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魔王戦争

魔王

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 ネズミの言葉を聞いて、俺とアカリは黙り込んだ。
 シオリだけが「やはりそうですか……」と呟いている。

「どういう……ことだ? だったら俺達は、一体何と戦っていたんだ?」
「そうだよ! シオリちゃん、どういうことなの?」
「私も詳しくはないです。ただ、図書館にある膨大な情報の中に、魔王の歴史や魔王の姿について書かれた本が一冊もなかったので……魔族についての本や、魔族の言葉で書かれた本まであるのに、その長であるはずの魔王についての記述が無いのはおかしいと思ったのです。それこそ、この世界には魔王など存在しないし、それどころか、歴史を振り返っても存在したことがないようにしか……」
「……なあ、ネズミ。魔王って一体、何なんだ?」
「……」
「そうか、黙り込むか……まあ、そうだよな」

 ネズミからすると、わざわざ俺達に情報を伝える理由がないだろうからな。
 さっきは、思わず馬鹿にするような形でシオリの問いに答えていたが、冷静さを取り戻してしまった今となっては、同じ手は通用しない。
 ならば、別の手を考える必要があるのだが……

「二人とも、少し良いか? 相談があるんだが……」
 俺は、アカリとシオリに声をかけ、ネズミに聞こえないように少し距離をとった場所に移動して、小声で話を続けることにする。
「あのネズミから情報を聞き出したいと思うんだが……取引を持ちかけてみても良いと思うか?」
「うん。私もイツキくんに賛成! どうやら、あのネズミさんは私たちの知らないことをいろいろ知っているみたいだからね……」
 アカリは即座に賛成してくれたが、シオリは少し微妙な顔をしている。
「敵である魔族に……ほかの勇者に知られたら面倒なことになりそうですね」
「あ、それは確かにシオリちゃんの言う通りかも……やっぱり、やめとく?」
「いえ、ですが、やはり聞きましょう。他のものには拷問して聞き出したとでも伝えれば納得するはずです」
「俺は、本当に拷問しても良いと思うんだけどな」
「平和的に解決できる可能性があるのなら、手を汚すことはできるだけやめませんか……?」
「そうだね。それに私たちは、拷問のやり方なんて詳しくないしね」

 結局、三人で話し合った結果、あのネズミからいろいろ情報を聞き出すということになった。
 とりあえずの交渉役は俺がやることにして、二人はその手助けをすることに。
 方針が決まった俺達は、再びネズミの元へと向かう。

「グラット族……だったか?」
「ナンダ、劣等種!」
「お前に聞きたいことがある。質問に答えてくれないか?」
「それでオレに、何の得がある? オレはどうせ、その後で死ぬんだろう?」
「そうだな……分かった。質問に答えてくれたら、その後でお前は逃がしてやっても良い。俺達に用意できる物なら、手土産を渡してやっても良い」
「……オマエが、嘘をついていない証拠はあるノカ?」
「それに関しては、俺のことを信じてもらうしかない。だが正直なところ、俺はお前達に襲われはしたが、仲間を殺されたわけではない。だから実は、俺がお前を殺す理由がそもそもそんなにないんだが……」

 ネズミを倒すことで、経験値が入るとはいっても、所詮ネズミ一匹分の経験値でしかない。
 ここで倒さず逃がしても、そのことがそこまで痛手になることはないだろう。

「……それに、もしお前が生きて魔界に帰ってそのことを話せば、魔族が抱く人間へのイメージも多少は緩和されるだろ? 約束を守ることで俺にとっても利益がある。それに、嘘をつくかもしれないのはお前にも言える。そこは、互いに信じ合うしかないんじゃないか?」
「……やはり劣等種は愚かダナ。だが、わかった。その弱さ、利用させてもらうことにしよう!」
「質問に答えてくれるということだな? じゃあまず最初の質問だが……シオリの言っていたこと。つまり『魔王は、一度も存在したことがない』というのは、本当のことなのか?」
「……そうダ。劣等種は世界のことを本当に知らないんダナ。……魔王の概念が生まれてから、その偉業を達成した者はいない! だからこそ、我らが主にはその座について頂き……」

 ネズミは俺の質問に対して、聞かれていないことまで話し出す。
 このままだと無駄に時間を浪費しそうなので、適当なところで止めさせることにしよう。

「あー……お前が、お前の主とやらを崇拝しているのはわかった。それは良いとして、次の質問だ。抽象的な質問になるんだが……そもそも、魔王とは一体何なんだ?」
「魔王とは……だと? 魔王とは、全ての魔族を超える力を持つ者だ! 魔王となった者には、絶大な力が与えられる!」
「絶大な力、ねえ。……いや待てよ? 魔王については前例がないはずだろ? それなのになんでお前は、麻黄が強いってことがわかるんだ?」
「そっか。劣等種は、知らないか。オレ達には古くから伝わる歌がある。封じられし~♪剣を抜きし~♪魔族の長が~……♪ ってな! せっかくだ。長くなるが、全部聞くか?」
「長いのか……簡潔に、内容をまとめて話せないか?」
「やはり劣等種は馬鹿だな! 歌は全てが重要な意味を持つんだ! まとめて話せるなら、誰もこの歌を覚えるために苦労などしない!」

 いや、その理屈はわかるが……
 ならばせめて、重要そうな場所だけ抽出して歌ってもらおうかと思ったが、そうすると今度は「全てが重要だ。無駄などナイ!」とか言われそうだしな……
 頑固で考えを曲げようとしないネズミを前に、どうしたものかと考え込んでいると、後ろに控えていたシオリが俺の肩をつついてきた。何か話があるらしい。

「イツキ、図書館を探したら、グラット族に伝わる歌の情報がありました。魔族が『魔王』になるための手順が事細かに歌という形で伝えられているようです。その、簡単にまとめると……ようするに『剣』を使って魔族を殺すと『力』というものが蓄積され、その力を手にした者が魔王になれるという話のようです……」
「……そうか、ありがとう」

 おい、ネズミ……何が「全てが意味を持つ」だ。簡単にまとめられるじゃないか。
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