言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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作ってみよう!物語のアイテム

脱出完了?

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「アイダさん、先に手順を踏んでください。私は2番目にやります」

 私の言葉に、アイダさんは頷いた。そして小さく言葉を繰り返す。

「左に3歩、右に6歩、前に1歩。左に3歩、右に6歩、前に1歩……」

 そして、ゆっくりと足を動かし始める。その足取りは、少し震えていた。下手に声をかけたら余計に緊張させてしまいそうだから、アイダさんの様子を私は黙って見つめた。

「左に3歩、右に6歩、前に1歩……。できたっ」

 アイダさんがそう言った瞬間。アイダさんの姿が消えた。まるで、最初からアイダさんがそこにいなかったみたいに。

「……無事に、脱出できたみたいだな」

 シュウさんが息を吐き出しながら言う。

「そうみたいですね」

 私も同意する。それじゃ、今度は私の番。シュウさんから送ってもらったチャットの文言を自分の視界の端にとらえながら、一歩ずつ、手順を踏む。

 まずは、左に3歩。次に、右に6歩。さらに、前に1歩。それらの手順を一息でやってしまう。手順は間違ってない。これで、脱出できるはず!

 気が付くと、カンナさんのお店まで戻ってきていた。傍らには、安心した様子のアイダさんの顔。

「よかった、無事に帰ってこられたんですね」

 アイダさんの言葉に私はぶんぶんと首を縦に振る。よかった。本当に無事に戻ってこられてよかった。あの場所に戻されてたらと思うとぞっとする。

「あとは、シュウさんを待つだけですね」

 私が言ったのとほぼ同時に私の隣にシュウさんが現れた。

「あ、シュウさん! よかった、シュウさんも戻ってこられたんですね!」

 私が声をかけると、シュウさんは大きなため息をついた。

「……どうなるかとは思ったが、出口が封鎖されていなくてよかった」
「え」
「……いや、あの抜け道自体は会社に属する全員に送られた連絡事項のメールに記載があったんだが。……ただ、本来の用途を失ったので、当分封鎖するとあったんだ」

 いやいやいや! 封鎖されている可能性があったの!?

「……そんなことを言えば、不安にさせるだけかと思って黙っていた、すまない」

 いや、それなら最後まで黙っておいて頂けると助かります、ハイ。思わず出かかった言葉を飲み込む。よし、話題を変えよう。

「それじゃ、無事に脱出できたことですし。シュウさん、あの男性についての情報を教えてください」

 シュウさんと男性の関係。それが分かれば、一歩前進になるかもしれない。もちろん、私が作った道具で得た男性のステータスも後でじっくり見てみるつもりだけど、まずは、シュウさんから話を聞きたい。

「……わかった。単刀直入に言おう。あの男は、こちらと同じ、ナイトメアソフトウェアに所属していた社員だ」
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