言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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自分探しの旅へ(準備編)

特別スキル

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 しばらくすると、シュウさんがお店にやってきた。

「すまない、待っただろうか」
「いえ、全然」

 私はそう答えて、言葉を続ける。

「込み入った話などでなければ、今日もお店の中でお話しませんか」

  カンナさんにはシュウさんが来ることをさっき伝えた。カンナさんはお茶を用意しておいてくれると言っていた。

 シュウさんは軽く頷いて答える。

「そうだな。特に場所を変える必要もないし、カンナさんやそちらさえよければ、お邪魔しよう」

 シュウさんの言葉を聞いて私は彼を中へ案内する。カンナさんが既に長テーブルの上にお茶などをセッティングして、待っていてくれていた。

「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」

 カンナさんはシュウさんにそれだけ言うと、お店の扉に「閉店中」の札を下げて、さっさと店の奥へ引っ込んでしまった。もしかしたら、今日は以前の話より深刻な話なのではないかと気を使ってくれたのかもしれない。

 私達は向き合って座る。シュウさんが口を開いた。

「さっそくだが、本題に移ろうと思う。特殊なスキル保持者とその保持者の実生活には関係があるのではないかという噂を耳にしたんだ」

 シュウさんは、ゆっくりと話し始める。

「噂によると、スキルには様々な種類がゲーム上用意されているようだ。しかし、中には誰でも保有できるようなものではないスキルを持った冒険者もいるらしい。たとえば、そちらが持っている『言霊・物語付与』のスキルがそれに該当する」

 私のこのスキル。確かに、最初女神様に出会った時に珍しいスキルだと言われた覚えがある。やっぱり、誰でも保有できるものではないのかな。

「そういったスキルのことを『特別スキル』と呼ぶらしい」

 特別スキル。

「この『特別スキル』は、プレイヤー本人の経験値や現在の生活などに基づいて付与されるものらしい。なので、『特別スキル』を一切持たない人間もいるし、いくつもの『特別スキル』を持つ人間もいるということになりそうだな」

 そして、私もその一人と。

「ただ、このスキル保持者には共通点があるらしくてな。総じて、『現実世界での自分の生活に満足していない』ということがあてはまるらしい」

 それを聞いて、私は固まる。シュウさんは言葉を続ける。

「この『特別スキル』を持っている人間には、大きく分けて二種類の人間がいるとされる。一つ目は、スキルをこの世界で悪用してこの世界で生きようと考える人間。そして、二つ目は……」

 ここでシュウさんは言葉を切って、私の目を見て言った。

「元の世界での生活を変えようと努力を始めた人間だ。そしてそちらは、後者にあてはまる人間だと信じている。もし、『特別スキル』を悪い方向に運用しようとすると遅かれ早かれ、スキルが突然保持者のステータスから消えるらしい」

「それって、スキルが使えなくなるってことですか」
「どうやら、そのようだ。まぁ、こちらはそれらしき『特別スキル』自体を持ち合わせていない都合上、なんとも分からんが」

 シュウさんの言葉に、私は絶句する。このスキルが失われたら。私はこの世界に居続けられるだろうか。この世界に私は不必要な存在になってしまうのではないか、そんな不安が私にのしかかってきた。
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