言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
上 下
179 / 304
特別スキルレベルアップ後その1

ゆったりとした時間

しおりを挟む
「仕事場で出会ったのはおそらく間違いなさそうだがしかし、いつどこで、どういったときに出会ったかは検討もつかない」
「でも自分の部署の人間、ということはなさそうなんですよね」
「あぁ。さすがに、同じフロアで働いている人間なら気づく……はずだ」

 月島部長は自信なさげに答える。私も人の顔と名前を覚えるのは得意ではない。だから月島部長の気持ちは痛いほどわかる。

「……今後また出会うことがあれば、気づけるかもしれない」
「私も、一度しか見ていないのでアテにはなりませんが、御社に出入りする際には気を付けておくようにします」
「よろしく頼む」

 そのとき、料理ができたことを告げるベルが鳴った。月島部長は、立ち上がって歩き始める。私もそれに続く。

 数分後。私たちの目の前には、ほかほかの料理たち。月島部長は、目の前の料理と自分を見比べる私を見て目を細めた。

「……話は、食べ終わってからにしよう」
「あの」
「……ん」
「私、食べるの遅いですが」
「……気にしない。こちらが先に食べ終わってしまった時は、仕事のメールの返信でもしておく」

 月島部長はそう言ってから、至極不思議そうな顔をした。

「……別に、急かしはしない」
「すみません、今まで出会った職場の人って、食べるのが遅い人のことをよく思わない人が多かったもので」

 私がそう言うと、月島部長は小さく息づく。

「……こちらの妹も、どちらかというと食べるのが遅い方でな。慣れているんだ」
「あ、月島部長、妹さんがいらっしゃるんですね」
「……ああ」

 月島部長は答えながら、割り箸を割る。私も同じく割り箸を用意して、手を合わせる。

「いただきます」
「……いただきます」

 十数分後、先に食べ終わった月島部長は、先ほどの宣言通り、仕事のものだろう、タブレット端末を取り出して、何やら作業を始める。

 私はただひたすらに、のんびりと食べ続ける。職場の人たちと外食するときはいつだって、ピリピリした空気が流れていて、さっさと食べろっていう圧がすごいんだけど。今日は、一切それを感じない。

 せっかくおいしい料理だとしても、一緒に食べる相手によって、全然味が変わるような気がしてしまう。今日は、とてもおいしい。いや、元々多分おいしいお店なんだろうけれど。

 私が無事に食べ終わってお冷を飲んでいたら、月島部長がタブレット端末を鞄にしまった。私は、遠慮しながら声をかける。

「お待たせしました」
「いや、特に待ってない」

 月島部長がさらりと答える。そして言葉を続ける。

「職場ではなかなかメールの返信に時間をかけたり、アイデアを練ったりすることがしづらい。丁度よかったよ」

 そう言ってから、彼は私に向き直った。

「……それでは、具体的にこれからどうするか考えるとしよう」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...