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3巻
3-1
しおりを挟む第一章 魔剣の鬼
最低ランクの洗浄魔法と、ラストワン賞だった「聖剣/魔剣召喚」。この二つのスキルを持つ俺――明野樹は、魔王子の呪いによって石にされていた。そんな俺を、第二次勇者召喚でこの世界に来たティナさんが助けてくれた。他にそばにいたのは、俺を見守ってくれていた猫だけ。
洞窟の中にいた俺たちは、地上に戻り、仲間たちと合流することにした――
ティナさんは、洞窟の天井に開いている地上への裂け目から戻るつもりらしい。
洞窟から地上の裂け目まではかなり高さがあったはずだが、「ロープでも張っておいてくれたのか?」と聞いたら「私のギフトでどうにかしますよ」とのこと。創造のギフトを使って、階段のようなものを作るつもりなのかもしれないけれど、詳しくは実際に見ての楽しみということになった。
洞窟の中は、そこかしこにいる鬼火たちのおかげで、かなりの明るさが確保されている。
俺が最初に来たときと比べても、かなり明るい。
そんなことを考えながら歩いていると、どこからか、ささやき声が聞こえてきた。
「あれ、もしかしてイツキじゃない? 変なのが二人いるけど……大丈夫かな?」
「ほんとだ! イツキだよ! 小さいのと大きいのは、イツキが連れてるなら大丈夫でしょ。おーい、イツキー!」
声の主は二体のオニビだった。
俺を知っているということは、以前会ったことがある個体のはずだが、だとすると記憶より大きくなっているように見える。
「オニビたち、元気だったか?」
話しかけたところ、「やっぱりイツキだー!」「イツキが帰ってきたー!」と、その二体のオニビがゆらゆらと近づいてきた。
どうやら、俺の知っているオニビたちで間違いない。
「なんていうか、でかくなったな。見違えたぞ」
「うん! 洞窟が安全になったから、みんなで燃料を集めたの! そしたらこんなに大きくなっちゃった!」
「やくそくどおり、僕たちがイツキのことをおもてなしするよ! ついてきて!」
そういえば、以前オニビたちと別れるときにそんな話をした気もするな。
本当は、今すぐにでも人間界に戻って勇者たちと合流したいのだが……少しぐらいなら大丈夫だろう。
「ティナさん、少しだけ寄り道をしたいんだが、いいか?」
「私はいいですよ。ところでアケノは、この魔霊たちと知り合いなのですか?」
「知り合いというか、以前一度話したことがあるぐらいだけどな。猫も、それでいいよな?」
「問題ないにゃ! それにしてもこの、オニビとか言ったにゃ? 魔力が豊富でおいしそうだにゃ」
猫の言葉を聞いて、オニビたちは「ひえっ」とおびえてしまう。
「おい、冗談でもそういうことを言うな……冗談だよな?」
「にゃ、にゃー」
オニビたちは、ようやく悪魔とやらの恐怖から解放されたというのに、今度は地上から来た猫の魔物に食い荒らされるのでは、あまりにも不憫すぎる。
さすがに本気で言っているわけではないと思うが……念のため、今後猫からは目を離さないでいることにしよう。
オニビたちは複雑に入り組んだ洞窟をずんずん突き進んでいくので、俺たちは岩の隙間を縫うようについていくはめになる。
そのまましばらく歩くと、やがて広い空間にたどり着いた。
空間の中心には大きな炎が立ち上っている。
炎の色は青白く、目が眩むような光の強さの割に、熱はほとんど感じない。
おそらく、実際に何かが燃焼しているのではなく、魔力か何かが光っているだけなのだろう。
炎の周りには、オニビが何十体もふわふわ浮いている。
「アケノ、すごいですね。ものすごい魔力が集まっています……」
ティナさんは、炎の様子を見てポツリと呟いた。
「そうなのか? 俺は見ても分からんが」
「はい。どうやらこのオニビという生命体は、物質を魔力に還元する、分解者の性質があるようです。川から流れてきた流木などを元に、魔力を生成しているのでしょうが、それにしてもこの魔力量は……」
