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ログアウト権限を獲得した者たち

ムトウさんの狙い

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 ムトウさんの狙い、ムトウさんの願い。それは、自分のゲームを取り戻したい。自分のものにしたい。
 はっとする。強制ログアウトとゲームに閉じ込められる事件が起こる前、ムトウさんは『特別スキル』を持っている人に積極的に接近し、彼らから『特別スキル』を奪い取る……――、いや、彼の『特別スキル』でコピーしようとしていた。

 彼と話をしたとき、彼は『すべての特別スキルは、ゲームを創造した自分のものであるべきだ』という主張をしていた。私はそれを否定したけれど、少なくとも彼はそう考えている。だとしたら。だとしたら。

 シュウさん……――、月島部長の携帯に電話する。ほどなくして、応答があった。

『……どうした』
「シュウさん。いえ、月島部長。ムトウさんの狙いが分かったかもしれません」
『……というと』
「ムトウさんは、全ての特別スキルは、自分のものであるべきだと言いました」
『ああ、そういう趣旨の発言をしていたな』

 シュウさんも、ムトウさんがそう言った瞬間を聞いているから、思い出してくれたみたい。

「ずっと疑問だったんです。なぜ同時刻にログインしていた人々の中でも、強制的にゲームからログアウトさせられた人と、ゲーム内に閉じ込められた人がいたのか。特別スキルを持っている人間を、ゲーム内に閉じ込めたんです」
『特別スキルを持っていない人間は、必要ないから強制ログアウトさせた……』

 シュウさんの冷静な相槌。

「そうです。ムトウさんの側に立って考えると、たくさんのプレイヤーの中から、特別スキルを持った人間を見つけ、交渉するのは骨が折れる作業だったはずです。でももし、特別スキルを持った人間だけをゲーム内に閉じ込めることができたらどうでしょう?」
『ゲームの中には、特別スキルを持った人間しかいない。であれば、片っ端から声をかける、またはアイツのスキルを使って無理矢理、スキルをコピーすればいい、か』
「その通りです」
『……確かに、あり得る。ただ、もしそうだとすると疑問が残る』
「なんでしょう」
『……実際に、そんなことが可能なのかどうか、だ』
「それなんですよねぇ」

 いくらムトウさんがゲームのアイデアを考え付いたとはいえ、彼が特別スキルを持った人間だけをゲーム内に閉じ込められるような力を持っているのかどうか。そしてそんなことができるのか、という話。

 うーんと小さくうなる。

『……有益な情報、感謝する。ずんだ餅にも共有して、会社内でも情報を探ってみる。もしかしたら、運営側がそういったシステムを構築していた可能性がある』

シュウさんの言葉に、私は頷いた。
「お願いします」
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