言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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特別スキルレベルアップ後その1

書類を準備してもらう間に

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「それじゃ、採用は決まったわけだし、月島部長は今から休憩に行くといい。その間に朝宮さんに渡す書類を準備しておくよ」
「……いや、してなかったのか」

 月島部長は、あきれ顔で田尻部長を見る。田尻課長は、へらっと笑って言った。

「なーに言ってんの。どうせさっきの案件のこともあるし、ゆっくり朝宮さんと二人で話したいだろうと思って、あえて準備してなかったんだよ。ぼくのデスクには、ちゃーんと用意してあるって」

 その時、さっき私にお茶を運んできてくれた受付嬢さんが丁度通りかかった。田尻課長の言葉を聞いてぎょっとした顔をする。

「田尻課長……。朝宮さんに渡す予定だった書類って、もしかして……、あの、今朝珈琲こぼした、アレですか」
「……あ」
「……はぁ」

 月島部長が大きなため息をつく。そして、私を見る。

「……ちなみに、田尻課長はよく紛失物を出すし、忘れっぽいし、ドジを踏む。ただその分、人のミスにも優しい」
「人聞きが悪いなぁ。ぼくだって、気はつけてるつもりだよ。ま、優しいところはその通りだけどね」

 田尻課長は苦笑する。

「……それでは、どちらにせよ書類を改めて準備するのに時間がかかるという認識でいいのか」
「いいよいいよ、それでいいよぉ」

 田尻課長は、駄々をこねる子どものように投げやりに言った。受付嬢さんが言った。

「田尻課長と月島部長は、同期なんですよ」
「そうなんですね……」

 あくまで上司と部下の関係だけど、そんなに二人の間に隔たりが見えなかったのは、そういう理由だったのか。

 月島部長は、何度か田尻課長と言葉を交わした後、立ち上がって私に言った。

「……この後、予定はあるだろうか」
「いえ、ありません」

 今日は面接のためだけに有給をとった。だから何も予定はない。月島部長は目を細める。

「……それでは、少し付き合ってもらえるだろうか」
「月島部長、そういう時はね。『お腹すいてる? よかったらランチでもどうかな』って誘うんだよ」

 田尻課長が言う。月島部長が彼をにらむ。あわてて田尻課長は口笛を吹いてごまかす。私が困っていると、いいタイミングで鳴り響く、私のお腹の音。

 すると、月島部長が肩の力を抜いて言った。

「……。洋食、和食、中華なら、どれが食べたい? 昼飯を食べながら話したい」
「月島部長はね、おいしいお店を知ってるよ。食べたいものを言えばいいよ」

 田尻課長が笑う。月島部長は言って、立ち上がる。私もあわてて立ち上がった。

「あ、中華が食べたいです。ラーメンが食べたいです」
「……分かった」

 月島部長がてくてくと歩き始める。私はその後ろをついて行こうとする。田尻課長がのんびりと言った。

「いってらっしゃーい」
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