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兵士達が去ったのを確認してハルは逃亡に向けて動き始めた。
アルビノといえば真っ白な肌に赤い瞳。目立つ事間違いないよね。
辺りを見渡せば、パピルスの群生地が目に入る。服は平民服などではなく、乙女ゲームでも巫女達が着ていたワンピースのようなものだった。
ティティナは巫女であるが、クフ王に見染められて王宮へと連れてこられる。そこから乙女ゲームが始まるのだが……
「逃げたってことは、タダでは済まないよね……?」
肌を隠すのは布を巻き付ければいいけど、どうしても足首なんかは見えるし、顔だってバレる。
「応急処置で泥でもつけとくか」
幸い、ここら辺は湿地帯のようなので泥を探すには困らない。せっせと塗り広げある程度まで黒くしたところで、満足したハルは再び布を巻き付けた。
「よし、攻略対象に会わなくていいのは……」
ヒッタイトという国名が頭の中に浮かび上がる。乙女ゲームでは他国名は出てこなかった。せいぜい神官と王と王の甥が出てきたぐらいだ。
「ヒッタイトに行こう。そこまで行けばなんとかなるでしょ」
立ち上がり、ゆっくりと沢山の人で賑わっている大通りへ向かう。
乙女ゲームが古代エジプトを題材にしているのは分かっていたが、大通りにズラリと並ぶ市場にハルは目をキラキラと輝かせた。
「うわぁ、すごい!」
頭の上に果物が沢山乗ったカゴを乗せ、運ぶ人々や、パピルスを叩いて紙に加工する人々。野菜を売る人々。
現代では見られない光景が目の前にはあった。
「邪魔邪魔、ちゃんと前見て歩きな」
「あ、すみません」
大きな反物を持ったおじさんとぶつかり、ジロリと睨まれてしまう。しかし、そんな事ではハルの興奮は収まらなかった。
そんなハルの肩にポンと手を乗せる人物がいた。
「はい!?」
長年の癖で大きな返事をしてしまうハル。
「いい返事ですね。さっきあそこの茂みから出てきましたよね? 少し盗み聞きしてしまったんだけど、ヒッタイトに行くなら一緒に行くかい?」
「え?」
振り返ったハルは顔を布で覆った人物を目に捉える。ラクダを連れており、背には綿織物を沢山乗せていた。行商人のような出立ちで、声から男性だとかろうじて判断できる。
「いや、私なにも持ってないですよ?」
「ああ、いいんです。そのままで……ちょっとこっちに来てもらえますか?」
ちょいちょいと手招きをされ、裏路地へ誘われる。
そんな怪しさ満点のところに誰が行くか! そう思ったハルだが、次の言葉で渋々彼について行った。
「見たところ何かに追われているようですし、裏路地の方が話しやすいでしょう?」
「あ、そうですよね」
心配してくれたのね、失礼なことをしてしまったな……
そう思ったハルは促されるままに裏路地へ向かった。それが最大の誤ちとなる。現代人のハルは警戒という物が無いに等しかったのだ。
「あなた、ティティナ様でしょう?」
「え"⁉︎」
「ふふ、こんなところで出会えるなんて! 一緒に我が国に来ていただきましょうか!」
バサッと布を被され、ぐるぐる巻きにされる。
「少し苦しいとは思いますが、この国から出るまでです。少しの間辛抱してくださいね」
そう言われて、口に布を詰め込まれた。
「むぅ⁉︎ んん! んんんんん‼︎」
卑怯者! なんでティティナが他国に攫われるのよ! おかしいでしょうが‼︎
そう言いたいが、布のおかげで唸り声にしかならない。ハルはそのままラクダに乗せられ、連れ去られる。
「ああ、クフ王の謁見の際に貴方を見て一目惚れでした。クフ王も貴方を溺愛していらっしゃるようですし、外交にも役立つでしょうね。ふふふ……」
暗くなった視界の中、さわり……と布の上から撫でられる感触にゾワリと鳥肌が立つハルであった。
