陰キャの俺が異世界で無双できる、たった一つの賢いやり方

みももも

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転移の準備は入念に……

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「■Hello神の世界へ■みなさんは『魔王討伐のため』によって異世界へと召喚されています」

 昼休み明け、眠気の波が最高潮に達する数学の授業中だった。
 習ったばかりの公式を使って、練習問題に挑んでいる最中のこと。
 ほとんどの生徒はとっくに問題を解き終えて、ひそひそと雑談するやつもいる。
 そろそろ先生が「時間切れ」を告げる頃合いか……というタイミングでのことだった。

 目の前から問題用紙と机が消滅し、椅子が消滅してクラス全員が尻餅をつく。
 そして気がついたら、この、真っ暗でなにもない空間にいた。
 誰もが言葉を失い呆然とするなかで、脳に響く情報は感情なく再生される。
「■みなさんには■異世界で戦い生活するための『特異技能スキル』が与えられます■画面から選択してください」
 目の前に、半透明のパネルが現れた。

【魔術系】
 精霊魔術 超越魔術 上級魔術 魔術基礎 ……
【剣術系】
 剣聖 剣王 ……

 見るとそこには、ゲームでよく見るような能力が、ずらりと並んでいた。
 しかしこれだけ見ても、結局これをどうすればいいのか誰にもわからない。
 わからないで誰もなにも口にせず、暗くなにもない空間がシンと静まりかえる。
「■わからないことはなんでも聞いてくださいね」
 最後にそう言って、何者かの声はフェードアウトする。不気味なほどの静寂が辺りを包む。
 直後……クラスメイト達はパニック状態に陥った。

 涙目の女子が、天に向かって叫んだ。
「ふ、ふざけんなし! ここどこ? 元の場所に帰して!」
「■ここは神の世界です■申し訳ありませんが元の世界に帰ることは出来ません」

 バスケ部キャプテンの男子が、怒りを露わに吐き捨てた。
「おい、なんだこれ。ど、どういうことだ?」
「■みなさんは異世界召喚されました」

 クラスで『オタク』を公言している男子が、興奮気味に呟いた。
「え、これってもしかして、最近のラノベとかでよく見る、いわゆる『なろう系』ってやつ?」
「■なろう系——検索完了しました——なろう系世界ではありませんが類似点は多くあります■別の世界に転移する点■強力なスキルを与えられる点などは共通します■転移後にどのような生活を送るかは人によるためその点に関しては必ずしも一致しません」

 クラスメイトが好き勝手に口にした一言々々に、何者かの声は丁寧に返事をしていく。
 まるで聞かれたことに答えてくれる、チャット型AIのようだと感じたのは、俺だけだろうか。
 やがて、ただ一人の大人である数学の先生が、注目を集めるようにパンパンと手を叩いた。
「みんな、注目! 落ち着いてくれ……私にもなにが起きているのかわからないが、こういうときこそ冷静さが必要だ。まずは声の指示に従おう。それが異世界転移の鉄則だ!」
 なに言ってるんだろう、あの先生は……と思ったが、そういえば年度初めの自己紹介で「趣味は読書……とくにWeb小説を読んでいる」と言っていたのを思い出す。
 それにしたって、適応力が高すぎだろう……

 だがしかし、とりあえず先生が落ち着いた態度を見せることで、クラスメイト達も落ち着きを取り戻す。
 先生は「じゃあ私は『聖剣の担い手』のスキルを選択する。みんなも、自分が『これだ』と思ったスキルを選ん……」最後まで言う前に、彼の目の前のパネルに指を付けたからなのか、残響だけを残して彼の姿は消滅した。

 先生が消えたことで「仕方なく」と言った感じで、クラス委員長を務める眼鏡男子が立ち上がった。
「選ぶと同時に、転移させられるのか……」
「■はい■選択と同時に転移の準備段階に移行します」
「だったら、早く選ばないと、先生を待たせることになるのか……?」
「■この空間内では時間凍結されています■早く選んでも待たされることはありません」

 何者かとの会話を終えた彼は、さっきまで教壇があった位置に移動して、全員の視線を集める。
「というこどだ。みんな、慎重に考えよう。先生の言っていたとおり、『自分に合った』スキルを選ぶことが大切だ。よくわからない人がいたら……詳しそうな人に聞いて、じっくり考えることにしよう!」
「「「……っ」」」
 クラスメイト全員が、こくりと頷いた。
 仲良しグループが形成され、あーだこーだと活発に議論が交わされる。

 ……俺?
 俺はまあ、とりあえず友達とか少ない・・・し、べ、べつに、誰かに聞かなくても、大丈夫だし?
 てか、俺、こういう展開に詳しいし。悩んでる振りしてたら、むしろ誰かに声かけられるかもしれないし……!

