220 / 304
ムトウさんを追って
公式メールアドレス
しおりを挟む「──で、あそこがこの村の冒険者ギルドで、あっちが村長の家。それで⋯⋯って、アレン君聞いてる?」
「え?う、うん。聞いてるよ⋯⋯」
⋯どうしてこうなった。
勝手に名前を借りたら、数分後に本人と出会すだなんて⋯⋯。
こんな不運もあるもんなのか?⋯まぁほぼ自爆といっても過言じゃないのもあるが⋯。
くそう。
子どもが相手とはいえ、めっちゃ気まずいぜ。バチってのは、当たるもんだなあ。
「⋯そういえば、君はどこから来たの?」
「ゑッ!?あ~、クローネ!そう⋯クローネだよ!」
「へぇ!あの王都から!」
「そ、そうそう!アレだよ、お父さんの仕事の都合でさ!」
冷や汗を流しつつ、俺はなんとか誤魔化し続ける。
今の所、素性がバレる心配は無さそうだが、このまま質問を続けられると面倒だ。いつボロを出してしまうか分からないし、ここは手短に切り上げよう。
「じゃあ、僕は用事があるから⋯⋯またね!」
「あ!待って!」
さっさと立ち去ろうとした俺を、少年は呼び止める。
『なにか?』と振り返って見ると、そこにはどこか困った表情を浮かべたアレンの姿があった。
「その⋯さ。突然こんな事を言うのはどうかと思うんだけど、君って僕の友達に似ててね⋯⋯」
「⋯それで?」
「もう少しだけ、その⋯⋯お話したいな~なんて、思っちゃったりして⋯??」
照れる様に、少年は鼻の下を擦る。
あまりに健気なその声色に、俺は思わず黙り込んでしまった。
⋯まぁ確かに、この子のおかげで、本来の目的である村の観光ってのがスピーディに済みつつあるのはある。
何かしらの形で礼をしておかないと、野暮ってモンだろう。
ここは1つ、オトナとしてアレン坊やに付き合ってやるかぁ。
「──いいよ。もう少しだけ、ね」
「やったあ!⋯あ!じゃあ、どうせならさ!──⋯」
「⋯──そうなのよ!この子ったら、昔は好き嫌い激しくてねー!」
「や、やめてよ母さん!僕だって嫌だったワケじゃあ⋯」
ど う し て こ う な っ た ?
いや、まぁ⋯付き合うとは言ったよ?大人として、礼をしとかなきゃ良くないよなって事でな?
⋯でも、同時に『少しだけ』とも言ったハズなんだが?
どうして、ちゃっかり一緒に家族団欒で昼飯を食ってるんだ?
「ほら、アレン君。おかわりはいるかい?」
「あぁ⋯いただきます⋯⋯」
「あ。お父さん、僕にもちょーだい」
温かいオニオンスープを受け取り、俺はスプーンを手に取る。
呆気に取られる状況ではあるが、一つだけ確かな事があった。
このスープが、めちゃくちゃ美味いという点だ。
⋯いや、マジでマジで。
コク深さがありながらも、玉ねぎ本来の甘みと風味も感じる。
クタクタになった玉ねぎも美味いし、付け合せのパンとの相性も最高だ。
⋯⋯そういえば、幼女に拉致られてから、マトモな飯は食っていなかったけな。カーチャンの手料理が染み渡るぜ⋯⋯
(拉致って、言い方よ)
(んん?じゃあ、他になんて?)
(そりゃ、保護とか確保とか⋯⋯)
(1人を気絶させ、1人を脅しておいてか?)
ぐぬぬ⋯と、唸り声を出す幼女。
手荒い真似をしたという自覚はあるのか、反論が聞こえてくる事は無かった。
(──ところで、だけど)
(ん?どうした?)
(タイムリミット、忘れてないよね?)
(分かってるって。あと10分くらい経ったら、頃合いだろ)
脳内で会話を済ませ、俺は食卓へ意識を戻す。
勿論、時間になったら、ちゃんとお暇させてもらう気でいる。
⋯が、こうして美味いものを食いながら団欒に混じっていると、大事な目的すら見失いそうなもだな。
あーあ。
“世界がどうの~”とか、“人々がどうの~”とか、そういうのに縛られないで転生したかったなー。もっと気ままに、自由に世界を旅したいもんだなーあ。
(──そうだね。君なら、きっとできるよ)
(オーガを倒しさえすれば、か?)
(まぁね⋯。全てに片が付いたら、色んな場所に連れて行ってあげるよ)
(⋯ハッ、遠慮しとくぜ。俺は、俺の足で歩きたい)
スープを口に運び、俺は少しだけ俯く。
その時の自分がどんな顔をしているか、俺は気付かなかった。
そんな俺の様子に疑問を持ったのか、アレンが俺の肩を叩く。
そして一言、
「なんで笑ってるの?」
そう言って、俺を見つめた。
⋯⋯どうやら、俺は笑っていたらしい。
と言っても、心当たりはあるんだが。
こう⋯⋯なんというべきか?俺は、転生当時からオーガに『使命』という『役割』を与えられていた。つまり、俺は常に自由を奪われていた状態にあった。
だから、俺の中には、ずっと“自由を求める意思”があった⋯。
何者にも縛られず、どんな物事にも屈しない⋯そんな自分への欲求⋯⋯渇望が。
(──何者にも縛られない、ね⋯。オーガの陰謀には勿論、私に付き合う気もなってワケだ⋯)
(⋯そーゆー意味ではないって。『俺自身の目的』に、手助けとかは要らないって事だ)
ふふふ。
こうして言葉にしてみると、堪らなくワクワクしてくるぜ⋯。
俺を縛っているオーガをブッ飛ばすのもそうだし、その後に、解放されてから何をしようかと考えるのもな⋯!
