言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空

文字の大きさ
上 下
3 / 304
ハジマリの時

始まりの街に行く前に

しおりを挟む
 女神様は、私ににっこり微笑むと言う。

「ここから、貴女の素敵な冒険が始まります。準備はよろしいでしょうか」

 いかにも、今から冒険が始まる感じ。わくわくするね。最近は本当に仕事のことばかり頭をうずまいていて、余裕がなかったから本当に幸せな気分。

 私は、女神様に向かって大きく頷いた。そのとたん、草原の風景がぼやけ始める。ああ、別の場所に移動かな。それと同時に、女神様の顔もぼやけ始める。さようなら、女神様。また会う日まで!

 目の焦点が合ってきたと思ったら、今度は別の風景が浮かび上がってきた。今度はどうやら、森の中みたい。左下に小さく、『精霊の森』と書いてある。うん、いかにもRPGって感じのネーミングだね。

「えっと私、これからどうしたらいいのかな」

 つい、声に出して言ってしまう。だって、森自体は嫌いじゃないけれど、レベル1の装備も何もない私。こんな状態でモンスターにでも出会ってしまったらと思うと怖い。

 風の音が心地いいけど、そんなことを考えている場合じゃない。その時、視界の端に目的地というポップアップがぴょんと出てくる。

『目的地、始まりの街までのナビゲートを開始しますか』
「あ、お願いします」

 私が言うと、矢印が表示される。なるほど、これを辿って行けば、始まりの街までたどり着けるっていうことね。でもさ、これ、最初から始まりの街に転送してくれればよかったんじゃないかな。

 だって、丸腰なんだよ私。武器とか何も持ってない。ここから始まりの街まで行く間にモンスターが配置されてなかったとしても、つらい。

 私は、矢印の向きに合わせて歩き始めた。森の匂い。本当に、匂いも風も感じる。すごい。でもとにかく怖い。早足で歩いていた時。

 私の足に何かが当たった感触があった。

「ぎゃああっ」

 たまにさ、虫が出現したりしたときに、かわいい悲鳴を上げる人っているじゃない。あと、絶叫マシーンに乗っていて、甲高い悲鳴を上げられる人。

 あの人たちって、だいたい本当に怖がってない人たちだからね。本当に絶叫マシーンを怖がっている人は、声なんて上げられなくて無言。顔は真っ青。ついでに言うと、安全バーを手が真っ白になるくらい握りしめてる。

 そして本当に怖がっている人は、かわいい悲鳴をあげることなんて、できないと私は思う。野太い悲鳴になります、私の今の声みたいに。

 視線を下に向けてみると、誰かが倒れているのが見えた。ん、人?

「え、ちょっと、大丈夫!?」

 私は、その人の前にかがむ。うつぶせに倒れているその人は、どうやら男の人のようだった。足に何やら、トラバサミのようなものが、引っ掛かっている。え、これってもしかしてトラップ?

 私は男の人の足を強く引っ張ってみた。でも、トラバサミから抜ける気配はない。どうしよう、さすがにこのまま放っておくわけにはいかないよね。

 その時だった。けたたましい音が私の頭の中でこだまする。この音、よく映画とか、ゲームとかで流れる、イマージェンシーコールじゃない?

 あと何分で建物爆発する、とかそういうときに流れるやつ。なんだかとっても、まずい気がする。

 私の頬を冷たい汗が流れたような気がした時だった。目の前に大きな赤い警告文字が出る。

『警告。このエリアに高レベルモンスターが発現しました。推奨レベル、30レベル以上。ジョブは戦闘系ジョブ推奨。推奨レベル以下、または戦闘系ジョブでない冒険者は、非常に危険です。戦闘を希望しない冒険者は、ただちにエリアから撤退してください』

 エリアから撤退って言っても。この人をそのままにしておくわけにはいかないよね。私が焦っていると、目の前にいる人のステータスが一瞬見えた。ああだめだ、この人もレベル1だもん。逃げるわけにはいかない。

 私の頭の中では、今まで見たことのあるVRMMOのゲームを舞台にした小説がうずをまいていた。私が知っている限り、そういったゲームって、ゲーム内で死んだら現実世界でもペナルティを受けたり、最悪の場合、死んでしまう。

 もしこのゲームの中でもそうなっていたら。私が知っている情報の中には、そんな情報なかったけど、もし私が知らないだけだったら。見ず知らずの人とはいえ、私はその人を見て見ぬふりして逃げたことになる。そんなのは、嫌。

 でも、今の私にトラバサミを解除する技術はないかもしれない。私は、途方にくれた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

処理中です...