言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

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言霊付与・クラフト編

その3 黒騎士の誓いの剣(後編)

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 私は、目の前に置かれた『黒騎士の誓いの剣』を眺める。するとアイテムの横に、アイテム説明のダイアログボックスが形成される。

『黒騎士の誓いの剣。ジョブ開放キーアイテム。黒騎士が主従関係を結ぶ相手を決めた際、契約に用いる剣。儀式用のため、殺傷能力は皆無。アイテムを身に着けている間は、黒騎士のジョブが継続される』

 武器としての用途はない、祭事用のアイテムだね。だとしたら、なおさらアイテムボックスとか圧迫するこのアイテム、黒騎士というジョブが好きじゃなかったら困るアイテムだね。

 私は、頭を抱える。キーアイテムを盗もうとする輩は、どうやって盗もうとするかな。身に着けている間は黒騎士のジョブが継続されるってことは、基本的に装備しっぱなしになるよね。鞘に入れて、腰から吊り下げてる状態。

 これだとやっぱり、分かる人から見たら、
『アイツは黒騎士だ。あの剣を奪えばオレも黒騎士になれる。(または金稼ぎできる)』
という発想になるだろう。

 だとしたら、いっそのこと、形を変えてしまえばいいんじゃないかな。私はそう思いついて、お兄さんに言う。

「えっとそれじゃ、この剣をすぐに使う予定は今のところないってことですよね」
「ええ。現状、使う予定はありません」

 お兄さんが静かに頷く。

「何しろ、この世界に来たばかりですから、早々に主を決めることなど、できるはずもありません」

 それに、と彼は言葉を続ける。

「黒騎士のままなら、様々なクエスト受注もできそうですが。誰か主を決めてしまった時点で黒騎士ではなくなり、受注できるクエスト内容が絞られてしまいそうで嫌なのです」

 お兄さんの言葉に、私は納得する。なんてったってゲームは今日発売。情報も少ないこの状況下の中で、冒険するのは危険かもしれない。次々にゲームを進めていくいわゆる、「攻略組」でもない限り、そういった冒険をするプレイヤーは少ないんじゃないかな。

 それに、このゲーム、たぶんリセット不可だ。一度始めたゲームの内容が納得できる内容にならなかったからといってニューゲームができそうな感じじゃない。

 だとしたらなおさら、選択を間違って後悔してもやり直しがきかないから、慎重になるべき。

「このアイテムの条件としては、『身に着けておく』ことが大事なんだと思うんですよね。つまりは、身に着けてさえいればいい、と」

 私は半ば自分に言い聞かせるようにして言うと、言葉を続ける。

「このアイテムに言霊・物語付与のスキルを使用します」

 私が言葉を発すると、システムダイアログが起動する。その様子をお兄さんはじっと見つめている。イケメンお兄さんに見つめられて、私はちょっと恥ずかしい。

「黒騎士の誓いの剣をアクセサリーに変更。黒騎士の誓いの剣のネックレスにします。効果は、現在のアイテムと同様。持ち主が仕えるべき主を決めた時、元の形に戻り、イベントを遂行できるようにします。それ以外の時は、黒騎士ジョブ継続のキーアイテムとして、肌身離さず持ち歩くか、身に着けることで効力を発揮します」

 私の言葉が終わると同時に、剣が淡い光を帯びる。光が収まったとき、そこにはさっきの剣をそっくりそのまま、ミニチュアサイズにした剣がペンダントトップになったネックレスが完成していた。

 私の後ろからその様子を覗き込んだお兄さんは、驚きと称賛の入り混じったようなため息をついた。よし、成功だ。

「これで、この剣が狙われることは少なくなるでしょう。なんといっても、見た目を変えたわけですから」

 そう。黒騎士の誓いの剣を狙ってくる人たちはきっと、元の大きさの剣を探すはず。まさか、ミニチュアサイズになっているとは考えないだろう。そう考えたの。
「これなら、持ち歩きにも便利ですね」

 お兄さんは、ネックレスを首から下げながら言う。そして、律儀に私に頭を下げた。

「あなたのおかげです、ありがとうございます。お礼は……えっと」
「あ、ぜひこれからこの店をごひいきに。それで十分です」

 私がそう言うと、お兄さんはパッとメモを取り出して店の名前を書き写した。そして
「じゃあ、さっそく何か買っていこうかな」

 と言ってくれた。私はぽんと手を打つ。

「そうだ。お兄さん、おすすめの防具があるんですよ」
「お兄さんって呼ばれると照れます。……僕、フリントって言います。以後お見知りおきを」
「フリントさんですね。私はサランと言います」

 今更だけど、ここでお互いに名乗って私は店の奥へと誘う。そして私がさっき作り直したばかりの、バトルフォーンの甲冑《改》の前へ連れて行く。

「これ、自分もだいぶ動きにくくなりますけど、触れた相手や武器、防具も重たくすることのできる優れものです。使い方を間違えると大変なことになりますけど」
「いわゆる、ロマン防具というヤツですね。いいですね、使いにくいほど愛着がわきます」

 フリントさんは嬉しそうに言うと、カンナさんに購入希望の旨を伝えてくれる。売れ残りの商品も売れて、しかも常連になるかもしれないお客さんも獲得。いい滑り出しになったんじゃないかな。
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