言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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犯人捜し

作戦開始

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 作戦を話し合った後、私とヒナコさんは、ヒナコさんが声をかけてくる前の状態、隣り合った別々の席に座った。そしてヒナタさんは、バックヤードへと姿を消す。店員さんたちに情報を共有してもらって、協力をあおぐためだ。

 私は、ヒナコさんに目配せする。ヒナコさんも、私に向かって小さく頷く。2人で協力すればきっと、何か起こっても大丈夫。

 私は周りに視線を走らせる。うん。今、私たちのほかに、1人身の女性はいない。だとすれば今、またはこれからカフェに来た人の中で詐欺師さんが紛れ込んだとしても、声をかけてくるとすると私かヒナコさんになるはずだ。

 問題は、ヒナコさんに声をかけてきた時。その時は、ヒナタさんに協力を仰がないと。そんなことをぼんやり考えていたその時だった。

 突然、私と私の目の前にあるスイーツの上に影が差した。それとほぼ同時に声が降ってくる。

「ここ、いいかな」

 私が見上げるとそこには、私ににっこり笑いかけている男の人。

「え……、あ、はい。どうぞ」

 私が渋々といった声で応じると、男の人は私の向かい側の席に座る。そしてにっこり笑たまま、声をかけてくる。

「ありがとう。キミ、1人かい」

(こういうことを聞く時点で、ナンパか勧誘みたいな悪い人って警戒するけどなぁ)

 私はそう心の中で苦笑いする。

「ええ、まぁ」

 普通ならこんな不用心な返答はしない。でも、今回は違う。何かあったとしても、隣でヒナコさんが見張ってくれているし、ヒナタさんもいる。
「へえ、そうなんだ。ところでさ、今困っていることとか、ない? たとえば、装備が弱すぎて困ってる、とか」

 ほお、もう本題に入ってきましたか。私は別の意味で感心する。ちょっと先を急ぎすぎてる感じがするよね。そんなすぐにそんな話をし始めたら、相手が警戒するってこと、考えないのかな。まあ、引っ掛かってあげるんだけれども。

「そうですね。前線に出て戦うタイプではないんですけれど、やはりこの装備だと何かあったとき、心もとない気はしますね」

 私がそう答えると、明らかに男の人の笑顔が意地悪気な表情に変わった。

「ああ、それならいい提案があるんだ。一度僕に、装備を預けてほしいんだ」
「装備を……ですか」

 私は、顔をしかめて見せる。男の人は、手をひらひら振って言った。

「何も装備を盗もうってわけじゃないよ。キミのために、キミにあったスキルを付与してあげようってハナシさ」
「スキル」
「ああ。たとえば、『倒せない相手に遭遇した場合、確実に攻撃を防ぐ盾』とかに変えてあげられるんだ」

 ああ、なるほど。こうやって人を騙してたのね。私は、内心納得する。自分にはどうにもできないこと、でも悩んでいることを打ち明けさせて、それに合わせた提案をする。そりゃ、引っ掛かる人も出てくるか。

 でも、そんなおいしい話、見ず知らずの人に教えてくれるの自体、おかしいと思わないかな。まあ、私も見ず知らずのフリントさんにスキルを使ってあげたけど、それはあくまで、フリントさんにこれからもお店に来てもらいたいという思惑があったからだし。

 そういった思惑なしに、また見返りもなしにそういった提案をよこしてくるのは、危険なサイン。これは、詐欺師さんをひっかけられたんじゃないかな。
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