言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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作ってみよう!物語のアイテム

脱出!

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 急がないと、30秒経っちゃう! 扉が閉じてしまったら、アイダさんと私は大丈夫だけど、シュウさんが取り残されちゃう!

 私はあわててシュウさんの服を掴んで扉側へと引っ張り込んだ。驚いた顔で振り返るシュウさん。勢いよくシュウさんの体が扉へ侵入した瞬間、扉がバタンと閉まった。

「……すまない。自分で言っておきながら、制限時間のことを忘れかけていた」

 シュウさんが顔をしかめる。アイダさんが遠慮がちに言った。

「あの人はついてきてないみたいですね。……お知り合い……だったんですか」

 アイダさんの言葉に、私もシュウさんを見る。そう、さっきの会話、明らかにシュウさんは相手の男性のことを知っている風だった。

 最初に男性と会った時も、どこかで会った気がするとは言ってたけど。結局どこで出会ったのか思い出せなかったような感じだったんだよね。

「……脱出完了し次第、報告する。それまではとりあえず、ついてきてくれないか」

 シュウさんが静かな声で言う。私は頷いた。

「シュウさんがあの男性のことを知っているのなら、情報は得られたわけですし。とにかく今は安全な場所に避難しましょう」

 私の言葉にアイダさんは少し悩む素振りを見せた。

「本当に信用して、大丈夫? だってこの人、あの男性と知り合いなんでしょう?」

 私は言葉を続ける。

「大丈夫です。シュウさんとの付き合いは、それなりに長くなりましたから」
「でもそれって、ゲームの世界の中の話でしょう?」

 アイダさんの言葉に、私は一瞬言葉に詰まる。しかし、すぐに次に続けるべき言葉が思いついた。

「それは、確かにそうです。でも、シュウさんは私の現実世界での新しい居場所を見つけてくれました」
「新しい居場所」
「はい。ゲームの中だけでなく、現実世界の私とも、向き合ってくれたんです。でもそれは、私が特別スキルを持っていたからという理由だけなのかもしれない。けれど、特別スキルを持っている人は、このゲーム内にたくさんいます」
「まぁ、そうですね」

 アイダさんも同意してくれる。

「特別スキルを持っている人がたくさんいるということは、それだけ様々な境遇の人がいるはずです。本当に特別スキルを持った人と意図的に出会い、そして先ほどの男性とグルになって特別スキルを奪おうと考えていたのなら、もっと問題を抱えていない人を選べば済む話です」

 まぁ、特別スキルを持つ人の条件として今、『現状に納得してない人』があてはまっていて、そもそも単純な問題解決だけではどうにもならない人が多いとは思うんだけどね。でも、私よりもっと簡単な問題を抱えていた人を救う方が早いと思うし。

「それに、本当にあの男性と知り合いで、グルだとしたならわざわざ私たちに、自分たちが知り合いだということを教える必要はないと思うんですよ」

 そんなことをしたら、自分が男性とグルなんじゃないかって疑われるわけだし。現に今、そうなっているわけだし。

「だから、信じてみましょう」

 私は、信じる。私の現実世界での新たな居場所を提供してくれようとしている、シュウさんを。
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