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第一章 クリスマスと藁人形
結んで、ほどいて②
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改めて見ると大人しそうな雰囲気で、眉唾ものの呪いを仕掛けるなど想像できないくらい普通の人だ。
「……桃、あの人から何か感じるか?」
風悟はこっそり桃に聞いてみたが、桃は首を振る。
「何も。でも、澱んでいるような気配は……なにかしら?」
人混み特有の雑念がたまっているだけなら、よくあることだ。怪我人が出てからでは遅いが、事前に対処しよようにも、それこそお札のような気休め程度のことしかできない。
「空いてますか?」
カウンター席に座る桃と話していた風悟は、にこやかに近付いてきた牧村に慌てて場所を譲る。椅子に座った牧村へ、内田がグラスを差し出した。
「退院祝いです」
営業スマイルだとしても、対面で内田の笑顔を独り占めしたら気持ちはぐらつくだろう。案の定、牧村は酒を飲む前に顔を赤くした。
「風悟もホストになったらかなり稼げそうと思ったけど、やっぱり大人の魅力には敵わないわね……」
「褒めてんのか、けなしてんのか」
「あら、褒められてると思ってるの?」
ひそひそと、喧騒に紛れるように会話をする風悟と桃の鼻腔を、甘い香りがくすぐる。ピーチフィズ、と、ビールばかりでカクテルをあまり飲まない風悟に内田が名前を教えてくれた。桃は、自分の名前を冠した酒に興味を持ったのか、牧村の隣でグラスを覗きこんでいる。
「美味しいです」
礼を言う牧村の笑顔がより優しい雰囲気に変わったのは、隣にいる桃の、小さな悪鬼なら自然と浄化できる力のせいだろうか、それとも柱に貼られた縁結びの護符の効果か。
時間が経つとともに客は増え、クリスマスの装飾に彩られた店内は賑やかになっていく。
元はビルの大家が経営していた店舗を居抜きで借り受けたからか、以前の店からそのまま通っているという常連客の中には、すでに会社勤めを引退した初老の男性もいた。
「ああ! 佐々木さんとこの坊主か! お母さんは元気か?」
神社の息子というだけで、自分が知らない大人に声を掛けられるのは、それこそ風悟にはよくあることだ。ずっと地元に暮らす古老から、豪快に笑いながら腕を勢いよく叩かれる。痛い、と風悟は苦笑いをしたが、同じようにキツめのボディタッチをされながらも悠々と酌をする正太郎には感心してしまう。
客商売は体力勝負だが、化粧の似合う顔立ちとは真逆の体格の良さは、実はこういう場でも活かされているのかもしれない。
ゆるゆると時間は過ぎ、客たちは機嫌よく歌いだしたり、会話が弾むのか歓声が各テーブルからちらほら聞こえる。
「そう言えば」
店内を見渡し、風悟はふと呟いた。
「その……オカマバーというわりには、そういう方は正太郎さんしかいないんですね」
正太郎のために開いた店ということだが、風悟の手が余らない位の忙しさなら、常勤で雇わないのかという素朴な疑問だ。
「……桃、あの人から何か感じるか?」
風悟はこっそり桃に聞いてみたが、桃は首を振る。
「何も。でも、澱んでいるような気配は……なにかしら?」
人混み特有の雑念がたまっているだけなら、よくあることだ。怪我人が出てからでは遅いが、事前に対処しよようにも、それこそお札のような気休め程度のことしかできない。
「空いてますか?」
カウンター席に座る桃と話していた風悟は、にこやかに近付いてきた牧村に慌てて場所を譲る。椅子に座った牧村へ、内田がグラスを差し出した。
「退院祝いです」
営業スマイルだとしても、対面で内田の笑顔を独り占めしたら気持ちはぐらつくだろう。案の定、牧村は酒を飲む前に顔を赤くした。
「風悟もホストになったらかなり稼げそうと思ったけど、やっぱり大人の魅力には敵わないわね……」
「褒めてんのか、けなしてんのか」
「あら、褒められてると思ってるの?」
ひそひそと、喧騒に紛れるように会話をする風悟と桃の鼻腔を、甘い香りがくすぐる。ピーチフィズ、と、ビールばかりでカクテルをあまり飲まない風悟に内田が名前を教えてくれた。桃は、自分の名前を冠した酒に興味を持ったのか、牧村の隣でグラスを覗きこんでいる。
「美味しいです」
礼を言う牧村の笑顔がより優しい雰囲気に変わったのは、隣にいる桃の、小さな悪鬼なら自然と浄化できる力のせいだろうか、それとも柱に貼られた縁結びの護符の効果か。
時間が経つとともに客は増え、クリスマスの装飾に彩られた店内は賑やかになっていく。
元はビルの大家が経営していた店舗を居抜きで借り受けたからか、以前の店からそのまま通っているという常連客の中には、すでに会社勤めを引退した初老の男性もいた。
「ああ! 佐々木さんとこの坊主か! お母さんは元気か?」
神社の息子というだけで、自分が知らない大人に声を掛けられるのは、それこそ風悟にはよくあることだ。ずっと地元に暮らす古老から、豪快に笑いながら腕を勢いよく叩かれる。痛い、と風悟は苦笑いをしたが、同じようにキツめのボディタッチをされながらも悠々と酌をする正太郎には感心してしまう。
客商売は体力勝負だが、化粧の似合う顔立ちとは真逆の体格の良さは、実はこういう場でも活かされているのかもしれない。
ゆるゆると時間は過ぎ、客たちは機嫌よく歌いだしたり、会話が弾むのか歓声が各テーブルからちらほら聞こえる。
「そう言えば」
店内を見渡し、風悟はふと呟いた。
「その……オカマバーというわりには、そういう方は正太郎さんしかいないんですね」
正太郎のために開いた店ということだが、風悟の手が余らない位の忙しさなら、常勤で雇わないのかという素朴な疑問だ。
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