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 アイダさんは頷いた。

「分かりました。確認してみます」

 アイダさんに確認してもらっている間に、シュウさんがこちらに向き直る。

「……しかし、普通ならああいったメールは勝手に消失しそうなものだがな」
「確かに。……自分の痕跡を残すことになりますからね」

 普通なら、自分の正体がバレることを恐れて、必要以上に自分の痕跡は残したくないと思う人間が大半だと思う。ファンタジー小説とかなら、一度読み終わった手紙は、勝手に燃えてなくなるという設定があるものもあった。

 あの人は、そういった手の込んだことはしないんだろうか。それとも、もしかして、あえてそうしていないんだろうか。

「……あえて、自分の痕跡を残している……?」
「……何のために」

 私の呟くような声に、シュウさんが顔をしかめる。

「……自分だと気づいてほしい、とか」
「それは、自分がすごいと認めてほしいという意味で、か?」
「それもあるかもしれません。でも、そうじゃないかもしれません」

 ミステリー小説で何かことを起こした時、自分であるという証拠を残す理由。
『自分の行動を止めてほしい』という気持ちがあったという場合がある。

 少ししか話してないけど、あの人がそういうことを考えるタイプとは思えなかった。でも、『誰かに止めてほしかったからわざと証拠を残す』場合は、ある意味無意識に起こす行動の場合もあるし……。ああ、分からなくなってきた!

「でも、理由は分かりませんが、そう考えているようにも思えるなぁ、とも思うのですよね。もちろん証拠はありませんし、ただメールの痕跡を消していないだけでそこまで考えるのは、深読みしすぎだとは思いますけど」

 私の言葉に、シュウさんは頷いた。

「まぁ何にせよ、本人から聞いたわけではないんだ、どういった形でも今現在は憶測でしかない」
「ありました」

 アイダさんの言葉に、私たちはほぼ同時にアイダさんの方を振り返った。

「……それでは、とりあえず両方のアドレスに、そのメールを転送してもらえるだろうか。転送する際、また自分自身が転送されそうになったら声をかけてくれ」

 シュウさんの言葉に、アイダさんは神妙な面持ちで頷いた。すぐにメールが届いたことを知らせるポップアップ画面が表示される。

「送付自体は何事もできましたね」
「転送するのに、メールを開封したんですが、特に何もなかったです」

 アイダさんが半ば安心した声で言う。私たちもなんとなく小さく息づいた。その時。アイダさんの表情が凍ったように見えた。

「……どうかしましたか」
「……あの。同じメールアドレスから今、新しいメールが届きました」
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