上 下
68 / 89
魔王戦争

追走

しおりを挟む
 その場に残された俺達は、途方に暮れたようにわいわいと盛り上がる勇者達を眺めていた。

「どうする? このままこいつらに着いていくか? こいつらの目的地も、俺達と同じようだが……」
 二人に考えを聞いてみたが、やはりいい顔はしなかった。
「そうですね。確かに、この勇者達は二人の元へ向かっているそうなので、同行すれば道に迷うことはありません。ですが……」
「でも、この人達の移動に会わせていたらティナちゃんと赤髪くんには追いつけないと思うよ?」
 アカリが言うと、シオリも同じことを思っていたのか黙って頷いた。
 俺も二人と同じことを考えている。
 なにせ、魔物の群れを倒し終わって大分時間が経ったのに、まだ出発の準備すら始めずに盛り上がっているような奴らだからな。
 それに、これからの戦いでは中途半端な力を手にしてしまったこの勇者達は邪魔にもなる。

 幸いなことにと言うか、ティナと赤髪が向かっている方角だけはわかったから、あとは勘を頼りにこのまま追っていくことにしようか……
「とにかく、ここでじっとしていても仕方がないし、俺達は移動しよう。二人とも、準備は良いか? 疲れがあるなら、休憩を入れても良いが……」
「私は、大丈夫です。アカリは?」
「私も大丈夫だよ。それにしても、こんな時に忍者くんがいたら役に立つんだけどね……」
 不意にアカリがそう呟いて、三人ともが変な予感でも感じたのか「まさか」と思いながら顔を合わせる。
 確かに忍者あいつは神出鬼没だが、呼んだら出てくるような便利なキャラでは……
「拙者のことを、呼んでござるか?」
「いや、いるんかい!」

 声がしたので振り返ると、音もなく忍者が現れた。
 とっさにツッコミを入れてしまったが、アカリとシオリはこういう展開になれているのか、「そんな気はしていた」と言いたそうな顔でため息を入れた。
「忍者くん、いるんだったらすぐに出てきてよ! もしかしてきみ、私たちが驚くようなタイミングを狙ってるの?」
「いや、そういうわけではないでござる。ティナ殿を追っている途中でたまたまここを通りがかったのでござるが……お主らも?」
「ティナを追っている……ということは忍者、お前、ティナと赤髪の居場所がわかるのか?」
「赤髪の勇者殿も一緒にいるのでござるか? あいにく拙者にわかるのはティナ殿の居場所だけでござる」
 ティナの居場所がわかる?
 忍者の能力や情報網であれば、人の居場所がわかることを疑いはしないのだが、二人のうちの片方だけ……しかも、忍者とはより関わりの薄いティナの方だけ場所がわかるというのは、不自然ではなかろうか。
 同じことを考えていたのか、俺が質問する前にシオリが忍者に問いかけた。
「忍者さん、なぜ、ティナさんだけ場所がわかるのですか? 発信器でもつけていたのですか?」
「いや、そうではござらん……話すよりも見た方が早い。これを見でござる」
 そう言って、忍者は左手を持ち上げ手の甲をこちらに向ける。
 細い鎖のようなものがぐるぐるに巻き付けられていたが、その隙間から見えるのは……ほかの勇者達が刻んでいるのと全く同じ魔剣の紋章だった。

「それは……お前もティナから魔剣を?」
「イツキ殿も事情を知っているようでござるな。その通り。ティナ殿あやつは村で待機していた全勇者に魔剣これを縫い付け、立ち去っていった。この呪いを解くには、魔剣の本体を封印するしかないのでござる」
「……ちょっと待て。俺が思っているのと状況が違うな。その力は、望んで得た物ではないのか?」
 魔剣や聖剣の力に酔うように盛り上がっている勇者の一団を一瞥し「あいつらは喜んでいるように見えるが」と聞くと、忍者は首を横に振った。
魔剣これ聖剣あれには、強い中毒性があるのでござる。レベルの低い勇者は抗うことができず虜となり、レベルの高い勇者でも封印無しでは平常心を保てないのでござる。拙者も、錬金術師殿と呪術師殿が協力して開発したこの鎖が無ければ、どうなっていたことか……」
 忍者は鎖を巻き付けたままの左手を降ろしながらそう言った。
 錬金術師は知っているが、呪術師というのは……確か、ティナと同じタイミングで召喚された、いわゆる「第二次召喚勇者」というやつだったはず。
 そんな彼も協力しているということは、ティナの暴走(?)は誰にとっても想定外だったのだろう。
 そしてそれは、聖剣の紋章をばらまいている赤髪にも同じことが言えそうだが……

