言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
上 下
62 / 304
クエスト受注所

クビになった受付嬢さん?

しおりを挟む

 いかにもといった様子の言葉遣いで派手目の女性が言う。その表情は、鬼の形相。クエストマスターはその声でようやく、目を覚ましたみたい。

 目をこすりながらゆっくりと体を起こすクエストマスターさん。その目が派手目の女性を見上げて、一瞬にして不機嫌な顔になる。

「なんだ、お前か。お前はクビにしたはずだぞ」
「だからっ! こんな紙きれ一枚でクビにできると思ってんのかって言ってんだよ!」

 女性が怒鳴る。クエストマスターは、迷惑そうに耳を抑えながら、周りを見渡し言った。

「オイ誰か、この迷惑なヤツをつまみ出してくれ。警備、警備はどこだ」

 すると、奥からいかにも警備員といった服装のロボットが2体出てきて、女性の両腕を掴む。

「イタッ、痛いじゃねーか! それにまだ話は終わってねぇ」
「こっちの話は終わってる。お前はクビ。それで話はついている」

 クエストマスターの冷たい声とともに、女性は建物の入口へと引っ張り出されていった。私は、思わずシュウさんを見た。すると、彼は小さく頷いた。おお、何も言わずともどうやらシュウさんには、私が言いたいことは伝わったみたい。

 私はシュウさんに小声で言った。

「行ってきます」
「気をつけてな」

 シュウさんの言葉を聞くと、私は走り出した。さっき追い出されてしまった女性。彼女から話を聞くためだ。早くしないと、見失っちゃう。

 建物の入り口に走っていくと、女性は入り口をふさぐように立つロボットに食ってかかっていた。

「おい、アイツに話があるんだ。ここを通せってば!」
『デキマセン。クエストマスター、アナタヲオイダスヨウニイッタ』
「ああもう! 主人に忠実でいいけどさ! 勘弁してくれよ!」
「あのぅ……」

 私がロボットの後ろから声をかける。ロボットと女性の視線がこちらに向く。

「この人、私の友達なんです。私が見張ってますから、中に入れてもらえないでしょうか。あなた方もまだ、お仕事があるでしょうし」
『ユウジン。ユウジンガイルナラ、アンシンダ。ナニカシタラ、マタ、オイダスカラナ』

 そう言うと、ロボットさん2体は帰っていく。女性は私とロボットを見比べ、それから私に不思議そうな目を向けて来た。

「えっと……。アンタ、知り合いだっけ」
「いえ。初対面です。すみません、咄嗟に嘘ついてしまいました」

 私の言葉に、女性は一瞬呆気にとられた表情を浮かべた。けれどすぐにぷっと吹きだして大笑いを始める。

「なんか知らねーけど、助かったよ」
「いえ。あなたに伺いことがいくつかあるのです。お聞きしてもよろしいですか」
「ああ、いいよ。どうせ今日は警備が厳しくなるだろうから、もう一度内部に入るのは難しいだろうからな」

 女性はそう言うと、私の方に片手を差し出してきて言った。

「あたしは、キアナってんだ。そっちは?」
「私は、サランと言います」
「サランね。とりあえず、よろしく」

 こうして、キアナさんと私は出会ったのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...