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魔王戦争

交渉

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 魔剣によって化物の姿に変わっていく勇者達や魔物達は、凶暴な見た目とは裏腹に行儀良く並んでその場で制止していた。
 魔化によって発生する凶暴性は完全に抑え込まれているようで、時折痛みを堪えているようにも聞こえる呻きうめき声が上がる以外は、不気味なぐらいに静かだった。
 『大将軍』による魔剣を持った兵士の制御が完全にできている証拠なのだろうが……

 そんな様子を見て、将軍は満足げな顔をしている。
「見よ! これが、我が最強の軍団である! この力があれば、世界の征服ですら可能である! 破壊し、破壊し尽くすのだ!」
 将軍自身は魔化の影響を受けていないようで、見た目の変化は特にない。
 だが確実に、勇者や魔物が強化されるたびに彼自身も力を増しているようだ。

 目視できるレベルまで濃縮された黒い魔力が立ち上り、彼の左手の魔剣も存在感が強くなっている。
 初めは元の2倍以上あった大きさが、エネルギーを収束でもしているのか少しずつ縮んでいっている。
 だんだんと本物オリジナルの姿に近づいているようだ。それは、見た目や大きさもそうだし、魔剣が放つプレッシャーも。
 ここまで本物に近づいたコピーを見ると、化物達が持っている魔剣がいかにも粗悪品に見えてくる。

 このレベルの魔剣を持ちながら魔化に浸食されていないのは、『大将軍』によって手駒にした勇者や魔物にエネルギーを分散しているのだろう。
 勇者達や魔物達の気持ちさえ無視してしまえば、確かに効率的な方法なのかもしれないが……

 複雑な感情が渦巻いていく。
(ここまでしなくても、勇者の力だけでもこの都市を滅ぼすことぐらい簡単なのではないか?)
 ……いや、違う。そういうことじゃない。
(だとすると将軍の目的はこの都市を滅ぼすことではなく、もっと別のことなのでは……)
 だから、違う。確かにその可能性はあるが、今聞くべきはそんなことじゃない。

 どうにかして、将軍の足止めをしなくてはならないのだが……
 良い言葉が出てこないのは、リスクを分散して戦うというのが、戦略として理解できてしまうからなのかもしれない。
 それでも、このままでは俺達が関わる余地もなく、あっという間にこの都市は滅ぼされてしまう……せめてシオリと忍者が魔物達を逃がすだけの時間を稼ぎたい。
 かといって、怪しまれるようなことになると、凶悪化した勇者や魔物と戦うことになりかねない。

 そうやって手をこまねいていると、アカリが移動して将軍の正面に立った。
 その様子はまるで、将軍の進軍を邪魔しているようにも見える。
「……ねえ、将軍さん。質問があるんだけど、聞いても良い?」
「なんだ。今でなくてはならぬのか……? まあ良い、答えてやろう。聞くが良い!」
「将軍さんの仲間……あの勇者や魔物達は、戦いが終わったら元に戻るんだよね?」
「そのようなことか。もちろんである。我もの無駄遣いはしたくないからな。損傷が少なければ再利用するつもりであるぞ?」
「それって、怪我をしたら見捨てるってこと……? 将軍さんの部下もたくさんいるんじゃないの?」
「部下……まあ確かに、我や姫様に忠誠を誓った者もいる。だが、だからこそ彼らは、我や姫様のために命すらもなげうってくれるのだ。上に立つ者の役割は、その想いを無駄にせぬこと……なのではないか?」
「それは……」
 将軍の言葉を聞いて、アカリは一瞬だけ考え込むようにする。
「それは……違うよ! 少なくともこうやって洗脳して操って、傷がついたら交換するみたいなのは、違う! そんなのは仲間なじゃない。私は、そんなのは認めない!」
「……ほう? それでは、どうするのだ?」

 将軍は、アカリの言葉を聞いても引き下がることはないようだ。
 どちらかというと、挑発的な態度をとっているようにも見える。
 将軍には化物という手駒が無数にあり、しかも完全に近い形の魔剣さえ身につけている。
 ギフトの等級は共にSSランクで互角なのだが、戦力差的に負けることはないと確信しているのだろう。
 それでもアカリは引き下がろうとはしなかったが、将軍が魔剣を指揮棒のようにくるりと振ると、化物達が一斉にこちら側に振り向いた。
 それを見てさすがのアカリもビクリとおじけづいてしまったようだ。
 このままでは言いくるめられてしまいそうなので、俺からも助け船を出すことにしよう。

「将軍、悪いが俺も、アカリの意見に賛成だ。こんなのは人間の……少なくとも勇者のやることじゃない。将軍の世界から連れてきた兵隊はともかくとして、俺達の世界の勇者や、この世界の魔物達を利用するのは間違っている!」
「なるほど確かに、一理ある。だがそれがどうした? 正しかろうと間違っていようと、我にとっては関係ない。お前達の協力を得られないのは惜しいが、それだけの話……それとも我を、力尽くで止めようとするか?」
 将軍がここまで強気なのは、俺達に勇者同士で争う気はないことを見抜かれているからなのかもしれない。
 もしくは、俺達が裏切ったとしても、戦力差で圧倒できるとでも思っているのかもしれない。
 その考えは間違っていなくて、普通の勇者であれば魔剣を持つ将軍にも、魔化して凶暴化した勇者や魔物にも太刀打ちはできないのだろう。

 だが、だとしたらそれは俺達のことを甘く見積もりすぎている。
 勇者としての俺のレベルはおそらく将軍の倍近く、並の勇者と比べれば3倍から5倍になっているはずだ。
 魔剣を持っていることを加味しても十分互角に渡り合えるはずだし、それはアカリにも同じことが言える。
 その証拠に、アカリの目にはメラメラと闘志が宿っている。
「将軍さん。悪いけど、力尽くでも止めさせてもらうよ! イツキくん。私は将軍さんを止めるから、その間周りの人や魔物たちは任せるね!」
「了解! 任せておけ」
 アカリの注文はおそらく「誰一人殺さずに、かつ邪魔が入らないように足止めをしろ」ということなのだろう。
 難易度は超ハードなのだが、任された以上は応えてみせる!
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