 今までは「現時点で魔王は存在しない」ことや「魔王の儀式に聖剣や魔剣が深く関わっているらしい」ことを伝えるために二人を追っていたのだが、目的が新たに増えた。
 何が起きているのかを確認して、場合によっては力尽くでも止めなくてはいけないかもしれない……
「ねえ、忍者君。その鎖って、予備はないの? あるなら私たちも欲しいんだけど……」
 アカリが聞くと、忍者は「もちろんでござる」と言って、どこかから箱を取り出しアカリに手渡した。
 箱を開けて中身を確認すると、その中には三本の細い鎖が丁寧に収められている。
「これは、拙者がつけているのと全く同じ鎖でござる。左手用と右手用と、残りの一つは予備でござる。シオリ殿と、イツキ殿も受け取っておくでござる」
「ありがとうございます」
「ああ、ありがたく受け取っておく。念のために聞くが、魔剣や聖剣が召喚されたらその手に巻き付ければ良いんだよな?」
「その通りでござる。そしてこの鎖を赤髪殿やティナ殿に巻き付ければ、この事態を収束できるのではないかと考えているのでござる」
「本体を封印することで、全員を救うってことか。それで本当になんとかなるのか?」
「残念ながらその根拠は無いでござる。しかしすでに一刻を争う。お館様は『わずかでも可能性があれば試すべき』と判断したのでござる」

 魔剣や聖剣を与えられて勇者が力を得たのだから、それは良いことなのでは?
 と考えが頭をよぎったが、よく考えたらそうして魔物と戦った勇者が何人も命を落としている。
 普通では勝てるかどうかもわからず慎重になるような相手に無謀にも突撃している状態なのだから、確かにすぐにでも止めさせるべきという判断は間違っていないようにも思える。
「だったら、この鎖をあの勇者達にも……」
「自制心のない者は封印を全力で拒絶してくるのでござる。こちらも全力で拘束すれば封印は可能でござるが、一人一人にそれをするのは現実的ではないのでござる」
「それで、本体に直接……っていう話になったのか。わかった、それなら俺達もそれに協力させてもらうぜ」
「協力感謝するでござる。アカリ殿とシオリ殿も、協力をお願いしても良いでござるか?」
「もちろんです。私も、仲間が暴走しているのは止めたいと思いますから……」
「私も、もちろん協力するよ。ティナちゃんや赤髪くんには、元々用事もあったから……ね」
 忍者への協力を快く了承した二人は、視線を上げて俺達の方を見る。
「ああ、そういうことだ。ということで忍者、二人の元へ案内してくれるか?」
「そうでござるな……長話をしすぎたでござる。全力で走るから、着いてくるでござる!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~

みょっつ三世
ファンタジー
――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。  高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。  なにせ異世界にクラス転移した上に真の勇者のみが引き抜けるという聖剣を引き抜いてしまったからだ。どこからどう見ても陰キャなのにだ。おかしいだろ。  普通そういうのは陽キャイケメンの役目じゃないのか。そう考え影人は勇者を辞退しようとするがどうにもそういう雰囲気じゃない。しかもクラスメイト達は不満な視線を向けてくるし、僕らを転移させた王国も何やらキナ臭い。 仕方ないので影人は王国から逃亡を決意することにした。※学園一の美少女付き ん? この聖剣……しゃべるぞ!!※はい。魔剣もしゃべります。

女神のチョンボで異世界に召喚されてしまった。どうしてくれるんだよ?

よっしぃ
ファンタジー
僕の名前は 口田 士門くちた しもん。31歳独身。 転勤の為、新たな赴任地へ車で荷物を積んで移動中、妙な光を通過したと思ったら、気絶してた。目が覚めると何かを刎ねたのかフロントガラスは割れ、血だらけに。 吐き気がして外に出て、嘔吐してると化け物に襲われる…が、武器で殴られたにもかかわらず、服が傷ついたけど、ダメージがない。怖くて化け物を突き飛ばすと何故かスプラッターに。 そして何か画面が出てくるけど、読めない。 さらに現地の人が現れるけど、言葉が理解できない。 何なんだ、ここは?そしてどうなってるんだ? 私は女神。 星系を管理しているんだけど、ちょっとしたミスで地球という星に居る勇者候補を召喚しようとしてミスっちゃって。 1人召喚するはずが、周りの建物ごと沢山の人を召喚しちゃってて。 さらに追い打ちをかけるように、取り消そうとしたら、召喚した場所が経験値100倍になっちゃってて、現地の魔物が召喚した人を殺しちゃって、あっという間に高レベルに。 これがさらに上司にばれちゃって大騒ぎに・・・・ これは女神のついうっかりから始まった、異世界召喚に巻き込まれた口田を中心とする物語。 旧題 女神のチョンボで大変な事に 誤字脱字等を修正、一部内容の変更及び加筆を行っています。また一度完結しましたが、完結前のはしょり過ぎた部分を新たに加え、執筆中です! 前回の作品は一度消しましたが、読みたいという要望が多いので、おさらいも含め、再び投稿します。 前回530話あたりまでで完結させていますが、8月6日現在約570話になってます。毎日1話執筆予定で、当面続きます。 アルファポリスで公開しなかった部分までは一気に公開していく予定です。 新たな部分は時間の都合で8月末あたりから公開できそうです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。