上 下
66 / 89
魔王戦争

収穫祭

しおりを挟む
 ティナと赤髪を追ってさらに魔界を進んでいるのだが、二人が魔物と戦った痕跡は途切れ途切れになってきていた。
 その代わりに、一カ所にまとまって大量の灰が大量に舞っている。
 灰の量から考えて、十匹やそこらではない。数百か、もしかしたら数千の魔物の残骸だ。
 おそらくこれは、人間界に向かって進軍中の魔物の軍隊と交戦した結果なのだろう。
 そして灰の上には、勇者達の足跡が。
 先に進むごとに数が増えているように感じるのは気のせいだろうか……

 ただの勇者がついていったとしても、聖剣や魔剣を持つ二人の足を引っ張る結果になりそうだから、むしろ人間界に残って村の防衛をしてもらった方が良いのかもしれないが、一大決戦の予感にいても立ってもいられなくなる気持ちは同じ勇者としてよくわかる。
 それに、彼らが後を追ってくれている結果、大勢の人が移動した痕跡がいろいろな場所に見られるおかげで、俺達も後を追いやすい。
 そういう意味では助かっている。つまり、何が良くて何が悪いということは簡単には決めつけられないのだろう。

 もはや、ティナと赤髪を追ってと言うよりは、勇者達の後を追ってと言う方が近い状況になっているのだが、とにかくそうして魔界を進んでいくと、アカリが何かに気がついたように声を上げた。
「イツキくん、あれ……見える?」
 アカリが指さす方に目を向けると、かなり離れた場所ではあるが、灰や土煙が舞い上がっているのが見えた。
 少し走る速度を落として近づいていくと、大勢の人や魔物が争っているような喧噪が聞こえてくる。

「勇者が魔物と戦っている……追いついたのか?」
「いえ……おそらくですが、イツキ。あそこにあの二人はいませんよ」
「シオリちゃんの言うとおりだと思うよ。ティナちゃんや赤髪くんがいたら、そもそも戦いにすらならないと思うから……とにかく、行ってみようよ!」
「そうだな」
 確かに、それもそうか。
 ティナか赤髪のどちらか一人でもいれば、ある程度の魔物の軍勢など聖剣や魔剣の一撃で終わらせてしまう。
 文字通り、戦いは同じレベルの者どうしの間でしか成立しない。
 となれば、今のような形で争いが起きているということは、あそこには圧倒的強者であるところの勇者と賢者はいないということか。
 ……あるいは、あの二人に匹敵するだけの敵が存在する可能性もあるのだが、それにしては、戦闘がおとなしすぎる。

 戦いの起きている方へと走っていくと、そこでは陣形も作戦もない、泥沼の戦いが行われていた。
 数十人の勇者と、数百体の魔物が、ぐちゃぐちゃに入り乱れて殺し合っている。
 個々のステータスでは勇者が上をいっているようにも見えるが、数の差を覆せるほどではないようで、不意に後ろから突き出された獣の角が、一人の勇者に突き刺さり……そしてその勇者は魔物と同じように、灰になって消滅する。
 彼が身につけていた服装までも灰になって消滅し、遺されたのは大量の灰と一枚のステータスカードだけだった。

「そ、そんな……」
 アカリは、顔も覚えていないような勇者があっけなく死んだ様子を見てがっくしと膝をついた。
 俺もシオリも、勇者である仲間の死を目前にして、思わず立ち止まってしまったが、戦いのさなかにいる勇者達はそれでも手を止めもしない。
 まるで、そんなふうに仲間が死ぬことに対して何も感じていないようにすら見える……
 よく見ると、彼らが手にしているのは聖剣や魔剣によく似た武器で、人間であるはずの勇者達には、人間らしからぬ角や羽が生えている。
「……あれは、魔化や聖化が起きているのか?」
「私も同じことを考えていました。あの現象は、イツキが聖剣 / 魔剣ぶきを召喚したときの反応とよく似ています……」
 シオリも、俺と同じことを感じたらしい。
 だとしたら、あの狂ったような戦い方は、正義や破壊衝動が原因か?
 敵と味方は判別できるのか、勇者同士での争いは起きていないようだけど、互いに協力する様子は見られない。
 それでも魔物の大軍と戦うことができているのは、聖剣や魔剣によってステータスの底上げがされているからなのだろうか……