「⋯⋯ぇ!ねぇ!アレン君!」
「ん、あぁ⋯。なんだ?」
「なんで1人で笑ってるの?」
「いや、少し考え事を⋯⋯ね」
不思議そうに首を傾げるアレンに、俺は微笑んでみせる。
つい、自分の事で熱くなってしまった様だ。大人気ない大人気ない。
「⋯アレン君、大人みたいねー」
「ねー。ホントに僕と同じ6歳なの?」
「いや、貴方も大概だけどね⋯⋯」
「ん?お母さん、何か言った?」
『いいえ』と首を振り、アレンの母は彼の頭を撫でる。
彼女の言う通り、確かにこのアレンという少年は6歳とは思えない節がある。⋯特に、この異様な魔力は興味深い。
下手したら、ツエンの半分程もある魔力量。
そして、魔力の⋯⋯なんというか、『年季』が独特だ。
魔力感知っていうのは便利なモンで、しばらく使っていると、相手の魔力量だけじゃなく『意思』や『感情』も読み取れる様になってくる。
『意思』に関しては、その強さにもよるが、相手が動こうとしている方向へと、先に魔力が向くので、次の行動の予測が出来る。
『感情』については、同じくどれ程まで強いのかにもよるが、“怒り”であれば暴風の様に感じ、“哀しみ”であれば逆に静かに感じる⋯⋯
と、いった具合に、『相手を感じる』事が可能なワケだが。
ここ最近、主にアリアとの出会いが要因で、相手の大体の『年齢』も分かる様に俺はなった。
そして、その上でこの少年だ。
洗練されている⋯という訳では無いが、見た目に似合わない奥深さを感じる魔力を持っているな⋯。
「──アレンは、何か魔法を学んでいるの?」
「うん!明日から『帝都』の学校に行く予定なんだ!」
「テイト⋯?王都みたいな所の事?」
「そう!⋯⋯まぁ、凄く厳しい学校だから、しばらくお母さんとお父さんに会えなくなっちゃうけど。⋯でも僕、学者になりたいからさ。頑張るんだ!」
真っ直ぐな眼差しで、アレンは話す。
彼の笑顔の裏側には、俺では計れない悲しみがあるのだろう。
⋯親を残して遠くに行ってしまう気持ちは、よく分かる。
「それで?どんな学者さんになりたいの?」
「うーん。『魔法の作成』を主軸に、『ゼットエイティー理論』っていうのを扱える様になる⋯⋯つもりっ!」
「へぇ。(よく分かんないけど)凄い学者を目指しているんだ!頑張ってね!」
「⋯⋯まぁ、『学者には、なってからが本番』っていうのはあるけどね⋯。でも、絶対になるんだ!僕!」
うーん、凄い子だな。
俺が同い年くらいの頃は、まだヒーローとか目指していたぞ。
ギリギリ警察とか消防士とかだったかもしれないが⋯それも、『カッコイイから!』って理由だったろうしなぁ。
凄い子だぜ、全く。
「──まぁ、本当なら、学校に出発するのは今日だったんだけどね。昨日、村の周辺に魔物がいる!って騒ぎになってね⋯」
「⋯⋯⋯⋯え?」
ドクンと、心臓が脈打つ。
俺は、即座に幼女へ意識を向けた。
(⋯幼女)
(⋯しまった。不味い事になる)
──莫迦な。
幼女は、オーガ自体の監視や追っ手を避ける為に、俺と自身の周囲に結界を張っていた。周囲からの魔力を含めた『認識』を妨害するソレは、目に見えないが常に展開されていた筈だ。
それなのに、俺の存在に気付かれた?
単に、別の魔物が現れたってだけだろうか⋯⋯
(⋯いや。この子が言っているのは、君の事だ)
(結界が解けたタイミングでもあったのか?)
(まさか。ずっと使っていたよ)
(じゃあ、どうして──)
俺の問いに、幼女が答える間もなく、俺は気付いた。
可能性としては、コレしか考えられない。
(──ある夜、商人の馬車が俺達を追い抜いていった日が⋯)
(うん⋯その馬車はこの村へと向かう途中だったんだろうね。
無論、結界によって『私達の姿』は見えてはいなかった筈だ。
⋯⋯となると⋯)
──足跡、か。
(どこまで話しが広まっているか分からない⋯。急いでこの村を出るよ⋯!!)
(ちッ!スマン、幼女。俺の我儘に付き合わせ──)
匂い。
焼きあがったパンの匂いが、俺の鼻を抜ける。
とっくのとうに、パン屋は開いていた様だ。
「どうしたの、アレン君?急に顔が⋯」
「悪い、アレン!俺もうここを離れ──」
(いや。もう、遅い)
俺の両手が、即座に天井へ掲げられる。
肉体の主導権を、幼女が握ったらしい。つまり、幼女が対処しなければいけない事態が起きるという事実が⋯
──ッッ⋯ドオオォォォォオオオオオォォオ────ンンッッッッ!!!!!
世界が、爆ぜた。
20
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる