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自分探しの旅へ(準備編)
転職の決意
しおりを挟む社員。その言葉は、今の私にはとてもいい選択肢のように思えた。
「もし、会社に社員として雇用してもらえるとしたら、具体的にはどういった仕事をすることになるんでしょうか」
私が尋ねると、シュウさんは言葉を選びながら言った。
「……基本的には、ゲーム世界で不正を働く人間がいないかなどを監視したり、それこそ『特別スキル』を持った人を探したり、『特別スキル』を悪用している人を見つけるのが主な仕事になるのではないだろうか。こちらも、詳しいことはよく知らないんだ」
何しろ、このゲーム自体がまだ始まったばかりだからな。そうシュウさんは締めくくる。確かに、ゲームが発売されてからまだそれほど日が経っていない。だから、社員登用制度があったとしてもそのシステムが、正常に作動しているかどうかも分からないし、どうやったら社員になれるのかの具体的な条件もまだ確定していないかもしれないね。
「ただそちらにその気があるのなら、こちらで色々調べてみる。ただ、時間はかかるかもしれないが」
シュウさんの言葉に、私は頷く。
「時間はかかっても構いません。私もまだ、本当にそちらでお世話になるか決めかねていますし。それに」
そこで私は言葉を切る。それに、本当にシュウさんの働く会社で働くことになったとしても、今の会社を辞めるのに、どのくらい準備が必要かもよく分からない。
でも、と私は思う。あれだけ私のことを『代わりはいくらでもいる』『こんな仕事にこれだけ時間がかかるのはお前くらいだ』などと言っていた会社の上司たち。その人たちに、はっきり言えるじゃないか。
「あなた方が、代わりはいくらでもいると言った人材は、他の会社では必要とされる人材だったんですよ」
そう一言言い切れるだけで、なんだか自分の今までの会社での勤めが報われる気がする。それに、今の会社にずるずる居続けたところで、状況は何も変わらない。ただ、自分が『誰でも代わりが務まる仕事を、人の何倍もの時間かかって仕上げる人間』というレッテルを貼られて生きていくだけだ。
思えば、このゲームの抽選購入の応募をしたのも、そしてこのゲームのヘッドセットに当選して購入できて、社員さんであるシュウさんと出会えたのも、何かの縁なんじゃないかな。都合のいい考え方かもしれないけど、でも、今こそ自分を変えるチャンスが向こうからやってきてくれたんじゃないかな。
このチャンスを逃したら、次は多分もうない。だったら。私は、シュウさんを見つめて、きっぱりと言った。
「それに、辞職の準備などで少なくとも数か月はこちらもかかると思いますし。もし、そちらで雇ってもらえなかったとしても、後悔しません。転職の準備を進めます」
私の言葉に、シュウさんは一度驚いた顔をし、それから目を細めた。
「……そちらの覚悟は分かった。そちらの気持ちに応えられるよう、こちらも、全力を尽くそう」
こうして、話は簡単ではあるけれどまとまったんだ。
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