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3.性欲vs睡眠欲
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「力」の種明かしから数日が経った。
パソコンに保存していたお気に入りの画像は全て削除した。
解消することの出来ない、ただ溜まっていく性欲はアキヒロを苦しめた。
契約の代償として自慰行為を行うことができず、女性に触れても何も感じることが出来ない体になってしまったが、性欲が無くなるわけではなかった。
今まで通りの性欲のまま、それを解消するための手段だけを制限するという性欲真っ盛りの男子高校生にとっては地獄のような契約だった。
アキヒロは以前よりたくさんの睡眠をとるようになった。
満たされることのない性欲に、同じく人間の三代欲求である睡眠欲で対抗しようとした。
眠っている間はつらいことを忘れられる。
しかしずっと眠り続けるわけではない。
日中何の活動もしないまま夜を迎えたり、昼寝をし過ぎたりすると夜に眠れなくなってしまう。
平日は学校があるため否が応でも早起きするしかない。そのため、夜は比較的スムーズに寝ることが出来る。
問題は休日だ。
ゲームをしようにも女性キャラがきわどい服装で出ようものなら苦しむことになる。
アニメ、漫画の類も同様だ。魅力的な女性がいたら辛い。
そのため、アキヒロは睡眠を取るために運動するようになった。
晴れの日は人通りの少ない河川敷をランニングし、雨の日は自宅で筋トレを行い、体を疲れさせた。
そうして、毎日を過ごすことにした。
ある日の休日、河川敷をランニングしていた時だった。
「戦わないの?」
不意に後ろから声がした。
ふりむくと、そこにはあの女がいた。
アキヒロに力を、そして苦しみを与えた全ての原因である女だ。
「こんな力を持った者同士が戦えば怪我をする。いや、怪我だけじゃすまないかもしれない」
「負ければ死ぬかもしれないんだろ?」
「そうね」
「おれは力を奪われたくないし、もちろん死にたくもない」
「そう」
女は納得したような表情をした。
アキヒロにはその顔が「つまらない」と主張しているようにも見えた。
「戦うも戦わないもあなたの自由だけど、戦う気になったいつでも言いなさい。場所と相手はこっちで用意することが出来るから」
「そして、これだけは言っておくわ」
女はアキヒロに近寄り、耳元で囁いた。
「戦うってキモチイイわよ。あなたの体にべっとりついたその性欲を吹き飛ばしてくれるくらい……ね」
そのささやきにアキヒロの心臓は鼓動を速めた。
契約の女はアキヒロの顔を見て怪しく微笑んだ。
「じゃあね、ボウヤ」
気付いたら女はいなくなっていた。
アキヒロはやりきれない気持ちを吹き飛ばすように全力で走った。
心臓の高鳴りがうるさいほどに聞こえていた。
『力』を得て、三ヶ月が経った。
性欲を解消できないことは苦しいが、『力』を得たことによってアキヒロの心には余裕のような者が生まれていた。
夜に発生するパーティーピーポーも、未成年飲酒、喫煙を行なう不良も、腕に入れ墨を入れた怖そうなおじさんも、トラブルが発生したら腕っ節でどうにか出来ると思えたからだ。
だが、アキヒロは人前で力を使うことを避けた。
人前で力を使えばいろいろと面倒なことになることは理解していたからだ。
そんな苦しみと余裕が同居するある日のことだった。
学校からの帰り道、チャラチャラとした男三人組に絡まれている女の子がいた。
「オレらと遊んでこうよ~」
「きっと楽しいからさ、ね?」
「……やめてください」
チャラチャラとした男三人組は聞く耳を持たなかった。
「あーー? 声がちっちゃくて聞こえませーーん」
「ほら、さっさと来いよ」
男は女の子の腕を掴んだ。
「やめろよ」
アキヒロは後ろから男の肩を掴んだ。
「あ? なんだてめぇは」
「セイギのミカタってか? キメーんだよ」
アキヒロは男達の圧力を意に介さず、落ち着いて言った。
「いやがってるだろ、その子。さっさと手離せよ」
「痛い目みてぇのか? あ?」
「ここじゃ迷惑がかかる」
アキヒロは冷静に言う。
苛立ちを隠さない様子で男は返す。
「じゃ、こっち来いよ、ボコボコにすっから」
三ヶ月前なら見て見ぬふりをしていたかもしれない。
しかし今は違う。
アキヒロの心に恐怖はなかった。
三人組とアキヒロは空き地に場所を移した。
「調子乗ってんじゃねぇぞ、ガキ!」
突然男はアキヒロに殴りかかる。その拳をアキヒロはあっさりとよけた。
契約して得た動体視力だ。素人のパンチなど余裕で躱せる。
そしてアキヒロはその男の顔面を殴った。
一発、二発、三発……
アキヒロは止まらない。
鼻の骨を折り、顔の形が変わるまで殴り続けた。
「や、やべぇよ……」
その様子を見ていた二人は逃げようとする。
しかし、アキヒロが二人の頭を掴む。
そして二人の頭同士をぶつけさせた。
倒れた男に馬乗りになり、アキヒロは殴る。殴る。殴る。
一通り殴り終えるとアキヒロはもう一人の男に馬乗りになり、また殴る。殴る。殴る。
三人の意識がなくなったところで、アキヒロは殴るのをやめた。
顔を上げると、3人組に絡まれていた女の子がアキヒロのことを見ていた。
「だいじょうぶ?」
拳についた血を払い、女の子に声をかける。
すると女の子は表情を変えることなく
「ありがとう」
とだけ言った。
そして女の子は駅の方角へ戻っていった。
見る人が見れば、やり過ぎだと思うだろう。
