陰キャの俺が異世界で無双できる、たった一つの賢いやり方

みももも

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鑑定大会から逃げ出して……

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 俺と同時に転移された生徒達は、仲良しグループを作ってキャッキャと笑い合っている。
 先生は周りを見て、少し驚いた表情をしていた。一足先に来たと思ったら、全員同時に到着していたのだから。そういう事情を聞いていなかったから、無理もないのかもしれない。

 周囲に視線を向けると、人工的に整えられた植木に囲まれていて、振り返ると巨大な城があった。
 どうやら俺達は、屋外の庭園のような場所で召喚されたらしい。
 そして、俺達の周りを大勢の人で包囲されているようだった。
 南国の草花のように派手な衣装を纏った彼ら彼女らは、俺達を吟味するように睨み付けている。
 その中でも一段と豪華で、金銀に輝く服を着た女が、代表するように手を挙げた。
「では、王の名の下に召喚者への交渉を解禁するっ! 各々励むが良い!」
 王を名乗るその男が手を振り下ろすと、包囲が崩壊してなだれ込んでくる。

 彼ら彼女らは一様に単眼鏡を目に当てて俺達をじっと観察している。
 時折スキル名を呟いて周りと話し合っているところを見ると、どうやらおそらくあのアイテムで俺達の特異技能スキルを鑑定しているようだ。
 彼らの多くはちらっと俺を見ただけで「はぁ……」と溜息をついて他の男女に目移りしていった。
 なんでや、魔術基礎を馬鹿にするなし!
 一部の優秀なスキルを選択した生徒の周りには、すでに人だかりが出来ている。
 それは生徒との交渉と言うよりも、彼ら同士で奪い合いをしているように見えなくもない。

 限定商品や特売セールの商品に群がるセレブのように、この世界の人同士で言い合いをしている。
 やれ「私の方が、この者を従えるのに相応しい」とか「お前の家では活かしきれない」とか。
 困惑する本人を無視して話が進んでいく。
 うん。ただし俺を除く。
 なぜか俺だけは、目が会うたびに目を逸らされる。
 これはさすがに失礼だろ……まあ俺は慣れてるから、別に気にしないけどな。

「とは言え……暇か」
 そんなつぶやきが漏れる程度には、やることがない。
 クラスメイト達は多くの大人達に口説かれているというのに。
 先生なんて『聖剣』というパワーワードのおかげで、ひっきりなしに話しかけられているというのに。
 俺が近づいても、誰もなにも言ってこない。
 モノクルで俺を鑑定してから困ったように苦笑をされて、スッとさりげなく距離を取られる。
「俺がなにしたってんだよ……」
 と口に出したが、冷静に考える。
 はたして俺は本当に、ああやってちやほやされたかったのだろうか。
 それは断じて違うと言いきれる。
 べ、べつに、強がりで言ってるわけじゃないからな!

 周りの大人達は、見るからに欲望が歪んでいる。
 おそらく召喚した俺達に多くのやりがいとほんの少しの給料えさを与え、奴隷のようにこき使うつもりなのだろう。
 それならいっそ、相手にされないのはラッキーなのだと、そう割り切ることにした。
 俺は一人、人混みを抜けて輪の外に出る。
 悲しいかな不審な目で見られるだけで誰にも止められなかった。
 一瞬だけ振り返っても、こちらを見ている人はいない。
 ああ惨めだな。という考えを振り払って俺は、城に背を向けて旅立つにげだすことにした。

 ◇

 門番に引き留められたけど、事情を話すと同情され「頑張れよ」とむしろ応援された。
 深い堀に架かる橋を渡り境界を越えると、景色が一変する。
 土がむき出しの地面はでこぼこと歪んでいるし、所々ぬかるんでいたり穴が空いていたりもする。
 木材で組まれたそこそこまともな建物がぽつぽつと点在しているけれど、樹木の近くに布を貼り合わせただけの、家というよりはテントに近い場所で生活している人が大勢いた。
 ボロすぎて服としての役割を果たしきれない布きれを纏った人がほとんどで、高校の制服まともなふくを着ているだけなのに、肩身が狭くなる。

「はいっ! 水魔法を使えば良いと思いますっ!」

 足元を気にしながら歩いていると、不意にものすごく元気な少女の声が聞こえてきた。
 耳を傾けると声の主意外にも、子供の声がいくらか混ざっているようだ。
 顔を上げて目を向けると、広場のような場所で中年男性が大勢の子供を相手と向き合っていた。
 なにもない空間に浮いている半透明のパネルを、黒板代わりにしているのだろう。
 あれは『光魔術』と『闇魔術』を組み合わせて発動できる『混合魔術』だったか。
 子供に教えているのは魔術同士の相性で、火魔術を使う相手と遭遇したらどうなるか。という問いに、子供が正解を答えたところのようだ。

 どれもこれも、魔術基礎を習得している俺からすれば当たり前の情報だ。
 だが少し気になったのと、どうせ他にやることも無いから、少し寄り道がてら、話を聞いてみることにした。
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