アルビノといえば真っ白な肌に赤い瞳。目立つ事間違いないよね。
辺りを見渡せば、パピルスの群生地が目に入る。服は平民服などではなく、乙女ゲームでも巫女達が着ていたワンピースのようなものだった。
ティティナは巫女であるが、クフ王に見染められて王宮へと連れてこられる。そこから乙女ゲームが始まるのだが……
「逃げたってことは、タダでは済まないよね……?」
肌を隠すのは布を巻き付ければいいけど、どうしても足首なんかは見えるし、顔だってバレる。
「応急処置で泥でもつけとくか」
幸い、ここら辺は湿地帯のようなので泥を探すには困らない。せっせと塗り広げある程度まで黒くしたところで、満足したハルは再び布を巻き付けた。
「よし、攻略対象に会わなくていいのは……」
ヒッタイトという国名が頭の中に浮かび上がる。乙女ゲームでは他国名は出てこなかった。せいぜい神官と王と王の甥が出てきたぐらいだ。
「ヒッタイトに行こう。そこまで行けばなんとかなるでしょ」
立ち上がり、ゆっくりと沢山の人で賑わっている大通りへ向かう。
乙女ゲームが古代エジプトを題材にしているのは分かっていたが、大通りにズラリと並ぶ市場にハルは目をキラキラと輝かせた。
「うわぁ、すごい!」
頭の上に果物が沢山乗ったカゴを乗せ、運ぶ人々や、パピルスを叩いて紙に加工する人々。野菜を売る人々。
現代では見られない光景が目の前にはあった。
「邪魔邪魔、ちゃんと前見て歩きな」
「あ、すみません」
大きな反物を持ったおじさんとぶつかり、ジロリと睨まれてしまう。しかし、そんな事ではハルの興奮は収まらなかった。
そんなハルの肩にポンと手を乗せる人物がいた。
「はい!?」
長年の癖で大きな返事をしてしまうハル。
「いい返事ですね。さっきあそこの茂みから出てきましたよね? 少し盗み聞きしてしまったんだけど、ヒッタイトに行くなら一緒に行くかい?」
「え?」
振り返ったハルは顔を布で覆った人物を目に捉える。ラクダを連れており、背には綿織物を沢山乗せていた。行商人のような出立ちで、声から男性だとかろうじて判断できる。
「いや、私なにも持ってないですよ?」
「ああ、いいんです。そのままで……ちょっとこっちに来てもらえますか?」
ちょいちょいと手招きをされ、裏路地へ誘われる。
そんな怪しさ満点のところに誰が行くか! そう思ったハルだが、次の言葉で渋々彼について行った。
「見たところ何かに追われているようですし、裏路地の方が話しやすいでしょう?」
「あ、そうですよね」
心配してくれたのね、失礼なことをしてしまったな……
そう思ったハルは促されるままに裏路地へ向かった。それが最大の誤ちとなる。現代人のハルは警戒という物が無いに等しかったのだ。
「あなた、ティティナ様でしょう?」
「え"⁉︎」
「ふふ、こんなところで出会えるなんて! 一緒に我が国に来ていただきましょうか!」
バサッと布を被され、ぐるぐる巻きにされる。
「少し苦しいとは思いますが、この国から出るまでです。少しの間辛抱してくださいね」
そう言われて、口に布を詰め込まれた。
「むぅ⁉︎ んん! んんんんん‼︎」
卑怯者! なんでティティナが他国に攫われるのよ! おかしいでしょうが‼︎
そう言いたいが、布のおかげで唸り声にしかならない。ハルはそのままラクダに乗せられ、連れ去られる。
「ああ、クフ王の謁見の際に貴方を見て一目惚れでした。クフ王も貴方を溺愛していらっしゃるようですし、外交にも役立つでしょうね。ふふふ……」
暗くなった視界の中、さわり……と布の上から撫でられる感触にゾワリと鳥肌が立つハルであった。
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