 考え事をしていると、ショックを受けていたアカリが、膝に手をつきながら立ち上がった。
「イツキくん、シオリちゃん。今はとにかく、助けに行こう!」
「……そうだな。あの程度の魔物、俺達ならどうにでもなる。手分けしていくぞ!」
 勇者達は聖剣 / 魔剣ぶきによってステータスが底上げされているようだが、それでも高レベル勇者である俺達の足下にも及ばない。
 そう判断した俺は、人や魔物の間を縫うようにして、通り抜けざまに魔物を切り裂きながら戦いの奥へと進んでいく。
 召喚剣の扱いに慣れる目的も含めて、ソラワリもコトワリも使わず、召喚剣で戦っているが、それでも全く問題なく敵を一撃で倒すことができる。
 何かを囲うようにしていた十数匹の魔物を倒しきると、聖剣もどきを手にした勇者がいた。
「……助太刀する。大丈夫か?」
「ううっ……正義……正義……」
 だが、話しかけた勇者は助けに入った俺のことなど無視して、別の魔物の元へと突きすすもうとする。
 これは……完全に聖化の衝動に侵食されてしまっている。
「おい、やめろっ! ここは俺達に任せて、お前達は休んで……」
「正義正義正義! 正義正義正義正義正義正義!!」
「っ!」
 肩を掴んで止めようとしたら、それを振り払って魔物の中に突っ込んでいき、数匹の魔物を聖剣で切り刻んだ直後、後ろから近づいてくる大型の魔物の爪に切り刻まれて……そのままあっけなく灰になって消滅した。

「二人とも、駄目です! こいつらには話が通じません! 一刻も早く、全ての魔物を片付けないと!」
 どこかから、シオリの声が聞こえてくる。
 アカリも同じように苦戦しているのか「止まって! ねえ、止まってよ!」と声が聞こえてくる。
 勇者による獣のようなうなり声。
 勇者による正義の斉唱。
 倒される魔物や勇者の断末魔。

 気がついたら俺は、地獄のような光景の中心にいた。
 俺はただ、勇者達を救いたいという気持ちも薄まっていく中、この醜い争いを一刻も早く終わらせたいという理由で、ただひたすらに剣を振る。
 数百体の魔物を倒し、数人の勇者が守り切れずに死んでいくのを見て、数分間戦い続けてようやく、全ての魔物を倒すことができた。
 敵は決して強くなかった。
 俺一人でも簡単に倒せたと思うし、しかも今回はアカリとシオリも一緒に戦っていた。
 それにもかかわらずこの戦いは、俺がこの世界に召喚されてから一番苦戦した戦いだった。
しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠
ファンタジー
長く苦しい戦いの果てに、魔王を倒した勇者トウヤは地球に帰る事となった。 だがそこで予想もしない出来事が起きる。 なんとトウヤが強くなりすぎて元の世界に帰れなくなってしまったのだ。 仕方なくトウヤは元の世界に帰るアテが見つかるまで、平和になった世界を見て回る事にする。 しかし魔王との戦いで世界は荒廃しきっていた。 そんな世界の状況を見かねたトウヤは、異世界を復興させる為、ついでに自分が住み良くする為に、この世界の人間が想像も付かない様な改革を繰り広げてしまう。 「どうせいつかは地球に帰るんだし、ちょっとくらい住み良くしても良いよね」 これは故郷に帰れなくなった勇者が気軽に世界を発展させてしまう物語である。 ついでに本来勇者が手に入れる筈だった褒美も貰えるお話です。 ※序盤は異世界の現状を探っているので本格的に発展させるのは10話辺りからです。 おかげさまで本作がアルファポリス様より書籍化が決定致しました! それもこれも皆様の応援のお陰です! 書き下ろし要素もありますので、発売した際はぜひお手にとってみてください!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。