言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
上 下
6 / 304
ハジマリの時

初めての突発クエスト

しおりを挟む
 私はとりあえず、噴水の前にあるオシャレなカフェテーブルの椅子に腰かける。テーブルの上に、シュウさんからもらったプレゼントを置く。さっきまでドタバタしてたから、ろくに持ち物も何も確認できていなかったし、ちょっとここで持ち物確認しておこう。

 ほっと一息つきながら、私は小さい声で呟く。

「メニュー画面」

 すると、目の前にダイアログボックスが展開される。持ち物、ステータスなど、様々なタブがある中で、持ち物の欄に指を合わせた。

 さっきのシークレットクエストで得た報酬が増えているけど、所持金は1000Yって書いてある。これ、現実世界のお金のレートだと、どうなるんだろう。


 他には、薬草っぽい草が入った革袋や瓶に入った傷薬っぽいものもある。なるほど、とりあえず必要最小限のアイテムはもらってるっぽいね。

 続いて私は、シュウさんからもらったプレゼントボックスを開けてみる。中には3つの品物が入っていた。1つは大きなトランク。それと羽ペンと手帳。トランク! トランクじゃないかっ!!

 私は大歓喜でトランクを持ってみる。牛革のような、すべすべした感触。留め金には、ダイヤルロック。説明ダイアログボックスが表示される。

『ワカノバッグ 3wayトランク。ショルダーバッグとしても、リュックサックとしても、トランクとしても利用可能。収納力抜群』

 これは。これは、いい。むしろこれ、現実でも欲しい。これは愛用する予感。手帳も羽ペンもある。完璧だ、こりゃもうこの世界で今必要なものは揃ったと言っていいのでは。

 ルンルン気分になっていた時だった。私は、うつむいて歩いてくる一人のおばさんを見つけた。手には、一枚の紙。おばさんは立ち止まると、その紙を見て、大きく溜め息をつく。

 そのまま私の前を通り過ぎようとする。私はなんとなく放っておけなくて、遠慮がちに声をかけた。

「あの」

 おばさんは再び立ち止まると、きょろきょろと辺りを見渡す。私はもう一度、声をかける。

「あの。何か、お困りですか」
「え……、アタシに聞いたのかい?」

 おばさんは、私の方を見た。アニメとかに出てくる快活そうななおばさん。今はすごく落ち込んだ表情してるけど。

「はい。困っているようにお見受けしましたので。何かお手伝いできることはありますか」
「アンタ……、冒険者かい?」
「はい」

 おばさんは少し考え込んだ後、私の向かい側の椅子にどかっと腰かけた。

「ウチの店、道具屋なんだけどね。今日からたくさん冒険者が来るからって、あちこちに同じような店が出来ちまってね、ウチのような小さな店は勝ち目がなくなっちまったワケさ」
「ああ、確かに今日から増えますね、冒険者は」

 今日がゲームの発売日なんだもの、と私は思う。おばさんは言葉を続ける。

「オマケにお前らの店の場所は、売り上げに見合ってない、立ち退けって言うんだ。ひどい話だろ」
「それはひどい。今までずっとその場所でお店をやってきたんですよね」
「そうさ、ウチのばあさんの時からの店だから、結構長いんじゃないかな」

 おばさんは、再びうつむく。

「まさかアタシの代で、店じまいなんてご先祖様になんていえばいいか……」

 その時、ダイアログボックスが現れる。

『突発クエスト、お店の手助けが発生しました。受注しますか』

 突発クエスト? クエストって基本的にギルドの掲示板とかで受けるものだと思うけど、ゲームによっては確かに、住人個人から受けるものもあるもんね。これもその一種かな。

 ダイアログボックスの『詳細』の部分に指を合わせる。すると、内容が表示された。

『道具屋の女主人、カンナは道具屋の閉店および立ち退きを要求されている。要求を跳ねのけるため、お店の評判を上げ、収入を増やす手立てを考えてほしいらしい』

 続いて報酬の欄を見て、私は目を止める。お金とかのほかに、お店でアルバイトする権利とある。おお、お店で働いたりすることもできるんだね。これは大きいかもしれない。

「私でよければ、お手伝いしましょうか」

 私は言う。まだ、クエスト受注のボタンは押していない。すると、おばさんの顔が輝いた。

「本当かい? でもどうやって、売り上げを伸ばしたりするんだい」
「一つ、提案があります」

 私はおばさんを見た。おばさんがこの提案に乗ってきたら、クエストを受注しよう、そう決めた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

運極さんが通る

スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。 そして、今日、新作『Live Online』が発売された。 主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...