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魔王の誕生
ギフト工場
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……魔王だと?
(なぜ、魔王がこんな場所にいる? そもそも、魔王とは一体何なんだ。なぜ、魔王なんてものが存在する? そうだ。なぜお前は、あの時あんなことを……)
(なぜ、なぜと。矢継ぎ早に聞かれても、のう? まあいずれの答えも「我が魔王だから」ということになるのだが、な!)
自ら魔王を名乗ったその存在は、困惑する俺をあざ笑うかのように、くるりふわりとその場で舞いながら答えた。
(我の根源は、ここに集められた人族や魔物達の魂が想像する『魔王』そのものなのだ。みなが魔王を恐怖すれば、それだけで恐怖の対象になる。
むろん、魔物達のように魔王のことを崇敬すれば、神にも等しい者として振る舞おう。やはりこうして生まれたからには、期待には答えねばならぬであろう?)
(期待……? つまり、多くの命が失われたあの時のことも、人々がそう願ったからだと言うのか!?)
(ふむ……願ったというのとは、違うのう。少なくともあの時死んだ者達は、自分たちが死ぬことなど想像だにしておらんかったに違いない。だが、多くの人間がこう考えていたのは事実であろう。「魔王とは、人に敵対する存在である」と。そう考えて命を燃やした者達の魂こそが、我をこの世に生み出したのだから……)
魔王は、話しているうちに饒舌になっていく。聞いていないことまでペラペラと……
これも人々が魔王に対して抱いたイメージなのか。
それとも単に、この魔王がこういう性格なだけなのか?
(これで、魔王がなぜここにいるのか。魔王とは何なのか。なぜ我が人を殺したのか。全ての問いに答えたことになる……これで満足か?)
(あ、ああ……)
(つまり、明野樹といったな。お主が我のことを「悪だ」と断じるのは自由だし、間違ってもおらぬ。何せ我は、他ならぬお主ら自身によって「恐怖の象徴」、「悪の象徴」として生み出された偶像なのだから、な!)
本人がこういうのだから、全ての責任を魔王に押しつけてしまいたい気持ちもある。
そうすればどれだけ楽だろう。仲間を守れなかったのも、魔族と人族が争い合うのも、全て魔王が悪い。俺達はよくやった。俺達は間違っていなかった。俺達は正しかった……
(だが俺は……もう、何かを簡単に「正義だ」とか「悪だ」とかって判断する気はない。だからそんな、不安げな顔で自虐的なことを言うなよ……)
(はんっ、馬鹿を言うでない! それにこれは、自虐ではない、事実である)
魔王が「感情」を持っているのかどうかも定かではない。
だからきっと、魔王が寂しい表情を浮かべているように見えたのも、気のせいだったのかもしれない。
もしかしたらこれも「魔王がこういう存在だったら良いのに」という、俺の考えを押しつけているだけなのかもな。
(……魔王。お前がどういう存在なのかはわかった。それで、ここは一体どこなんだ? 死後の世界ではないと言っていたが?)
(明野樹よ、我は「厳密には違う」と言ったのだ。全ての死者がここに集められるわけではない。ここに来るのは勇者に殺された者だけなのである)
(勇者に殺された? だが俺はそのどちらでもなく、勇者召喚の魔方陣によって……)
(それは、確かに数少ない例外であるな。だが、元を正せば同じであるとも言えるであろう?)
……例外? 元を正せば同じ? どういう意味だ?
(ここは、勇者召喚という循環術式の、エネルギーの一時保管場所のようなものである。勇者によって殺された者は一時この場に保存され、次なる勇者の召喚に使われるのである)
(一時保管場所? さっきからお前は、何を言って……)
(明野樹よ、不思議に思わなかったのか? お前自身は異世界からその身のままに呼び寄せられた。だがお主は、この世界に来るときに力を与えられたであろう?)
(……ギフトのことか。俺の場合は、『洗浄』と『聖剣 / 魔剣召喚』だったな)
(二つ目の方は置いておいて……さて、『洗浄』のギフトはどこから沸いてきた?)
……沸いてきた?
ギフトっていうのは、勇者召喚の特典として与えられるものじゃないのか?
異世界から召喚された勇者には、特別な力が与えられる。
そもそも、世界の仕組み的にそういうルールになっているのではないのか……?
質問の意味がよくわからない。そんな感情を読み取ったのか、魔王は呆れたような顔をする。
(……はあぁ、何だ、その程度の次元であったか。良いか? 力を与えられるというのなら、簡単だ。力を渡してやれば良い。だが、お前が受け取ったそれは、何だ? 力ではない、才能だ。それも一人や二人ではない。数百、数千人という人間の、「綺麗にするのが得意」という才能を束ね合わせたような。それぐらいの特殊能力だ。……そうであろう? お前のその力は、それぐらいの尋常ならざる力であろう?)
(……確かに。いわれてみればそうとも言える。何せ俺の力は、うまく使えば呪いの攻撃さえも洗い落としてしまうほどの力を持っているのだ。ギフトの力無しにここまでの洗浄力を手に入れようとしたら、人一人の人生で足りるとは思えない!)
魔術すら使わずに食器洗い機以上の速度や精度で皿洗いが出来るようになるまでに、一体何年の修行が必要だ?
身体についた汚れを一瞬で綺麗にするなど、もはや人間業ではない。
おそらく今の俺ならば、石化の呪いであっても綺麗に落とすことが出来るだろう……
(そう。つまりはそれは、死者の魂から「洗浄」の特技のみを抽出したものなのである。お主以外のギフトも例外はない。勇者召喚とは、そうやって集めた『才能』を、異世界から来た召喚者に与える仕組みのことなのである!)
