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特別スキルレベルアップ後その1
新たな依頼の前触れ
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月島部長は私たちのところまで、てくてくと歩いてきた。そして、田尻課長の前に立つ。彼は、田尻課長にひどく不機嫌な顔を向けて言った。
「……。今回こちらは、ノータッチでと言ったはずだが?」
月島部長の第一声を聞いて私は安心した。ゲーム内と全く同じ口調。ゲーム内やSNS上と仕事、そしてプライベートを完全に使い分ける人も大勢いる。しかし、月島部長に関しては少なくとも、仕事とゲーム内での性質は似たものなのかもしれない。
月島課長の言葉を聞いて田尻課長は笑って答える。
「ごめんって。だってせっかく来てもらったし、月島部長も朝宮さんとお話したいかなーと思って」
「余計なお世話だ」
月島部長は、大きなため息をつくと、田尻課長の横に腰を下ろした。そして私の方に向き直る。
「リアルでは初めまして、だな。……月島修矢という。ゲーム内では、シュウと名乗っている」
「初めまして」
私が会釈すると、月島部長は田尻課長に視線だけ向けて尋ねる。
「本当に採用でいいんだな。後で撤回はなしだぞ」
「もちろん。そもそもキミの紹介だ。変な人は紹介してこないとは思ってたし」
田尻課長はヒラヒラと手を振ってこたえる。確かに、シュウさん、ゲーム内でも真面目だったし、そういう人が目利きした人ってことなら、信用されそうだよね。
「当たり前だ。確かにゲーム内とリアルでは異なる性質を持つ人間もいる。しかし本質的な部分は、そうそう変えることはできないものだ」
月島部長は田尻課長にそう告げた。そんな風に言われると、私も照れちゃうよ。
「……煩雑な手続きやその他もろもろは後回しになるが、兎にも角にも採用は採用だ。そちらの仕事が落ち着き次第、勤務をお願いしたい」
「はい」
「あ、それなんだけどね。早速なんだけど、お願いしたい案件があるんだ」
田尻課長がのんびりした口調で言う。すると、月島課長は顔をしかめる。
「……まさか、まだ入社手続きすら終えてない彼女に、何か仕事を押し付けるつもりじゃないだろうな?」
「いやー、だってさ。この案件、多分『特別スキル』持ちじゃないと厳しいと思うんだわ」
そう言うと、田尻課長は、首をかしげる私に言う。
「もちろん、月島部長、いやシュウは同行させる。だから……どうかな?」
「どうかなじゃない」
シュウさんがひどく嫌そうな顔をする。そして私に言った。
「田尻課長の下で働くということは、こういった無理難題を頼まれることもあるということは、先に知っておいてほしい」
「否定はしない。ただ、ぼくはブラック企業は嫌いでね。サービス残業は絶対にさせない。休みもしっかりとってもらう。ただ、仕事は多い。それでもよければウチにぜひ」
田尻課長は微笑んだ。私は自分に問いかける。今の職場は、少なくとも自分を助けてくれる味方が一人もいなくて、悩みを相談できる職場内の人もいなかった。仕事がたくさんあったのもあるけど、それよりも嫌な上司に日々振り回され、悪口を言われるが一番、仕事を続けるのが辛いと思う理由だった。
だから、今回仕事は多いと言われたけど。少なくとも私には今、シュウさんという味方がいて、なおかつ私には『特別スキル』がある。そして何より、新たな職場で働きたいという気持ちがある。私は、自然と頷いていた。
「お時間よろしければ、その案件、詳しくお聞かせ願えませんか」
「……。今回こちらは、ノータッチでと言ったはずだが?」
月島部長の第一声を聞いて私は安心した。ゲーム内と全く同じ口調。ゲーム内やSNS上と仕事、そしてプライベートを完全に使い分ける人も大勢いる。しかし、月島部長に関しては少なくとも、仕事とゲーム内での性質は似たものなのかもしれない。
月島課長の言葉を聞いて田尻課長は笑って答える。
「ごめんって。だってせっかく来てもらったし、月島部長も朝宮さんとお話したいかなーと思って」
「余計なお世話だ」
月島部長は、大きなため息をつくと、田尻課長の横に腰を下ろした。そして私の方に向き直る。
「リアルでは初めまして、だな。……月島修矢という。ゲーム内では、シュウと名乗っている」
「初めまして」
私が会釈すると、月島部長は田尻課長に視線だけ向けて尋ねる。
「本当に採用でいいんだな。後で撤回はなしだぞ」
「もちろん。そもそもキミの紹介だ。変な人は紹介してこないとは思ってたし」
田尻課長はヒラヒラと手を振ってこたえる。確かに、シュウさん、ゲーム内でも真面目だったし、そういう人が目利きした人ってことなら、信用されそうだよね。
「当たり前だ。確かにゲーム内とリアルでは異なる性質を持つ人間もいる。しかし本質的な部分は、そうそう変えることはできないものだ」
月島部長は田尻課長にそう告げた。そんな風に言われると、私も照れちゃうよ。
「……煩雑な手続きやその他もろもろは後回しになるが、兎にも角にも採用は採用だ。そちらの仕事が落ち着き次第、勤務をお願いしたい」
「はい」
「あ、それなんだけどね。早速なんだけど、お願いしたい案件があるんだ」
田尻課長がのんびりした口調で言う。すると、月島課長は顔をしかめる。
「……まさか、まだ入社手続きすら終えてない彼女に、何か仕事を押し付けるつもりじゃないだろうな?」
「いやー、だってさ。この案件、多分『特別スキル』持ちじゃないと厳しいと思うんだわ」
そう言うと、田尻課長は、首をかしげる私に言う。
「もちろん、月島部長、いやシュウは同行させる。だから……どうかな?」
「どうかなじゃない」
シュウさんがひどく嫌そうな顔をする。そして私に言った。
「田尻課長の下で働くということは、こういった無理難題を頼まれることもあるということは、先に知っておいてほしい」
「否定はしない。ただ、ぼくはブラック企業は嫌いでね。サービス残業は絶対にさせない。休みもしっかりとってもらう。ただ、仕事は多い。それでもよければウチにぜひ」
田尻課長は微笑んだ。私は自分に問いかける。今の職場は、少なくとも自分を助けてくれる味方が一人もいなくて、悩みを相談できる職場内の人もいなかった。仕事がたくさんあったのもあるけど、それよりも嫌な上司に日々振り回され、悪口を言われるが一番、仕事を続けるのが辛いと思う理由だった。
だから、今回仕事は多いと言われたけど。少なくとも私には今、シュウさんという味方がいて、なおかつ私には『特別スキル』がある。そして何より、新たな職場で働きたいという気持ちがある。私は、自然と頷いていた。
「お時間よろしければ、その案件、詳しくお聞かせ願えませんか」
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