要するにこのオニビたちは、バクテリアが生き物の死骸を分解して養分にするのと同じように、いろいろなものを魔力に変換しているらしい。
「イツキ! 見て、すごいでしょ! 僕たち、こんなに大きくなったんだよ!」
「悪魔がいなくなったから頑張って集めて、そしたらこんなに大きくなったんだ! ……ちょっと待っててね」
そう言うと、案内してくれたオニビたちは、炎の中へ飛び込んでしまった。
残された俺たちは、同じように飛び込むわけにもいかないので、もう少し炎の様子を観察することにした。
炎のゆらめきは壁に反射して、幻想的な光景を俺たちに見せてくれる。
そんなこんなで何事もなく三分ぐらい経過した。
何もせずにじっと待つ時間というのは長く感じるもので、猫はすでに飽きたらしく、地面に転がっている。
俺としても、早くアカリやシオリと再会して無事を伝えたいと思っているから、のんびりしている時間はあまりない。……とりあえず礼だけ言って、地上に戻ることにしようかな。
そう考えて、ティナさんを見ると、彼女も同じようにこちらを見ていた。
「アケノ、それではそろそろ、行きましょう。確かにこれは綺麗で、美しいものを見せてもらいましたが、私たちにはあまり時間が……」
「そうだな。オニビたち、ありがとう。俺たちはもう行くことにするよ。この世界が平和になったらまた来るから、そのときはゆっくりさせてほしい」
俺たちを案内してくれたオニビたちは炎の中に飛び込んでしまっているので、代わりに、周りでうろうろしている別のオニビたちに声をかけ、その場を立ち去ろうとする。
すると、オニビたちは出入り口の方に回り込んで、俺たちの帰り道を塞いでしまった。
「ま……待って!」
「もう少し、待って!」
「二人が出てくるまで待って!」
どうやら、オニビたちは勇気を振り絞って、俺たちを足止めしているようだ。
「イツキ、もうこいつら、食っちゃうべきだにゃ!」
「猫は少し黙ってて。……ティナさん、どう思う?」
「私たちを罠に嵌めようとしているのでしょうか。そういう様子は見られませんが……アケノがしたいようにすればいいと思いますよ」
「ティナさんがそう言ってくれるのなら、あと少しだけ待ってみようかな」
オニビたちは恩を仇で返すようなやつらじゃないだろうし、急いで人間界に帰りたいとはいえ、一刻を争うほどではないから。
そういうわけで、その場に座り込んでから何かを話すわけでもなく五分ぐらいが経過した。
黙って炎を見続けているのに飽きてきた頃、ようやく炎の中から二人のオニビが飛び出してきた。
「お待たせ! 待った?」
「待ちわびたよ……それで、何してたの?」
「えっとね、他の炎や、偉いオニビたちと話をしてきたの!」
「思ったよりも長引いてしまって……でも、最後には僕たちの意見を通すことができました!」
オニビたちは、あの炎の中でそんなことをしていたのか。
「それで、話って? 何を話してきたんだ?」
「聞いて! イツキ、私たち、あなたたちと一緒に旅をすることにしたわ!」
「イツキ、僕たちを、君たちの旅に同行させてください! 僕たちに、ちじょうの光景を見せてください!」
オニビには顔などないのだが、それでも二体が強い意志の宿った表情をしているように感じられた。
どうやらオニビたちは本気で、俺たちとともに地上を目指すつもりでいるようだ。
「俺たちについてくるのはいいが、地上には魔物もいるから、安全は保証できないぞ?」
「それは、僕たちがこの洞窟から出なくても同じことです。あの悪魔やその猫のような存在が、いつまた現れるかも分かりません。だとしたら、イツキたちと一緒に旅をした方が、僕たちにとっては安全なのです」
つまり、種の存続のために外の世界に出るということか。
今までは生き残るために隠れて暮らしていたが、それに限界を感じたから、方針を変えるのだろうか。
「本当にそれでいいんだな? ここにはもう、戻ってこられないかもしれないぞ?」
