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大平原

逃走劇

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 仔馬さんの探知魔導のおかげで早い段階に盗賊団を見つけることができたおかげで、普通の馬が荷馬車を引く速度でも十分に距離をとって逃げることができた。
 今私たちがいるのはさっきの場所から小山を挟んだ反対側で、きっとここで大人しくしていれば見つかることはないんだろうけど……。

『あいつら、テントのある場所からなかなか動かないね……』
『もしかしたら我らが何も気づかずに戻ってくるのを期待しておるのかもしれぬ。これはテントを取り戻すのは諦めた方が良いかもしれぬな』
「え~、そんなあ~。テントは一つしかないんだよ⁉︎」
 テント以外にあそこに置いてきたのは調理中の鍋と焚き火と松明がわりに置いておいた無数の魔導ランプで、地味にそっちの損害も大きかったりする。価格は知らないけど。まあ命を失うよりは何倍もマシなんだって割り切るしかないのかな。
「どうしたんですか、アカネさん。何かわかったんですか?」
「シグレさん、どうやらあいつらは簡単には諦めそうにないみたい……」
『どうやらあの地点を中心にあたり一帯を調べるつもりのようである。この場所も近いうちに見つかるであろうな』
「そうなんだ。あいつら諦めが悪くて、まだ私たちのことを探してるんだって……」
『あいつら、馬の移動した足跡とか追ってきたりするから、一度補足されると逃げても逃げても追っかけてくるんだよ!』
「うわ、面倒くさいやつじゃん、それ。……あ、えっと、あの盗賊どもは馬の足跡をどこまでも追いかけてくる奴ららしくて、しかも相当しつこいみたいです」
 ……さっきからなんで私は同時通訳みたいな真似をしてるのだろう。
「彼らが追っているのは私たちの馬達みたいなので、シグレさんは馬車を引いて離脱してもいいですよ。確か急いでるんですよね」
「そんな、アカネさん。ここまできたら一蓮托生といきましょうよ!」
『お主よ、ここでシグレ殿を切り離すのは得策とは思えぬぞ。奴らが気まぐれに荷馬車を襲わぬとも限らぬしな。だがその馬が馬車を引くのでは力不足感があるのもまた事実。
 そこで、荷馬車は我が引き、その馬にはシグレ殿かお主が乗って走るというのはどうだ?』
「聞いてみるね。
 えっと、シグレさん。提案があるんですけど……」
 お馬さんの提案を話すとシグレさんは「アカネさんがそういうなら、そうした方がいいのでしょうね」と納得してくれた。ちなみにシグレさんは乗馬経験が全くないらしいので、初心者ながら魔馬に乗ったことのある私の方がこっちの馬に乗って、シグレさんはお馬さんが引く荷馬車に乗り込むことになった。

「アカネさんは馬も乗りこなすんですね! 凄い!」
「乗りこなすってほどじゃないけどね……。シグレさん、そのお馬さんは賢いから特に指示を出さなくてもいいからね。それじゃあみんな、出発しようか!」
 本当に、乗りこなしてるわけじゃなくてかろうじてこっちの合図が届いているだけみたいな感じ。まあ今は先導する馬達に着いていくだけでいいから、私はただ馬の邪魔にならないように気をつけて乗っているだけで十分なんだけどね。

『パパ、お姉さん、あとシグレさん! それじゃあ出発するよ、みんな着いてきて!』
「りょうかーい! シグレさん、出発するって。揺れるから気をつけてね」
 とりあえず当面は盗賊団から距離を取るように逃げることにした。シグレさんは簡単な魔導だったら使えるらしいし、お馬さんや仔馬さんも十分戦力になるんだろうけど、相手の盗賊団はは暴力の専門家みたいなものだから、正面から戦っても勝ち目はない。できれば他の大きな隊商キャラバンを見つけて助けを求めたいところ、なんだけど……。
「シグレさん、なんか巻き込むみたいな感じになっちゃってごめんなさい」
「いいんですよ! アカネさん‼︎ それに、盗賊団からの逃走劇なんて、冒険譚のワンシーンに入り込んだみたいでワクワクするじゃないですか!」

 そんなもの、なのかなあ。
 まあ確かに他人事だったら私もそう感じていたかも。でもテントや魔導ランプの損害が出ているし、それ以上に馬の群れの命がかかっているのを聞いている私としては素直に楽しめないというか……。
『お主よ、あまり気に病むではない。族どもはおそらく元からこの馬の群れを追跡していたようである。つまり我らがいなかったとしてもいずれ奴らに補足されて、その時はおそらく全滅していたはずである』
『そうだよ、お姉さんは他馬のことよりも、今後のことを考えた方がいいよ! 予備のテントなんて用意してないんでしょ?』
「二人とも、心配してくれてありがとう。だよね、とりあえず今はこの状況をなんとかする方法を考えないとね!」
 とりあえず今は逃げの一手だけど、どこかでけりをつけないときりがないんだよね……。とはいえ現時点では有効な手段が思いつかないのも事実だけど。

『パパ、あれって……?』
『ああそのようだな。お主よこのいくさ、なんとかなるかもしれぬぞ!』
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