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クエスト受注所
従業員用入口
しおりを挟む私たちは、キアナさんの案内で従業員入口から建物の内部に侵入することにした。従業員用入口から入る建物は、表側の入り口から入るのと雰囲気が少し違う。
おそらく従業員しか通らない通路の両脇には、たくさんの書類が置かれている。私はそれを見てげんなりした。書類の束は、できれば仕事以外で見たいとは思わない。仕事場に置いてきたたくさんの書類の束を思い出してしまうから。
しかもこんなに積んでいたら、雪崩がおきそうだし。入口のドアをあけ放って、そこから強風が吹いたら一発で飛ばされていくよ。
私は書類の山を横目に廊下を進んでいく。シュウさんが小声で言った。
「……書類の山は、見たくないものだな」
「ええ。……シュウさんもですか」
「ああ、仕事以外では見たくないものだな」
シュウさんの言葉に私は頷く。キアナさんは笑って言う。
「現実世界でも働いている人って、そう思うらしいな。あたしは、まだ高校生だからよくわかんないけどさ。でもま、提出物とか、親に渡さないといけない手紙の束って考えたら、嫌かもな」
キアナさんは先に進む。私たちもそれに続く。長い廊下を通り過ぎて、彼女は1つの扉の前で止まった。
「ここが、スタッフ専用ルームだ。といっても、クエストマスターは絶対に入ってこれない受付嬢専用のロッカールーム兼休憩室だな」
そして何のためらいもなく扉を開ける。喜び勇んでキアナさんの後に続こうとするカズアキさん。それをシュウさんの手が制止する。
「なんやシュウ。早く入らんと、見つかってしまうで」
「いや、そもそも受付嬢専用ルームに俺たち男が入っていいはずがないだろ」
「いいって。受付嬢の中にも素敵な男性がいるかもしれへんやろ」
「いや、それ確認してないだろ」
2人が言い争い始めそうなので、私は2人の間に割って入って言った。
「じゃ、生物学上女性である私が代表で行ってきますね。お2人はここで、クエストマスターさんとかが通らないか見張りをお願いします」
そう言うが早いが私はさっと部屋の中に入って、扉を閉めた。シュウさんとカズアキさんには悪いけど、確かに女性しか入れない部屋かもしれないからね。
部屋には数人の受付嬢さんの制服を着た女性がいた。その人たちに囲まれるようにして、キアナさんが立っている。
「キアナさん、クビにされたんだって? 一体何をやらかしたの」
女性たちの中でひときわ年がいっていそうな人(いわゆるお局的な人かな)が、顔をしかめて聞くと、カンナさんも同じく顔をゆがめて答える。
「クエストの独占はまずいんじゃねーかって言っただけだよ。それだけでこんなことになっちまったんだ。この仕事、やばいかもしれねーぜ」
キアナさんの言葉に、お局さん以外の受付嬢さんが絶句する。
「受付嬢ってすごく魅力のある仕事だし、絶対現実世界ではなれっこないからここでだけでも体験できるならって思ったのにね」
「クエスト案内するどころか、今はクエストがないことによるクレーム対応係みたいな状態だし、辞めてやろうかと思ってたのよね」
口々に言い始める受付嬢さんたちに、キアナさんが私の方を振り返って言う。
「辞める辞めないは好きにしてもらえればいいけどさ。この人がクエスト独占のことで話を聞きたいんだってさ。よかったら協力してやってくれないかな」
キアナさんの言葉に、受付嬢さんたちの視線が一気にこちらに集まる。私は大きく息を吸って言った。
「クエスト独占の件について調べているんです。何かご存じであればぜひ教えて頂きたいのです。ご協力よろしくお願いします」
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