「大丈夫。私たちに別れは告げてきたから。それに私は、不安よりも楽しみな気持ちの方が強いの!」
「僕たちのことは、あまり心配しなくていいよ。それよりもイツキ。僕たちからイツキに、贈りものがあるよ。受け取ってくれる?」
そう言って、オニビは炎の中から、オレンジがかったシンプルな短剣を取り出した。
ちょうど、聖剣/魔剣以外は丸腰の状態だったから、武器をもらえるのは素直に助かるものの……
「オニビたちはこう言ってるけど……ティナさんは問題ないか?」
「彼らが来たいというのなら、反対はしませんが……」
「私も、こいつらを連れていくことには賛成にゃ!」
「ほう? ティナさんはともかく、猫が賛成するのは意外な気がするな」
「だって、こいつらはいざとなったら非常食になるにゃ!」
「いや、食べるなよ?」
やはり、猫に対して注意を払う必要はありそうだが、とりあえず二人とも、オニビがついてくることには賛成してくれた。だとしたら俺も、反対する理由はない。
「分かった。じゃあオニビたち、これから一緒に地上を目指そう。外に出た後どうするかは、そのときまでに考えておいてくれ。そのまま俺たちについてきてもいいし、満足して洞窟に帰ってもいいからな……」
「やった! みんな、僕たちはこれから、ちじょうを目指すよ! ありがとう、イツキ!」
「イツキ、ありがとう! 私たちも、精一杯イツキたちのことをサポートするからね!」
こうして、人間二人に猫一匹、オニビが二体という変則チームが結成された。
オニビたちを仲間に加え、俺たちはティナさんの案内に従って洞窟の川を遡上していく。
洞窟は編み目のように分岐しているし、川も合流したり分離したりと不規則に流れを変えているから、俺一人だったら確実に道に迷っていただろう。だが、ティナさんは洞窟の全てを知り尽くしているかのように、迷うことなくスイスイ進んでいった。
そうして進むこと数十分。
「アケノ、もうじき見えてくるはずですよ」
「確かに、空気の流れが変わった気がする……あ、見えた。あれが、俺たちが落ちてきた裂け目か。遠くからでも目立つんだな」
ティナさんに言われて顔を上げると、まだ離れた場所ではあるが、天井の亀裂から太陽の光が差し込んでいるのが見えた。
石化が解除されてからずっと洞窟の中にいたので、時間感覚が鈍っていたが、つまり今、地上は昼間なのだろう。
「人間、お前の故郷は、あの光の先にあるのかにゃ?」
「ああ、そうだ。あの先が人間界……つまり、俺たちはあの裂け目から落ちてきた。まあ、故郷と言えないこともないかな」
正確には、俺の本当の故郷はこの世界には存在しないのだが、ややこしくなるので説明は省くことにしよう。
猫に続いて、オニビたちも楽しそうに話しかけてくる。
「ということは、この先にちじょうが広がっているんだね! ……ねえイツキ、これは僕の想像だけど、もしかしてここって、勇者が悪魔を倒した『光の間』じゃない?」
「オニビの言うとおりだよ! ほんとうに、うえから光が差し込んでる。ここで、輝きの剣の勇者が、悪魔を倒したんだよね! すごい、私、今すごい場所にいる……いつか帰ったら、仲間のオニビに自慢しなきゃ!」
オニビたちは、観光客のようにあっちこっちにふらふらしているが、その輝きの剣の勇者というのが俺のことだとは考えもしないだろう。
まあ俺自身、実は人違いだったという可能性が捨てきれないし、今更名乗り上げるつもりはないが。
地上につながる裂け目が見えてさらに少し歩くと、ティナさんが立ち止まり、小声で話しかけてきた。
「アケノ、見てください。どうやら私たちの他に、誰かが来ているようです」
ティナさんが指さしている裂け目の方に視線を向けてみると、天井から細いロープが一本、垂れ下がっていた。
風は吹いていないのに揺れている……ということは、あのロープが使われてから、まだあまり時間が経っていないのだろう。
他の勇者が探索をしているのか? それとも、地上に戻った誰かが、回収せずに放置しているだけなのか?
