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街2

夢の中?

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 空を飛んでいる。
 地に足はつかず、どころか地面すら見当たらない。
 目に写るのは夜空の星のような無数のなにか。大きいようで小さく、遠いようで近くにあるそれは色も形も様々で、一つ一つが輝いていた。

 誰かに説明されたわけでもないのに私にはわかる。これは私の記憶の欠片カケラ。ここはきっと夢の中で、私はきっと眠りながら無意識に、記憶の整理でもしているんだと思う。
 試しに一つかけらを取り寄せて中身を確認してみようかな。
 そう。これはきっと、前の世界の最後の記憶。

 昨日の夜中まで降っていた雨は上がり、鮮烈な朝日が輝く気持ちの良い朝だった。地面のコンクリートが水滴を含んで陽光を反射してキラキラと輝いている。そんな景色を私は病室のベッドから眺めていた。
 その時私がなにを考えていたのかは……思い出せない。医者は私に「まだまだ大丈夫」と言っていたけど、具体性のない励まししか言えない医者を見て半ば諦めていたような気もする。それに私の体のことは、多分私が一番わかっていたから。
 人間に限らず動物は死期が近づくと感覚的に理解できるんだと思う。言葉にするのは難しかったけど、その時確かに私は死の手前にいた。
「こんなにも死が近くにあるのに、苦しくないのは救いなのかもね」
 そんなことを呟く私のために、親友たちは悲しんでくれた。憤ってくれた。「悲しいことを言わないで!」そんなふうに怒ってくれた。
 こんな私にも悲しんでくれる友達がいる。ただそれだけが嬉しくて。そんな彼女たちのためにも生き残りたいと頑張ってきたけど、どうやらここが限界みたい。
「ああ叶うなら、私はまだ人生を楽しみたかったな」
 やってみたいことはたくさんあった。幼い頃にやりたかった楽しいことをまだまだやりきれていないから。
 高校にももっとちゃんと通いたかったし、そこで友達と遊んだり彼氏を作ったり……。高校を卒業したら大学にも行きたかったし、そのあとは社会のために働きたかった。
 でも私の記憶は高校生で止まってる。

 ああそうか。

 ……そう、だよね。
 やっぱり私は一度死んでいたんだ。
 これはきっと輪廻の転生。前世で死にきれなかった私は、その記憶の一部を受け継いで次の世界に生まれ変わったんだ。
 未練がましい私の魂を、もしかしたら神様が転生させてくれたのかも。
 目が覚めた時、私は多分夢の記憶を失っている。

 だけど大丈夫だよ、私。
 今のあなたは自由に動ける体を手に入れたんだから。
 あなたを蝕む病もこの世界まではついて来れなかったの。だからあなたは、この世界であなたの思うがままに生きれば良いの。
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