そんな凄惨な暴力の現場にいながら、その女の子は表情一つ変えることなくアキヒロを見ていた。
彼女の目には、光がなかった。
パソコンに保存していたお気に入りの画像は全て削除した。
解消することの出来ない、ただ溜まっていく性欲はアキヒロを苦しめた。
契約の代償として自慰行為を行うことができず、女性に触れても何も感じることが出来ない体になってしまったが、性欲が無くなるわけではなかった。
今まで通りの性欲のまま、それを解消するための手段だけを制限するという性欲真っ盛りの男子高校生にとっては地獄のような契約だった。
アキヒロは以前よりたくさんの睡眠をとるようになった。
満たされることのない性欲に、同じく人間の三代欲求である睡眠欲で対抗しようとした。
眠っている間はつらいことを忘れられる。
しかしずっと眠り続けるわけではない。
日中何の活動もしないまま夜を迎えたり、昼寝をし過ぎたりすると夜に眠れなくなってしまう。
平日は学校があるため否が応でも早起きするしかない。そのため、夜は比較的スムーズに寝ることが出来る。
問題は休日だ。
ゲームをしようにも女性キャラがきわどい服装で出ようものなら苦しむことになる。
アニメ、漫画の類も同様だ。魅力的な女性がいたら辛い。
そのため、アキヒロは睡眠を取るために運動するようになった。
晴れの日は人通りの少ない河川敷をランニングし、雨の日は自宅で筋トレを行い、体を疲れさせた。
そうして、毎日を過ごすことにした。
ある日の休日、河川敷をランニングしていた時だった。
「戦わないの?」
不意に後ろから声がした。
ふりむくと、そこにはあの女がいた。
アキヒロに力を、そして苦しみを与えた全ての原因である女だ。
「こんな力を持った者同士が戦えば怪我をする。いや、怪我だけじゃすまないかもしれない」
「負ければ死ぬかもしれないんだろ?」
「そうね」
「おれは力を奪われたくないし、もちろん死にたくもない」
「そう」
女は納得したような表情をした。
アキヒロにはその顔が「つまらない」と主張しているようにも見えた。
「戦うも戦わないもあなたの自由だけど、戦う気になったいつでも言いなさい。場所と相手はこっちで用意することが出来るから」
「そして、これだけは言っておくわ」
女はアキヒロに近寄り、耳元で囁いた。
「戦うってキモチイイわよ。あなたの体にべっとりついたその性欲を吹き飛ばしてくれるくらい……ね」
そのささやきにアキヒロの心臓は鼓動を速めた。
契約の女はアキヒロの顔を見て怪しく微笑んだ。
「じゃあね、ボウヤ」
気付いたら女はいなくなっていた。
アキヒロはやりきれない気持ちを吹き飛ばすように全力で走った。
心臓の高鳴りがうるさいほどに聞こえていた。
『力』を得て、三ヶ月が経った。
性欲を解消できないことは苦しいが、『力』を得たことによってアキヒロの心には余裕のような者が生まれていた。
夜に発生するパーティーピーポーも、未成年飲酒、喫煙を行なう不良も、腕に入れ墨を入れた怖そうなおじさんも、トラブルが発生したら腕っ節でどうにか出来ると思えたからだ。
だが、アキヒロは人前で力を使うことを避けた。
人前で力を使えばいろいろと面倒なことになることは理解していたからだ。
そんな苦しみと余裕が同居するある日のことだった。
学校からの帰り道、チャラチャラとした男三人組に絡まれている女の子がいた。
「オレらと遊んでこうよ~」
「きっと楽しいからさ、ね?」
「……やめてください」
チャラチャラとした男三人組は聞く耳を持たなかった。
「あーー? 声がちっちゃくて聞こえませーーん」
「ほら、さっさと来いよ」
男は女の子の腕を掴んだ。
「やめろよ」
アキヒロは後ろから男の肩を掴んだ。
「あ? なんだてめぇは」
「セイギのミカタってか? キメーんだよ」
アキヒロは男達の圧力を意に介さず、落ち着いて言った。
「いやがってるだろ、その子。さっさと手離せよ」
「痛い目みてぇのか? あ?」
「ここじゃ迷惑がかかる」
アキヒロは冷静に言う。
苛立ちを隠さない様子で男は返す。
「じゃ、こっち来いよ、ボコボコにすっから」
三ヶ月前なら見て見ぬふりをしていたかもしれない。
しかし今は違う。
アキヒロの心に恐怖はなかった。
三人組とアキヒロは空き地に場所を移した。
「調子乗ってんじゃねぇぞ、ガキ!」
突然男はアキヒロに殴りかかる。その拳をアキヒロはあっさりとよけた。
契約して得た動体視力だ。素人のパンチなど余裕で躱せる。
そしてアキヒロはその男の顔面を殴った。
一発、二発、三発……
アキヒロは止まらない。
鼻の骨を折り、顔の形が変わるまで殴り続けた。
「や、やべぇよ……」
その様子を見ていた二人は逃げようとする。
しかし、アキヒロが二人の頭を掴む。
そして二人の頭同士をぶつけさせた。
倒れた男に馬乗りになり、アキヒロは殴る。殴る。殴る。
一通り殴り終えるとアキヒロはもう一人の男に馬乗りになり、また殴る。殴る。殴る。
三人の意識がなくなったところで、アキヒロは殴るのをやめた。
顔を上げると、3人組に絡まれていた女の子がアキヒロのことを見ていた。
「だいじょうぶ?」
拳についた血を払い、女の子に声をかける。
すると女の子は表情を変えることなく
「ありがとう」
とだけ言った。
そして女の子は駅の方角へ戻っていった。
見る人が見れば、やり過ぎだと思うだろう。
そんな凄惨な暴力の現場にいながら、その女の子は表情一つ変えることなくアキヒロを見ていた。
彼女の目には、光がなかった。
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