いずれにせよ都合がいい。あのロープを使えば、楽に地上に行けそうだ。
「ティナさん。せっかくだから、あのロープを使わせてもらおうぜ。猫は……その手足じゃロープは無理そうだから、俺に掴まって。オニビたちは……」
「アケノ、少し待ってください。私が降りてきたときには、あんなものはありませんでした。つまり、私が来た後で誰かが洞窟に降りてきたということです。念のために気配を消して隠れて近づきましょう!」
「あ、ああ、分かった」
ティナさんに言われて、気配を消して岩陰から覗いてみると……そこには確かに、何かがいる。
二足歩行で言葉も話しているが、見た目は人間ではない。
どちらかといえば、魔界にいた鬼族の方が近い。いや、鬼そのものだな。
「イツキ、あれを見て! 僕たちの仲間が!」
「私たちの仲間が、捕らえられているようです! イツキ、あの子たちを助けてあげられますか?」
鬼たちは、光り輝くオニビを何体か捕まえて、鳥かごのような入れものに詰め込んでいた。
そして「げっげっげっ」という汚い笑い声とともに「これを魔王さまに献上すれば、おれっちたちも大出世だぜ!」というやりとりが聞こえてくる。
捕らえられたオニビたちは、恐怖で声を上げることもできずに、ぷるぷると震えている。
「そういうことなら、俺に任せておけ。どうやらあいつらは魔王軍らしい。ということは、俺たちの敵だ。敵を倒すついでに、オニビたちの仲間も一緒に――」
「そういうことなら私も手伝います。いえ、ここは私に任せてくれませんか? ギフトを試してみたいですし、レベルも上げておきたいので」
確かに、俺のレベルは50近くあるのに、彼女のレベルはまだ13しかないからな。
危険になれば俺が助けに入ることにして、ここは彼女に任せよう。
「分かった。だが、気をつけろよ」
「もちろんです。アケノはここで見ていてください!」
鬼たちを向いて片手を上げると、ティナさんはぴょんと数メートル飛び上がって、壁に足をつける。そしてそのまま、三角飛びのようにして一気に鬼たちに飛び込んでいった。
「やあああああああ!」
鬼たちは、叫び声を上げて勢いよく飛びかかってくるティナさんに驚いたのか、鳥かごを取り落とした。あたふたしているうちに、鬼の首が一つ飛んだ。
もう一匹の鬼は慌てて腰の剣に手を当てるが、あまりに遅い。ティナさんは、鬼の剣が鞘から抜けきる前に、もう一度振り抜いて、鬼の胴体が真っ二つにした。
残ったのは、身長の倍以上はある巨大な鉈のような剣を担いだティナさん一人だけ。
彼女はその剣を、ぶんぶん振り回した後にぽいと放り投げる。すると、剣は粒子になって消えていく。
「ふう……アケノ! 倒しましたよ、もう来ても大丈夫……」
「ティナさん! 後ろ! まだ他のがいる!」
「えっ?」
油断していたティナさんの背後にいたのは、先ほどの三倍以上は背丈のある、巨大な鬼だった。ティナさんは、慌ててステップを踏むことで、最初の一撃はなんとかかわせたが、このままでは次の一撃をかわしきれない!
「ティナさん、その場で伏せて!」
「え、はい!」
ティナさんは、俺の一言を信じて、伏せてくれた。
そのおかげで、俺と鬼の間に障害物がなくなった。
だが、まだ距離がある。どれだけ急いで走っても間に合わない。だから――
「聖剣は、投げるもの!」
右手に召喚した聖剣を、思いきり投げつける。
聖剣は、俺の手を離れてブーメランのようにくるくると回転しながら、一直線に大鬼のもとへ向かい――そして、吸い込まれるように胸に突き刺さった。
「ティナさん、大丈夫?」
「その、えっと……ありがとうございます。油断していました。ところでアケノ、この剣は?」
「ああ、これがさっき話した、俺のギフトで召喚できる武器の一つ、聖剣だ」
「そうですか……これが……」
タイムリミットがあるので聖剣はすぐに消し、油断せずに周囲を確認する。
どうやら、あの鬼が落としたときに鳥かごが壊れたらしく、捕らえられていたオニビたちは無事に抜け出すことができた。
鬼たちの死体は灰になって消滅している。他の鬼の気配はない。
「どうやら、なんとかなったようだにゃ」
「ええ。アケノに助けられましたね。ところでアケノ、ステータスカードについて質問をしてもいいですか?」
ティナさんは、レベルが上がったからポイントを割り振ろうとしたのか、ステータスカードを取り出した。しかし、少し操作したところで、俺に画面を見せながら尋ねてきた。
「使い方か? だったらこうやってカードの画面をスライドすると……」
「はい、それは見てすぐに分かりました。それよりも、有効期限切れのポイントについて……私のカードは少しずつしか回復しないみたいなのですが、アケノのカードもそうですか?」
俺が苦戦したカードの使い方を、ティナは一目で見抜いたらしい。
さすがは賢者のギフトを持つだけある……って、そうじゃなくて。
