上 下
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山越え

山の向こう側、山下り。

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 今は山を降りているけど、お馬さんの言う通り登っているときと比べて気温は少し高い気がしないでもない。あとは、空気が乾燥している気がするのと、なにより空気の色が少し違うようにも見える。
 そんな話をしたらお馬さんは『空気に色がついているわけがないが、もしかしたら魔力の違いかもしれぬ』って言ってた。なるほど、これが大陸の魔力の色か……。
 ちなみに普通の人は見えないけれど、魔力の違いを肌で感じることはできるらしい。その代わり私は逆に、魔力の触覚とかは全くないんだけどね。

『お主よ、舗装された道路と合流する地点まであと一息である。そこまで行けば我の背に乗背てやるから、あと一息頑張るのだ』
「はぁ、はぁ……、わかった。あと少し頑張るけど、でもその前に一度休憩ね。……てか、お馬さんはまったく疲れてないように見えるんだけど⁉︎」
 上りよりは下りのほうが楽でしょ。ぐらいに考えてたんだけどそんなことはまったくなかった。上りと違って下りは常に自分の体重を支えている必要があって、登るときとは違う筋肉を使う感じがする。
『我は山登りの訓練も受けておるからな。この程度であれば平地と何も変わらぬ。しかし疲れた状態で我に乗って落馬でもしたら逆に面倒か。ちょうど昼時でもあるし、一度しっかり休憩を取るべきなのかもしれぬな』
「賛成、さんせーい! それじゃああと一息、一気に進んじゃおうか!」

 危ないからさすがに走り出すわけにはいかないけれど、少しペースを上げて歩き出したらお馬さんに呆れて視線を送られてしまった。
 しょうがないじゃん。お馬さんだって目の前ににんじんを吊るされたら本能的に駆け出しちゃうんでしょ。なんて事を思いついたけど、よく考えたら比喩にさえなってない上に若干失礼な気がしたから口には出さないでおいた。
「ついたー! 道だー‼︎」
『お主よ、よくがんばったな。あと少し進むと人が整備した東屋あずまやがあったはずだ。そこで休むことにせぬか?』
 お馬さんが言う通り、少し進むと小さな吹き抜けの建物が見えてきた。屋根と柱しかなくて風は防げそうにないけれど、少なくとも雨は防げそうだし何より椅子とテーブルがある。一踏ん張りしてきただけのことはあったかな。

『それではお主はここでしばらく休んでいるがよい。我は少しこの辺りを走って見回りをしてくるとしよう』
「はーい。じゃあ一旦自由行動と言うことで!」
 走り回ってくる? なんでまた急に。もしかして私が歩くのが遅すぎて体が鈍ったとか?だとしたら申し訳ない気持ちもあるけど。
 でもまあ理由は知らないけど、お馬さんがそうしたいと言うなら私には止める理由もないし、理由はそのうち聞けばいいかな。
 それよりも私は昼食の準備をしておかないと。とはいっても器具を出すのも面倒だし食材的な理由もあって昨日と同じサンドイッチになりそうだけど……。毎日同じものを食べてると健康に悪そうだから今日は少し野菜多めにしてみようかな。
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