 俺はとりあえず、スキルの一覧を観察する。
 『魔術系』とか『剣術系』とか、系統別に、ずらりと……数百以上のスキルが並んでいる。
 先生が選んだのは『聖剣の担い手』という、『剣術系』に属するいかにもなスキルだ。
 この大量のスキルの中から、一瞬でこれを見いだせるとは、さすがは数学を教える先生なだけ……いや、関係ないか?
 一覧を見ていて、少し気になったことがある。
「そうか、これがこれで……そうか!」
 みんなに聞こえるような声で、わざとらしく呟いたりした。
 もしかしたら「え、なにがわかったの」と聞いてくれるかもしれないと期待して。
 ……あれ、何で俺から距離を取るの? みんな、俺とも情報共有しようよ!

「「「……」」」

 なんであいつら、いつも俺のことを気持ち悪そうな目で見るんだろう。まあいいや。
 仕方ないので俺は、もう一度スキルを上から順に眺めることにした。
 気づいたことというのは、先生が『聖剣の担い手』を選択しても、この項目が消えるわけじゃないことだった。
 他のクラスメイトが『じゃあうち、精霊魔術にする!』と言ってどこかに転送されても『精霊魔術』の項目は消えずに残ったままだ。
 つまり、特に早いもの順というわけではないから、急いで決める理由は全くない。

 ちなみに、何者かの声によると、精霊魔術は
「■サラマンダーを召喚すれば■山をも燃やす炎を生み出せます」
「■ウィンディーネを召喚すれば■涸れた湖を聖水で満たせます」
「■シルフを召喚すれば■風を起こし空を自由に舞えます」
「■ノームを召喚すれば■何もない場所に城を創り出せます」
 とのことだった。すげえじゃん。俺もそれで良いかも……とは思ったけれど、なんか他の人の真似したみたいで嫌だった……

「うーん、どうしよっ……かなぁ」

「うーん、悩むなぁ……」

「うー……あ、あれ?」
 さっきから静かだと思ったら、いつの間にか周りには誰もいなかった。
「もしかして……他の人はみんなもう、決めたってこと?」
「■はい■あなた以外は全員スキルを決め■転移準備段階に移行しています」
「まじか……俺も早く決めた方が良い?」
「■いいえ■この空間では時間凍結されているので急ぐ必要はありません」
「そっか……」

 って、あれ。
 もしかして、こいつ、質問すれば何でも答えてくれるのか?

「なあ、気になってたんだが、あんたは誰なんだ?」
「■私は『転移の神』です■質問すればなんでも・・・・答えます」
 神様だったのか……てか、神様が直接客の相手をしてくれるのか……
 まあいい、だったらとりあえず、気になることを聞いてみよう。

「へい、神様! お薦めのスキルを教えてっ!」
「■お薦めのスキルは人それぞれです■ご自身に合ったスキルを選択してください」
 求めているのはそういう答えじゃないんだけど……
 でもまあ、そうか。もう少し質問内容を具体的にする必要があるわけか。
「じゃあ……『聖剣の担い手』というスキルの内容を教えて」
「■『聖剣の担い手』は『聖剣』を手にしたとき『真の力』を発揮できるスキルです」
「……え、聖剣を手にしたとき・・・・・・? 聖剣は別売りってこと?」
「■『聖剣の担い手』に『聖剣』は付属されていません」
「ちなみに……、聖剣はどうやったら手に入るの?」
「■聖剣は博物館にて展示されています■入手には、およそ『王金貨』が5000枚必要です」

 ……なるほど?
 え、先生、大丈夫?
 スキルを使うには、なんかメチャクチャな金持ちにならなきゃいけない雰囲気だけど……
 ああ、もし俺達を召喚した人が王様だったりしたら、下賜されたりするかもしれないか。
 まあいいや。でもちょっと、嫌な予感がする。他のスキルも確認してみよう。
 例えば、精霊魔術。概要はすでに聞いているから……
「精霊魔術を使うのに、何か条件は必要になる?」
「■『契約済みの精霊』であればスキル発動に条件はありません」
「そっか。それはよかっ……え、契約? 精霊との契約はどうやったら出来るの?」
「■精霊契約を行うには『精霊の試練』を達成することで可能です」
「そっか。例えばサラマンダーだと、どんな試練があるの?」
「■炎の洞窟に単身で入り最奥の宝珠に触れることで試練が達成されます」
 ……うわぉ、なにその。聞いただけでやばそうなんだけど。