(なぜ、魔王がこんな場所にいる? そもそも、魔王とは一体何なんだ。なぜ、魔王なんてものが存在する? そうだ。なぜお前は、あの時あんなことを……)
(なぜ、なぜと。矢継ぎ早に聞かれても、のう? まあいずれの答えも「我が魔王だから」ということになるのだが、な!)
自ら魔王を名乗ったその存在は、困惑する俺をあざ笑うかのように、くるりふわりとその場で舞いながら答えた。
(我の根源は、ここに集められた人族や魔物達の魂が想像する『魔王』そのものなのだ。みなが魔王を恐怖すれば、それだけで恐怖の対象になる。
むろん、魔物達のように魔王のことを崇敬すれば、神にも等しい者として振る舞おう。やはりこうして生まれたからには、期待には答えねばならぬであろう?)
(期待……? つまり、多くの命が失われたあの時のことも、人々がそう願ったからだと言うのか!?)
(ふむ……願ったというのとは、違うのう。少なくともあの時死んだ者達は、自分たちが死ぬことなど想像だにしておらんかったに違いない。だが、多くの人間がこう考えていたのは事実であろう。「魔王とは、人に敵対する存在である」と。そう考えて命を燃やした者達の魂こそが、我をこの世に生み出したのだから……)
魔王は、話しているうちに饒舌になっていく。聞いていないことまでペラペラと……
これも人々が魔王に対して抱いたイメージなのか。
それとも単に、この魔王がこういう性格なだけなのか?
(これで、魔王がなぜここにいるのか。魔王とは何なのか。なぜ我が人を殺したのか。全ての問いに答えたことになる……これで満足か?)
(あ、ああ……)
(つまり、明野樹といったな。お主が我のことを「悪だ」と断じるのは自由だし、間違ってもおらぬ。何せ我は、他ならぬお主ら自身によって「恐怖の象徴」、「悪の象徴」として生み出された偶像なのだから、な!)
本人がこういうのだから、全ての責任を魔王に押しつけてしまいたい気持ちもある。
そうすればどれだけ楽だろう。仲間を守れなかったのも、魔族と人族が争い合うのも、全て魔王が悪い。俺達はよくやった。俺達は間違っていなかった。俺達は正しかった……
(だが俺は……もう、何かを簡単に「正義だ」とか「悪だ」とかって判断する気はない。だからそんな、不安げな顔で自虐的なことを言うなよ……)
(はんっ、馬鹿を言うでない! それにこれは、自虐ではない、事実である)
魔王が「感情」を持っているのかどうかも定かではない。
だからきっと、魔王が寂しい表情を浮かべているように見えたのも、気のせいだったのかもしれない。
もしかしたらこれも「魔王がこういう存在だったら良いのに」という、俺の考えを押しつけているだけなのかもな。
(……魔王。お前がどういう存在なのかはわかった。それで、ここは一体どこなんだ? 死後の世界ではないと言っていたが?)
(明野樹よ、我は「厳密には違う」と言ったのだ。全ての死者がここに集められるわけではない。ここに来るのは勇者に殺された者だけなのである)
(勇者に殺された? だが俺はそのどちらでもなく、勇者召喚の魔方陣によって……)
(それは、確かに数少ない例外であるな。だが、元を正せば同じであるとも言えるであろう?)
……例外? 元を正せば同じ? どういう意味だ?
(ここは、勇者召喚という循環術式の、エネルギーの一時保管場所のようなものである。勇者によって殺された者は一時この場に保存され、次なる勇者の召喚に使われるのである)
(一時保管場所? さっきからお前は、何を言って……)
(明野樹よ、不思議に思わなかったのか? お前自身は異世界からその身のままに呼び寄せられた。だがお主は、この世界に来るときに力を与えられたであろう?)
(……ギフトのことか。俺の場合は、『洗浄』と『聖剣 / 魔剣召喚』だったな)
(二つ目の方は置いておいて……さて、『洗浄』のギフトはどこから沸いてきた?)
……沸いてきた?
ギフトっていうのは、勇者召喚の特典として与えられるものじゃないのか?
異世界から召喚された勇者には、特別な力が与えられる。
そもそも、世界の仕組み的にそういうルールになっているのではないのか……?
質問の意味がよくわからない。そんな感情を読み取ったのか、魔王は呆れたような顔をする。
(……はあぁ、何だ、その程度の次元であったか。良いか? 力を与えられるというのなら、簡単だ。力を渡してやれば良い。だが、お前が受け取ったそれは、何だ? 力ではない、才能だ。それも一人や二人ではない。数百、数千人という人間の、「綺麗にするのが得意」という才能を束ね合わせたような。それぐらいの特殊能力だ。……そうであろう? お前のその力は、それぐらいの尋常ならざる力であろう?)
(……確かに。いわれてみればそうとも言える。何せ俺の力は、うまく使えば呪いの攻撃さえも洗い落としてしまうほどの力を持っているのだ。ギフトの力無しにここまでの洗浄力を手に入れようとしたら、人一人の人生で足りるとは思えない!)
魔術すら使わずに食器洗い機以上の速度や精度で皿洗いが出来るようになるまでに、一体何年の修行が必要だ?
身体についた汚れを一瞬で綺麗にするなど、もはや人間業ではない。
おそらく今の俺ならば、石化の呪いであっても綺麗に落とすことが出来るだろう……
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