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クエスト受注所
物的証拠を増やす
しおりを挟む私は、金の腕時計を相手に不審がられないように盗み見る。すると、ポップアップ画面が視界に広がる。
『シリアルナンバー入り金の腕時計をスキルで変更しますか』
私は、はいのボタンに触れる。すると、金の腕時計の紹介画面が表示される。
『シリアルナンバー入り金の腕時計:現在のところ、世界で一つしかない金の腕時計。この世界では現在、シリアルナンバー入りのものはこの腕時計しか存在しない』
特に、この腕時計だけについているスキルなどはないみたい。だから、完全に見た目装備って感じだね。ゲームごとに名称が異なってくるとは思うけど、アクセサリーとか重ね着装備とかに近い感じかな。まあ現実世界でも、腕時計はファッション・アクセサリーのジャンルに属するとは思うけどね。
私は二人には聞こえないくらいの声で言う。
「『シリアルナンバー入り金の腕時計』を、『シリアルナンバー入り金の腕時計(呪)』に変更」
そして、アイテム説明欄の方に付け加える文言を考える。しかし私のネーミングセンスがなさすぎて、同じような名前が数回続いてる。こういう時、名づけのセンスがあれば、もっとましな名前がつけられるのにな。
「この腕時計は、1度腕に装着すると、2度と外れなくなる。そして装着している間は、音のでる子ども靴の足音になる」
音の出る子ども靴。私、あれ好きなんだ。子どもの頃、自分も履かせてもらっていたらしいんだけど、母親の話によると、あれ、あんまり売ってないんだって。
でもそんな子供が履いてたらかわいいあの音が、金髪サングラスの人から聞こえてきて来たらどうだろう。ちょっと想像してみてほしい。
私はそこまで言い切ると、ギルドマスターさんに向けてにっこり笑いかけた。
「その腕時計、とっても素敵ですね」
「おや、お目が高い。この時計はね……」
ギルドマスターさん、誇らしげに腕時計を私の方へ掲げて見せると、いかにこの腕時計が高価なものかを説明してくれる。半分以上、まともに聞かなかったけど。
私は、自慢話が聞きたかったわけじゃない。この話を『録音』するつもりだったんだ。今、ギルドマスターさんが私に話した内容は、すべて受付嬢さんの一人から預かったICレコーダーみたいなあの機械に録音してある。私のスキルで、あの機械が私にも扱えるように加工したんだ。
これも、物的証拠を増やしておくため。相手の弱みは持っていれば持っているほどいいはず。私は心の中でほくそ笑む。
ひとしきり、自慢話を聞き終えると私は2人に会釈して言った。
「失礼しました」
そして、部屋を出る。よかった、クエストマスターさんにもしかしたら、受付嬢じゃないってばれるんじゃないかって思ったけど、どうやらそこまでクエストマスターさんは気にしてなかったみたい。受付嬢さん全員の顔と名前、覚えてないのかな。
私はICレコーダーを持って、受付嬢さんたちが待つ休憩室へと戻ったのだった。これで証拠は揃った。あとは、この証拠たちを運営に送りつけよう!
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