 そんな感じで、ほかにもスキルの内容をいろいろ聞いた。
 基本的に、強いスキルほど扱いが難しいというか、前提条件があることが多いようだ。
 ちなみに、他のクラスメイトが何のスキルを選んだのかも、聞けば教えてもらうことができた。
 プライバシーどうなってるんだ……と思ったけど、神にとってそんなのは関係ないのかもしれない。

「ちなみに、スキルの内容をお試しで使うことは出来ますか?」
「■この空間内であれば可能です■パネルを横にスライドして『お試しモード』に変更してください」
「まじか……ほんとだ、お試しモードになった」

 ということで俺は、いろいろなスキルを実験おためしすることに。
 神様のサポートありでいろいろ試すと、わかったことがいくつもあった。
 例えば『聖剣の担い手』スキルは、一見すると聖剣がなければ何も出来ないようだけど、実際には普通の剣を使ってもある程度能力が上がるようだ。
 剣道の授業以外で剣を握ったことがない俺でさえ、なんかすごい鋭い斬撃を放てたので、おそらく間違いないだろう。
 ちなみに、普通の剣じゃなくて、お試しで聖剣を使うことも出来た。
 聖剣の担い手で聖剣の『真の力』を解放したら、世界がぶっ壊れるかと思うぐらいに威力があった……

 スキルを実験しながら、神様との会話は継続する。
「ちなみに、敵……魔王について教えてくれ。やはり強いのか?」
「■魔王は『世界を三度滅ぼせる力』を持つ存在です■三年前に『勇者』によって討伐されました」
 世界を三度滅ぼせるとか、やべえ奴だ。とはいえ聖剣の真の力も、簡単に世界ぐらい……ん?
「えっと……? あれ、魔王、討伐されてるの? 俺達は何のために召喚されるの?」
「■『召喚』の目的は『魔王討伐のため』となっています」
「ん? 魔王はもう、討伐されているんだよな?」
「■はい■魔王は勇者によって討伐されています」
 ……? わけがわからなくなってきた。
 魔王を討伐するために召喚するのに、魔王はすでに討伐されている?
「……念のために聞く。俺達を召喚したのは、誰なんだ?」
「■みなさんは『人種族の王』によって召喚されました」
「その、人種族は、誰かと戦っているのか?」
「■人種族は人種族同士で内戦をしています」

 ……それじゃん。
 魔王の討伐とか、そんなの嘘じゃん。
 異世界むこうに行けば教えられることだったかもしれないけれど、事前に聞いておいてよかった。
 ついでに「魔族の特徴」とか「人族の勢力図」とか、聞けることは全部聞いておくことにした。
 悲しいことに『人族の王』という勢力は、人族の中ではあまり良い噂がないようだった。
 重税とか、過労働とか。
 少し距離を置いた方が良いのかもしれない。

 †

 体感で、三日ぐらいが経過した。
 飲まず食わずで、寝ずに働いたけど、疲れはまったく感じない。さすが神様の空間だ。
 神様にいろいろ質問をしながら、ようやくクラスメイトが選択したスキルは一通り試し終えた。
 時間はいくらでもあるから、他のスキルもいろいろ実験して、じっくり時間をかけて選ぶことにする。
「……うん、よし。これぐらいでいいかな」
 実際は、スキルを選ぶのは初日のうちに終わっていて、残りはスキルの練習に充てたわけだけど。

 とりあえず、スキルは『魔術基礎』を選ぶことに決めた。
 他に『上級魔術』とか『超級魔術』とか『神級魔術』とかもあるけど、結局『基礎魔術』が一番使いやすいと判断したからだ。
 超級魔術には大変な下準備が必要だし、上級魔術でさえ、どれだけこの空間で練習をしても五秒程度の詠唱が必要になった。
 その点、魔術基礎があれば基礎魔術を一瞬で発動できるし、少し練習すれば連発もできるようになった。

「それじゃあ、行ってくるよ。いろいろ教えてくれてありがとう!」
「■いってらっしゃいませ■ご活躍をお祈りしています」
 お試しモードからスキル選択モードにスライドさせて、俺は『魔術基礎』を選択する。
 ふわりと浮遊感に包まれて、俺はクラスメイトと一緒に、足元に不思議な魔法陣の描かれた、青空の下に転送された。
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