言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
258 / 304
攻略!ビルもどきダンジョン

エレベーターの中で

しおりを挟む
 エレベーターの扉は、私たちが入ったあとすぐに勝手に閉まった。最初に乗り込んだずんだ餅さんが、声を上げる。

「行き先ボタンがない……?」

 それを聞いて、私とシュウカさんの視線が一気にずんだ餅さんの方に集まる。現実世界では、行き先ボタンや開閉ボタンがある場所……。そこに、ボタンは一つもなかった。

「階数ボタンも、開閉ボタンもないんだけど……」

 これ、最初からどこに行くか、プログラミングされてるとかなのかな。ほっておいても、どこかにたどりつけるのかなぁ。そんなことを漠然と考えていたら。

「え!? 扉しまっちゃったんですけど!! どうするんですか!!!」

 ずんだ餅さんが慌てた様子で言った。私やシュウカさんより動揺している。

「これ、もしかして、空気抜かれて酸欠で死ぬんじゃ……っ!?」
「ずんだ餅さん落ち着いてくださいこれはゲームです」

 私は早口でそう伝えた。すると、シュウさんの声が響く。

『……ずんだ餅、しっかりしてくれ』
「いやいやいや!? シュウさんはこの場にいないから、そんなことが言えるんですよ!!! どうしようどうしよう、こわいこわい」

 ずんだ餅さんが意味もなく、小さなエレベーター内を右往左往している。そんな時だった。

 体がすっと浮く感覚がある。エレベーターが、上に上がっている感覚。現実世界のエレベーターなら、今、どのあたりに到達しているか表示される場所を見た。

 そこには、9階と表示されていた。

「9階!? いきなり9階行くんですか!?」
「そもそもこのビル、何階建てなんだろ」

 入る前に数えてくればよかった、とシュウカさんがぼやいた。

『このダンジョンは、他の冒険者グループとの共闘はできません』

 そう、アナウンスが流れた。それとほぼ同時に、エレベーターが上昇を止めた気配がした。

 扉が静かに開く。エレベーターの中から見える扉の先は、真っ暗で何も見えない。

「うわぁ、行きたくない……」

 ずんだ餅さんが沈んだ声で言う。確かに、真っ暗なダンジョン、しかも洞窟などではない、人工物の暗さは、別の怖さを持っている気がする。

「でも、せっかく来たんだから! 行ってみようよ!」

 シュウカさんが張り切った声で言う。シュウカさんは、まだ見ぬ強いモンスターが出てくることを期待してるんだろうなぁ。

「うん、何かあればシュウカさんが助けてくれるでしょうし、問題ないですよね」

 ということで、と私はシュウカさんの背中を押した。

「シュウカさん、先頭を行って頂けますか」
「任せてっ」

 シュウカさんがぐっと親指をつきだした。そのまま、エレベーターの中から飛び出して行く。

「あ、待ってくださいっ」

 私も慌てて追いかける。さらに後ろから、ずんだ餅さんが続く。新しいダンジョン攻略開始だね!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

処理中です...