言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
上 下
89 / 304
チラシと目玉商品づくり

話を聞いてもらう

しおりを挟む

 明らかに、気分が落ち込んでいそうな私を見て、大藤さんは何かを感じたようだ。

「コーヒーでいい? 入れてくるよ」
「……すみません」

 私がか細い声で答えると、彼女は軽く頷いて立ち上がった。そしてすぐに戻ってくると言った。

「おっし、今日は飲みに行こう。とことん飲もう。もちろん、明日の業務に支障をきたさない程度にね」

 大藤さんの言葉に、私は顔を上げた。大藤さんの心配そうな顔がそこにあった。

「ゲームの話どころじゃなさそうだからね。あっちは急ぎじゃないし、まずはリアルをしっかり解決しよう」

 そう。あくまであちらはゲームの世界。私が本来生きるべきは、こちらの現実世界。どう頑張っても向こうの世界を現実にすることはできない。

 大藤さんは自分のお弁当箱の蓋をあけながら、小首をかしげる。

「まずは、話を聞こうか」
「いいんですか」
「もちろん。これから長い付き合いになると思うし。いくらでも愚痴ぐらい聞いて挙げる。さあ、お姉さんに話してごらんなさい」

 どんと自分の胸を叩いて見せる大藤さん。それが今の私にはとても嬉しい。堰を切ったように言葉があふれだす。私は、大藤さんに今日のこと、そして今までのことを話した。

 金本部長からは、おそらく入社当初から目をつけられていたとは思う。私がドジで天然で仕事が遅いことを。そして、人から頼まれると断れない性分であることも。

 嫌な仕事はしょっちゅう回ってきたし、金本部長がこなしきれなかった仕事をさも当たり前のように回されて休日出勤、休みがほとんどない状況はよくあった。

 でもきっと社会人になって働くってことは、そういうことなんだと諦めてた。金本部長が私が仕事でヘマをしたり、仕事が遅かったりすると浴びせてくる暴言の数々。

 あれだって、会社で働くほとんどすべての人が経験していることだと思っていた。

「キミのような人間は、大した仕事は任せてもらえないし。どこでも怒られるに決まってるよ」

 そう言われたこともあったし。そしてそれを心のどこかしらで理解している自分がいたのも事実。きっと転職したって、どこでも私は怒られるし邪魔者扱いだし、仕事が遅い人間だって言われるに決まってる。

 そう思いながら今日まで働いてきた。そこまで勢いよく喋り終わったあと、大藤さんを見ると、彼女は呆然と焦点のあってない目で私を見つめていた。あ、これはひかれちゃったかもしれない。だって大藤さんとは、まだ出会って二日しか経ってない間柄。いきなり、こんなことを言われても困るよね。

 私はあわてて言った。

「ごめんなさい、急にこんな話されても困りますよね」
「偉いっ!」
「え」

 大藤さんから飛び出したのは、私にとっては思いもかけない言葉だった。

「よし、その上司を懲らしめた上で、紗蘭ちゃんにあう職場を見つけ直そう」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...