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言霊クラフト編その2
人の縁を広げる
しおりを挟む丸メガネの女性は、完成した『ドラゴンのうろこ装備(改)』をしばらく放心したように見つめていた。数分後、ようやく装備から顔を上げた女性は、にっこり微笑んだ。
「これが……、これが本物のドラゴンのうろこ装備なのですね」
私は、小さく頷く。けれど、彼女にくぎを刺す。
「でもこれは、あくまで私のスキルによるものです。アイテムそのものの性質が変わったというよりは、元々のアイテムに、『自分たちは魚のドラゴンのうろこでできた装備ではなく、龍のドラゴンのうろこでできた装備なんだ』と思いこませているにすぎません。ですから、それだけは、お忘れなきようお願いします」
そう。私のスキルはあくまで、『言霊・物語付与』のスキル。物質の材質そのものを変えているというよりは、そのアイテムに何かスキルを付与したり、そのアイテムに『自分は別のアイテムであると思い込ませる言霊の力』を与えているに過ぎない。
だから、アイテムそのものが本当に彼女が求めている材質のものになったわけではない。あくまで、見た目だけの話。耐久度その他は『食べられるお魚のドラゴンのうろこ』でできた元々のアイテムに依存している。
お魚のドラゴンと龍のドラゴン、どっちのうろこの方が耐久度ありそうかと聞かれたら、私だったら龍のドラゴンのうろこの方が数倍、耐久度が高いって答える。
だから、本当は『本物の龍のドラゴンのうろこ』で作るのが一番いいんだけど、きっと本物のドラゴンのうろこで作ろうとしたら、値段がすごいことになるだろうし、そもそも簡単に手に入るものなのかどうかも、今私はよく知らない。
でもゲームの世界だとだいたい、レア度が高いものだと思う。そう簡単に倒せるモンスターでない場合が多いからね。
「見た目だけでもわたしの思っているドラゴンのうろこの装備になって、本当にうれしいです。耐久度とか、防御力とか、そういうのはどうでもいいんです」
女性の言葉に、私は内心何度も頷く。見た目って大事だよね。私もゲームとかだと、見た目にこだわりたいタイプ。でもそういう見た目装備って大抵、作成したり手に入れるのにはすごく手間がかかるのに、防御力が低かったりで、手に入れるまでの苦労に見合わない価値のものが多いんだよね。
でも、そんな装備でも使い続けたいことだってある。現実でも、実用性よりも自分の好きな服を着る。そしたら、気分が上がる。仕事とか、何か嫌なことがあった時、そんな時こそ自分の好きな服を着ることで、テンションを上げる。それがすごく大切な時もある。
この人にとっての装備もまた、そういった類のものかもしれない。だとしたら、それは叶えてあげたいもんね。
「ありがとうございました。大切にします。お代は、どうしましょう」
女性の言葉に、私は少し考え込んで言った。
「お代は、結構ですよ。これからこのお店をごひいきに!」
そう言うと、女性は一瞬驚いた顔をした。そしてにっこり笑うと言った。
「ありがとうございます。また来ます!」
そして私に気持ちとして少しだけお金をくれた。ああ私、これでまた頑張れるよ!
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