「え、少しずつ回復? それってどういう?」
ティナの言葉が気になって、俺も自分のカードを見てみる。どうやら、さっき大鬼を倒したときにレベルが上がったようだ。
そして、ポイントの画面を表示させると――
明野樹
年齢:17
レベル:53
スキルポイント:9+10(再使用可能)+180(有効期限切れ)
有効期限切れだったポイントが、10ポイントだけ復活している。
レベルが上がっても全てが即座に使えるわけではないが、これはありがたい。
だが結局のところ、「後でやればいい」とか考えずに、ポイントはすぐに使い切った方が面倒がなくてよさそうだ。
とはいえ今のところ、19ポイントではまともなスキルを取得できないし、もう少し回復させる必要はある。
「ティナさん、俺のはこんな感じでした。ティナさんのも?」
「はい。残念ですが、まだ使えない分が結構あります……ですが、これでポイントが入ったので、ギフトを強化できますね!」
ティナさんは、そのまま迷うそぶりも見せず、スキルポイントの割り振りをささっと済ませてしまった。
初めて使うとは思えない手際のよさだ。
「アケノ、終わりました。アケノは、ポイントを使わないのですか?」
「ああ。まあ、もう少し溜めてからにしようかな、と。また期限切れにならないように、適度に魔物を倒さなくちゃだが」
「それは面倒ですが、仕方ないですね」
地下にはほとんど魔物がいないから、ポイントの期限を維持するのは難しいが、地上に戻れば魔物がいくらでもいるので、まあなんとかなるだろう。
「そういえば、もしかしてティナさんは、何にポイントを使うかあらかじめ決めてたのか? ギフトが二種類あるから、もう少し悩むかと思ったんだが……」
俺の場合はそもそも、聖剣/魔剣召喚を強化するのに必要なポイントが高すぎるため、仕方なく洗浄のギフトを強化したのだが、そのときだってもう少し悩んでいた気がする。
ティナさんの場合は二つとも優秀そうなギフトだから、ポイントを使い切るか溜めておくか、もう少し悩んでもよさそうだが……
しかし、彼女からは意外な答えが返ってきた。
「アケノ、賢者のギフトにはポイントを割り振れないんですよ。SSSレアのギフトは、レベルとともに勝手に成長する代わりに、伸ばしたい方向に伸ばすことができないんです。なので、ポイントは全て創造に使えばいいのです」
「SSSレアギフトは……ってことは、勇者のギフトも、そうなのか?」
俺が聞くと、ティナさんは自信なさげに答えた。
「勇者を直接見ていないのでなんとも言えませんが、SSSのギフトならおそらく私と同じはずです」
つまりあのジイさんは、大量のポイントを使わずに溜め込んでいたことになる。
それはなんか、もったいないな。
もし、ラストワンのギフトが俺じゃなくて、真の勇者に渡っていたら、中途半端に他のギフトにポイントを振ることもなく、最強の聖剣と魔剣が誕生していたのかもしれない。だが……まあ、そんなことを考えても仕方がないか。
ティナとの話が一区切りすると、次はオニビたちが近づいてきた。
「イツキ、さっき助けたオニビたちが、イツキとその人にお礼を言いたいんだって」
「あとね、イツキが迷惑じゃなければ、若いオニビを二~三人連れていってほしいらしいよ。なんか、余裕があるから、ちじょう進出をかんがえてるんだって」
これ以上オニビが増えると、魔物とかから守りきれるか心配になってくるが、地上に運ぶぐらいなら別にいいか。
連れてきたオニビより少し小柄なオニビたちが、か細い声で「おねがいします!」「おねがいします!」と言っている様子が楽しげでかわいいし、断る理由もない。
「そういうことなら、俺は構わない。ティナさんと猫も、それでいいか?」
「私はそれで構わないにゃ! それよりはやく地上に向かうにゃ!」
「そうですね……ではその子たちは、あの鬼たちが使っていた鳥かごに入れて運びましょうか。私はこちらのオニビたちを運びますので、アケノは猫さんと、最初のオニビたちをお願いしますね」
ティナさんがあの鳥かごを指差して言う。
確かに、オニビたちを上へつれていくのに道具を使うのは賛成だ。
「任された。じゃあとりあえず猫は俺の背中に掴まってもらうとして、お前たちはどうしようか」
オニビたちを地上に運ぶ……オニビたちは見た目の割に熱は発していないから、触っても熱くはないだろう。わしづかみにして運ぶか……あるいは、ティナさんのように何か入れものを使うか?
「イツキ! だったら僕もイツキの背中に掴まっていくよ! えいっ!」
「あ、ずるい! 私も!」
あたりに何かいいものでも落ちていないかと探していると、オニビたちが背中にピタリと張りついてきた。熱くないのは分かっていたが、重さもほとんど感じないのには少し驚いた。
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