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自分探しの旅その2(やりたいこと探し)
帰還
しおりを挟む男性は、大きくため息をつくと、一言言った。
「仕方ない、今回は見逃してあげよう」
男性の言葉とほぼ同時に、ポップアップ画面が立ち上がる。
『転送を開始します。転送先:始まりの街・カンナの店』
ああ、よかった。無事に元いた場所に帰してもらえるみたい。私は安堵のため息をつく。すると、男性はきっと私をにらんで言った。
「でも、忘れるな。ぼくはあきらめない」
その言葉を聞き終わってすぐ、私は体が浮き上がるのを感じた。数秒後にはカンナさんのお店へと戻ってきていた。ううう、高所恐怖症で絶叫マシーン苦手な私には、厳しい旅だった。
私はそんなことを思いながら、お店の外へ出た。シュウさん、戻ってこれたかな。チャット送った方がいいかな。
そんなことを思っていたら、店の方へと歩いてくる男性の姿が目に入った。私はあわてて、彼の方へと走り寄った。
「シュウさん! よかった無事に戻ってこられましたか」
私の言葉に、シュウさんはこっくりと頷く。
「……ああ」
「すみません、助かりましたありがとうございました」
早口で言う私に、シュウさんは少しだけ首をかしげる。
「困った時はお互い様というヤツだ。役に立てることがあれば、遠慮なく頼ってくれて構わない。こちらも、そちらに助けてもらっているからな」
そう言ってから、シュウさんは顔をしかめる。
「話は変わるが、先ほどの男に見覚えはあるか」
「いえ、ありません」
私が即答すると、シュウさんは頷く。
「だろうな。しかし、こちらは」
彼は、腕組みをしながらゆっくりと言った。
「……どうも、どこかで見た顔のような気がする」
「シュウさんが会ったことのある人ってことですか」
私の言葉に、シュウさんは首をひねる。
「……元々、人の顔を覚えるのが苦手な性質でな。けれど、あの物言いとあの見た目、どこかで目にした気がする」
「ゲーム内の見た目って、変更できませんでしたよね」
私は昔の記憶を手繰り寄せながら言う。そう、初めてゲームをログインした日。女神さまに初期ステータスを決定してもらったあの日、女神さまは言っていた。
『髪の色や髪型、瞳の色、肌の色などはいつでも変更できます』。
でも、色合いは変更出来ても、顔の輪郭や身長など、ベースとなる見た目は変更できなかったはず。
「ああ、できない。現実世界とリンクしたゲーム。それがこのゲームのコンセプトだからな」
シュウさんが答えてそうなると、と続ける。
「やはり、現実世界で出会ったことがある誰かか。それとも、ゲーム内のクエストなどで一緒になったことのある誰かだろうか。しかし、ギルドに所属しているメンバーではなかったしな……」
シュウさんは顔をしかめる。
「まぁ、特別スキルを狙っているってことは分かりましたね。あとは、人のスキルを奪うことができる力、またはそのような道具を持っているということ」
私の言葉に、シュウさんは頷く。
「このことは、上に報告しておく。また何か分かったら連絡する。あ、それと」
シュウさんは一枚の紙きれを私に差し出しながら、頭をかく。
「……迷惑だったらすまないが。何かあったときのための、保険だ」
私が中身を確認するより前に、シュウさんはさっさと立ち去ってしまった。
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