上 下
13 / 18

12.

しおりを挟む
 トワとオリビアと共に、私はナルバ帝国に向かっていた。
 私が逆行前に散々お世話になった国だ。
 魔の森を挟んで睨み合う2大国とは違い、そこまで魔の森に執着していない。

 広大で肥沃な土地をもつ農業国、どちらかと言うとのんびりした人々が多いのがナルバ帝国の特徴だ。

 そして私たちはオリビアの浮遊魔法で空を飛んでいた。

「空を飛べるのは楽しいですね」
「そうだね。まさかオリビアが飛べるなんて知らなかったよ」
「お褒めいただきありがとうございますわ。リン様のお力のおかげです」

 ニコッと笑う東洋美人。そんな姿に見惚れながらも私は魔の森に不穏な気配を感じた。

「うーん、空気弾エア・バレット

 こっそり、脅しの意味も込めて適当に放っておく。

「リン様?」
「どうかしましたか?」

 私の様子がおかしいことに気づいた2人が心配そうに私を見ていた。

 ありゃ、楽しい旅が台無しになっちゃう。

「ああ、ちょっと気になってたことがあってね! オリビア! 私リンって呼び捨てしていいって言ったのになんで様付けなの? それに敬語使ってる!」

 グルンと空中でオリビアの方を向き、質問する。

「それは……」
「それは?」
「慣れてしまったもので……直せないんですよ」

 あら、そうなの? 

「じゃあ仕方がないね。オリビアは私のお母さんみたいなものだから……」
「ありがとうございます。オリビアはそう言ってもらえて嬉しいです」
「へぇ、じゃあオリビアさんは元々人間だったんですか?」

 トワが不思議そうにオリビアを見ている。そりゃ大聖女が元人間だったなんてトワ達からしてみれば信じられないのだろう。
 なんせ聖女ですら神族が作り出した新種族なのだから。劣化版といった方が分かりやすいけど……

「オリビアは私のスキルで大聖女に進化? したの。私の恩人なのよ」
「なにを言いますか! リン様こそ私の恩人ではないですか」

 憤慨したように言い返すオリビアにニコッとトワが笑いかける。

「リン様が大好きなんだな。俺と同じだ」
「あら、よく分かってるじゃないですか」

 今、オリビアとトワの中で何かが繋がったようである。私は知らん。聞いてないぞ。
 絶対入ったら面倒なことになると思った私は、キョロキョロと辺りを見回していた。

 そろそろ、城壁が見えてきても良さそうなんだけど……

「あ、あった! 見えたわ‼︎」

 ついに、私の視界に入った懐かしい城壁に思わず声を上げる。

「……私にはまだ見えませんね」
「俺はちょびっと点みたいなのが見える」

 遠すぎたようだ。
 
 しばらく飛び続けていると、オリビアやトワもしっかり見えてきたようで、

「あ、あれですね! 立派な城門ですねぇ」
「ありゃあ、特殊な土を使ってますね。知りたい……」

 などと歓声をあげていた。

「そろそろ降りて、歩こうか」

 荷台を宙に浮かせて運ぶ者達なんて、怪しい者以外何者でもないだろうからね。

「分かりました。あそこに少し空間があるのでそこに下ろしますね」
「うん、お願い」

 フワッと降り立つオリビアとそれに続く荷台と私とトワ。

「おお~なんかふわふわする」
「俺もしますね」
「長く宙に浮いていたからでしょうね。さ、行きましょうか?」

 フードを被り直し、コクンと頷く。

 こうして私たちはナルバ王国へ気を新たに向かったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女である私が祈る事をやめた時、どうなるかわからないのですか?

十条沙良
恋愛
婚約者に裏切られるなんて思ってもいなかった。

それじゃあエルガ、後はお願いね

みつまめ つぼみ
恋愛
 アルスマイヤー男爵家の令嬢ユーディトは、突然聖教会から次期大聖女に指名される。断ることもできず、彼女は一年間の修行に出ることに。親友のエルガに見送られ、ユーディトは新たな運命に立ち向かう。  しかし、修行を終えて戻ったユーディトを待っていたのは、恋人フレデリックと親友エルガの結婚という衝撃の知らせだった。心の中で複雑な感情を抱えながらも、ユーディトは二人の結婚式に出席することを決意する。 サクッと書いたショートストーリーです。 たぶん、ふんわりざまぁ粒子が漏れ出ています。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

処理中です...