言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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自分探しの旅へ(準備編)

社員の役割

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 それを聞いて、私は一瞬何を言われたのか分からなかった。シュウさんが、ゲーム会社の社員さんしか知らない情報を知っている。つまり……。

「シュウさんが、あのゲーム会社の社員さんで、このゲームの開発に少なからず携わった人間だという事ですか」

 私の問いに、シュウさんは神妙な面持ちで頷いた。

「その通りだ。カズアキにギルドマスターについて調べるよう頼んだ社員というのも実は、わたしのことだ。今まで黙っていてすまなかった」

 シュウさんの言葉に、私は返す言葉がすぐには見つからない。頭が混乱してきた。確かに、私はシュウさんの現実世界での生活や仕事をまったく知らなかった。尋ねもしなかった。知らなくて当然だよね。

「私は、知り合いになったシュウさんのリアルを知ろうともしませんでした。気になさらないでください」

 ゲームにおいて、リアルの話を持ち込むのはどうなのかと私の中では感じていて。今までいくつもゲームをやってきたけれど、ゲーム内で仲良くなった人のゲーム以外での生活の話をしていいものなのか、いつも悩んでいたんだ。シュウさんやカズアキさんに関しても、それは同じだった。

「社員は、わたしの他に何人もこの世界に入り込んでいる。『仕事』として」
「『仕事』……?」

 私が首をかしげると、シュウさんはまた、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「社員が『仕事』としてこの世界に入り込んでいる理由は、『特別スキル』保持者を見つけ、彼らをそれとなく見守るためだ」

 そして、シュウさんは言葉を続ける。

「『特別スキル』保持者を見つけることは容易なことではない。保持者リストなるものは存在しないから、自分たちで世界を回って見つけ出すしかない。まぁわたしは、ゲーム開始から数時間で運よく、『言霊・物語付与』のスキルを持ったそちらに出会うことができたわけだが」

「一つ聞いてもいいですか」

 私が言うと、シュウさんが無言で頷く。

「私と出会ったのは、偶然なんですよね」
「それは断言できる。偶然だ。スキル保持者を特定したり、近くにいるかどうかをサーチする能力は、社員には付与されていない。そこは、普通のプレイヤーと一緒だ」

 それを聞いて、私は安心する。よかった、あの出会い自体は偶然を装ったものだったりは、しなかったわけだね。

 私が安堵の表情を浮かべていたのだろう、シュウさんは戸惑った表情を浮かべる。

「そうは言っても、簡単には信じてもらえないと思ったのだが」
「いえ、信じます」

 私がきっぱり言うと、今度はシュウさんがほっとしたような表情を浮かべる。

「そう言ってくれると、この後の話もしやすくて助かる」

 そう前置いて、シュウさんは話の続きを始める。

「社員が、『特別スキル』保持者を見守る理由。それは、『特別スキル』をどのように利用するかを確認するためだ。悪い方向にスキルを使おうとした人間にはもちろん、システムがスキルを没収することもあるが、急ぎでスキルを奪う必要がある場合は、システムがすぐその相手からスキルを回収してくれるとは限らない。だから、その場合は社員がスキルを回収に向かうというわけだ」

 シュウさんはそう言って、少しだけ俯いた。

「今までに、何人かのスキルはわたし自身回収した。システムや他の社員が回収したスキルも数えきれないほどあると思う。しかし、そちらはいい方向へとスキルを使おうとしてくれた」

 シュウさんは、顔をあげた。その表情はとても穏やかだった。

「いい方向にスキルを使おうと考えてくれる人に出会えて、わたしは幸運だった。だから、そちらがスキルをもっとうまく運用できるように旅に出たいと言ってくれたときは、本当に嬉しかった。わたしにできることがあれば、何でも手を貸したいと思えた」

 だから、私に本当の話をしてくれたんだ。私はそう思った。

「スキルをうまく使用してくれると思われる『特別スキル』保持者に対して、社員ができることがある」

 その後続いたシュウさんの言葉に私は呆然とした。

「社員として雇用するよう会社に求めることだ。承認されれば、このゲーム世界の守り手として活動してもらうことになる」

 もちろん、通常の社員と同様の手当と保証を約束したうえで。
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