無惨に殺されて逆行した大聖女の復讐劇〜前世の記憶もついでに取り戻したので国造って貴国を滅ぼさせていただきます

ニコ

文字の大きさ
上 下
6 / 18

5.

しおりを挟む
 スタッと静かに敵の近くの木に降り立つグル。

「おい、人間なんて本当にいるのか?」
「魔の森に聖女が現れたと聞いただろう。俺達は今からユリアの死体回収じゃなくて、人間を拉致る任務になったわけだ」
「へへっ! じゃあ前のユリアって言ったっけ? あれのお母さんと同じ状況だね」
「ああ、アレは楽しかったな」
「なかなかの獲物だった」

 眼下には楽しそうな顔で話す大勢の人族。ガレア王国が派遣した真影部隊だ。

「…………っ‼︎」

 無言で見つめる。が、次の瞬間グルは強い殺気を感じ慌ててオリビアの方を見た。そこにはギリっと奥歯を噛み締め、人族を睨みつけるオリビアがいた。

「やはり……! お前らが奥様を‼︎」

 次の瞬間、オリビアは人族の前に現れていた。そう、目に追えぬほどのスピードで地上に降り立ったのだ。

「あーあ、私の獲物無くなった。でもまぁしょうがないかな」

 オリビアの表情からは憎悪が見てとれた。今回は自分の出る幕じゃない。オリビアからそう感じ取ったグルは木の上で諦観を決め込んだ。

「おはようございます、皆さま?」

 一方でオリビアはたおやかな笑みを浮かべて真影部隊と向かい合っていた。

「お⁉︎ 女じゃねぇか! ヒュー別嬪さんだな」
「へぇ、こんな森に……やはり、冒険者か?」
「なぁ聖女っぽくね?」

 好き勝手言い出す人族にオリビアはすうっと目を細める。

「私が誰だとかは関係ありません。それよりも一つお聞きしたいことがありまして」

 オリビアの問いに、1人の真影部隊の男が列から出てきた。目に傷を負った如何にも柄の悪そうな男。それがオリビアの男への第一印象だった。その男が徐ろに口を開いた。

「いいぜ。俺がここのリーダーだ。質問に答えてやる」
「まぁ、ありがとうございます。では、ユリア様のお母様のお話を聞かせていただけますか? どうやら何か私の知っている話とは違いまして……」
「なんだ、そんな事か」

 そう言ったリーダーの顔は下品に笑み崩れていた。

「アレはもう20年程前になるか……」

 そう言って自慢げに語られたのは衝撃の事実。

「あの女は良かったぜ? 俺には鑑定具ってのを持たされてるんだがな、聖女だってバレた瞬間逃げたんだ。その後は真影部隊の皆んなで獲物の追いかけっこだ。聖魔法が少し使えたらしくって、ちょこまかと逃げ回っていたが、この俺様が仕留めたんだよ。アァ、あの顔は堪んなかった。思わずなん発も腹に拳をお見舞いしてやったほどだよ。しっかし、聖女ってのは便利だよなぁ? 傷があっという間に治るんだからよぉ」

 ケタケタと笑うリーダーに周りの真影部隊の部員達も釣られて笑い出す。

「んで、最後は子を孕ませて魔石取り出してズドンッてわけ。これで良かったかな? 聖女様よぉ」
「ええ、これで私のすべきことが分かりました。罪悪感を感じずに済みます」

 ほろほろと涙をこぼすオリビアの顔は怒りで歪んでいた。

「おいおい、お前はもうバレてんだぜ? ほらコレが聖女を見分ける鑑定具。緑色に光れば聖女ってわけだ。ほぉ~ら、同じ目に会いたくなかったら逃げてみろヨォ。俺達が相手してやるから。な? 聖女様」
「ふふ、お前達に何ができると言うのです? 今まで犯してきた罪を償え贖罪コンフェシオン

 瞬間、空から降ってくる大小様々な氷柱ツララ。それは真影部隊達を串刺しにした。……反応する隙も与えずにーー

「がっ⁉︎」
「いぎっ⁉︎」
「いだぁぁぁぁあ!」
「ぎゃぁぁぁ⁉︎」
「嘘だ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ゆ、許してくれ! 許せ許せ許せ許せ許せ……」

 途端阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれる。

「その氷柱に触れたものは自身がやってきた悪事を全て体験することになります。全て幻覚ですが一応痛みも感じる様にしていますので、精々後悔してなさい」
「あぐぅ⁉︎ クソガァ!」

 オリビアが放ったスキルは100名いたグルガ王国の精鋭を一瞬にして片付けてしまった。

「派手にやりましたね」
「そうですか? 多分、ショック死するでしょうね。これだけで勘弁してあげたのを感謝して欲しいものですよ」

 グルが呆れながら言えば、ニコリと微笑むオリビア。そこにはリンに見せる優しい笑みなどではなかった。少し歪な笑み、悲しみが混ざった笑みだった。

「私はねぇ、ユリア様のお母様に拾われたのですよ。"この子をお願いします"と言われて屋敷を出ていかれました。その直後に物言わぬ死体となって帰って来ましたけれどね。奥様、約束はきちんと果たします。ユリア様は奥様に似てとても優しい子に育ちましたよ」
「グルもリン様好き。だからオリビア、リン様の障害となるものは真っ先に片付けようね」
「ふふっ、そうですね。ですが、拗ねるといけないので今度からは知らせておきましょう。ギアとか言った者も気付いているはずですし。リン様もおそらく気づいておられるでしょうからね」
「分かったわ」

 丁度いいタイミングで、死亡した侵入者をグルのスキルで跡形も無く消す。

雲霧ヴォルケネベル

 スウッと解けるように空気中に消えていく死体達。証拠は無くなった。血痕もない。あくまで真影部隊はショック死だったのだから。

「さぁ、行きましょう」
「うん」

 2人は再び洞窟の方へ戻って行ったのだった。

 この日、ガレア王国が世界に誇る暗殺部隊【真影部隊】が世界から消えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...