言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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閉じ込められた世界で

スカウターずんだ餅さん

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「僕は、あなたが連絡を取っている社員さんと同じく、このゲームでの業務を任されています。元々はそれ以外の仕事もしていましたが、現在は僕の仕事の大部分がこちらの世界の業務であるといっても過言ではないでしょう」

 ここで言葉を切って、ずんだ餅さんは私を見た。

「現在の僕の仕事。その主なものの一つが、『特別スキルを持った人間を社員として雇用する契約を結ぶ仕事』。つまりは、スカウト業務になるんですね」

「つまり、スカウター」

「その通りです」

 ずんだ餅さんが頷く。

「ナイトメア・ソフトウェアの社員のほとんどに、社員契約を結ぶとよさそうな人材を報告するというある意味での義務があります。ただ、実際にその人材と契約をするかどうかの具体的な話し合いや書類の準備などのリクルーティング業務に関しては、スカウターの仕事になると考えてください」

 シュウさんも、スカウター業務を任されてたって言ってたよね。

 そのおかげで、私は仕事を辞める決心がついた。本当に、このシステムを作った人に感謝しなくちゃ。

「僕は、ナイトメア・ソフトウェアの人事部に配属されています。そして現在、ナイトメア・ソフトウェアの人事部の中の何人かが、僕のようにこちらでスカウターの役割を仕事として与えられている」

「ナイトメア・ソフトウェアの……人事部……」

 人事部。人事。それは、たくさんの人の仕事・役割を管轄する仕事。私自身は、一度もお世話になったことがない部だけれど。

 ずんだ餅さんは、目を細める。

「……これはあくまで個人的な意見ですけど。僕は、リアルではなくこちらの人事を任されてよかったと思っています。辞令を文章で伝える。文章だけで済めばいいですが、そうじゃないことの方が多い」

 そう言いながら、ずんだ餅さんは斜め上を見上げた。

「たった一枚の文書。けれどもそれが、人の人生を大きく揺るがすものになり得ます。僕たちは、文書を送るだけでなく、送られた人間の人生をもある意味で背負うことになる。これは、簡単なことではありません」

 ずんだ餅さんは、嘲笑する。

「……実は、この仕事が決まる前、僕はナイトメア・ソフトウェアを退職しようと思ってました。または、可能なら、異動を願い出ようと考えていたんです。情けない話、ストレスで体を壊してしまいまして。同じタイミングで辞令文書を出した人何人かにまとめて言葉を浴びて、こう、ぽきっと」

 彼は笑う。だけど、私には分かる。人事部だった人の話を聞いたことがあるから。

「でもここに来て、少し救われた気がします。少なくとも今は、人をクビにしていませんからね。どちらかといえば、雇う側ですから」
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