らない知識が沢山あるのだろうな」
「ない、ないです。スッカラカンです。私、勉強サボってたんです。ごめんなさい、役に立てませんね。じゃあ!」
「待て」
いーやぁぁぁぁあ! かお、何故顔を寄せる‼︎ キープディスタンス‼︎ プリーズ! ヘルプミー!
そろそろ唇がくっつきそうである。
「ふむ、ハルは今の状況がよく分かってないようだな。後でまた来る」
「え?」
何度めかのやり取りの後、らちがあかないと見たクフ王によってハルは部屋に閉じ込められる事になったのだった。
ふかふかのベットの上、ギィと閉じる扉を呆然と見ながらハルはポツリと呟く。
「え? 神官ルートの監禁エンドは回避したんだよね? 今ってどういう状況?」
「あんなヒッタイトのやつと一緒に我から逃げる気だったのか?」
エジプトの王様がよく被っている金のマスクがギラリとひかる。
ひぇぇぇーーーー⁉︎
「め、めっそうもない!」
「なんだ? いつもなら反抗する所だろう? 何故そんなに怯えておる」
その言葉でハルは本来のヒロインの性格を思い出していた。
確か、天然で負けず嫌い。よくクフ王に噛み付いていたような……
そんな負けん気の強いヒロインは貴方に監禁されそうになってびびって逃げましたなんて言え……
そこまで考えてフッと無責任な手紙の存在を思い出す。
あ、言える。
うん、余裕で言えるわ。
証明できるし。
「あの~、これを読んでくれたらお分かりになるかと」
「なんだ?」
サッとハルが差し出した手紙を受け取るクフ王。順調に物事は進んでいた。
なんだぁ、ティティナからの手紙渡せば私は晴れて自由の身じゃない!
能天気なハルは、ニヤリと怪しげに唇が吊り上がったクフ王の顔を見ていなかった。
「ほう、お前がティティナが言っていた我の伴侶か。あやつ、いなくなったかと思ったら神官に監禁されそうになっておったか。だが、成功したようだな!」
ガシッと掴まれるハルの手首。
「へ?」
「ティティナから全て聞いておる。お前は我がティティナを監禁しようとしていたと勘違いしておるがソレは違うぞ? 我の名を語った神官がティティナを監禁しようとしたのだ。ティティナは神の子を宿す大事な依代」
は? 手紙には逃げてって……
「ふむ、大地の神に仕え、先読みの巫女であったティティナは"監禁エンドは神官ルートもあるの!"とか言っておったな」
その言葉にハッとなるハル。
そう言えば私、全部クリアしてない……⁉︎
攻略対象はクフ王と神官。クフ王までは攻略していたけれど神官ルートの方はまだ途中だった。
「うそぉ⁉︎」
そう言われればティティナが逃げ出せたのも頷ける。神官ルートならばもしかしたらハルの知らない話があってもおかしくない。"神官から逃げろ"そういうメッセージだったのかもしれない。
「その、ティティナを監禁しようとしていた神官はどうなったのですか」
「あやつは下エジプトに飛ばしてやったわ」
つまりは左遷。主要な王宮と神殿があるのは上エジプト。よって攻略対象の神官はいなくなったと言ってもいい。
なぁんだ、じゃあもう大丈夫か! とりあえず、ティティナがいた神殿に戻ろう!
そう思ったハルは、未だに手首を掴んでいるクフ王に恐る恐る「じゃあ、神殿に戻るので……」と言った。が、手の拘束はますますキツくなるばかり。
あれ? 心なしか目つきが……
「ならぬ」
「はい?」
「ならぬと言ったのだ。お前はハルというらしいな。ティティナに転生した以上、我のものだ」
……チョットナニイッテルカワカンナイ。
理解できなかったハルはもう一度繰り返す。
「神殿に戻ります。私は見た目はティティナですが、中身はティティナじゃないんです」
「知っておる」
「じゃあ……」
「ハルはティティナに転生したであろう?」
「手紙にはそう書いてありますけど……」
「ならば我のものだ」
あれ? 会話が続いているようでそうでないように感じるのは私だけかな?
「ハルはティティナが呼んだ神だ。我はクフ王。神である」
「そうなんですね」
よく分からないので、適当に相槌を打っていたハルはクフ王の次の動作に反応できなかった。
「神が他の神に仕えるなどおかしいであろう? ティティナは巫女だがハルは神だ」
「私は神じゃないですよ。人間です。地球人です。言いようによっては宇宙人とも言えますね。ええ、ですから神ではありませんよ。神ではないです」
グイッと引き寄せられ、顔を寄せられる。
顔の筋肉を総動員して、ポーカーフェイスで凌ぐハルだが、内心バクバクと心臓が破裂しそうだった。
ちーかーい! ソーシャルディスタンス‼︎ 何故、何故抱き寄せる!?
「チキュウ? ウチュウジン? やはりハルは我とは違う。その頭の中には我の知らない知識が沢山あるのだろうな」
「ない、ないです。スッカラカンです。私、勉強サボってたんです。ごめんなさい、役に立てませんね。じゃあ!」
「待て」
いーやぁぁぁぁあ! かお、何故顔を寄せる‼︎ キープディスタンス‼︎ プリーズ! ヘルプミー!
そろそろ唇がくっつきそうである。
「ふむ、ハルは今の状況がよく分かってないようだな。後でまた来る」
「え?」
何度めかのやり取りの後、らちがあかないと見たクフ王によってハルは部屋に閉じ込められる事になったのだった。
ふかふかのベットの上、ギィと閉じる扉を呆然と見ながらハルはポツリと呟く。
「え? 神官ルートの監禁エンドは回避したんだよね? 今ってどういう状況?」
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