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14.それは成長か退化か

二百七十四話 血に餓えた獣2匹

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274話 それは本能か衝動か

「ワシも少し理性が飛んで来た、手加減が効き難くなったが許せ・・・お前さんには
判るか?この感覚が!酒に酔うように戦いに酔う陶酔感!そして闘争と言う肉と魔
をぶつけ合う喜悦!血肉湧き踊り飛び散る悦楽!戦いの果てに出来上がる血溜まり
の恍惚!いいぞォ!フハハッ!」
膝を曲げ空を見上げ両手を頭部の高さまで上げて高笑いを上げた
「悪いがまだ知らないな」
その言葉に反応したのか顔だけが動きこっちを向いた、その表情は無表情の様だが
眼がさっきまでより細く睨むようになった、その眼は光がくすみ縦に裂けるような
瞳孔が瞳の左右を別けている・・・内側が真紅に染まり外側が金色に輝き白目は全て
黒くなった、更に牙も大きくなったのか、薄い笑みから伸びた2本の牙が覗く
「ヒィヤァッハー!」
焦点のブレるような正気を失った瞳がこちらを捉えた、瞬間姿が掻き消えるように
して強風が前面から吹きつける・・・足を曲げ体勢を安定させるために姿勢を低くした
そこに左側から何かに斬られ左腕が肩と肘の間から5分割で斬り落とされ、腹部にも
4本の斬り傷が出来ていた・・・これは爪によるものか?早すぎて察知も出来なかった
周囲からは敵意や殺意が覆う様に囲っているのが感じ取れるが、本体からの気配が
感じ取れなくなっている、どうするかを迷っている内に体勢が崩れて右へと倒れる
足元を見れば右脚がまたしても5分割されていた、そして丁度バラバラにされた左腕
が地面に落ちる・・・寸前に何かに吹き飛ばされ飛んで行く、ついでに足の方も吹き飛
んでいった、倒れきる前に右手で地面を叩きその反動で体を起こす、片脚しかない
せいで立っているだけでさえ難儀すると言うのに、戦う事などさらに難しい、まぁ
別にこれ位これからもあるだろうからいいんだが・・・しかし彼は何処に行ったんだ?
背後から近付く何かを感じて何とか左へ跳んだ、だがそこで背中に何かが叩き付け
られた事でバランスを崩し倒れてしまった、起き上がろうとした所で胸部に衝撃を
受けたと思えば、徐々に視界が閉される様に黒く染まっていく・・・体の感覚も無く
なった気がする、死んだ時の感覚に似ているが何処か何かがハッキリと違っている
視界が黒に沈み切り外界を何も感じ取れなくなった、すると見ているような感覚で
思考に映像が映し出された、これは戦いなのだろうか?何かがぶつかっては弾き合
い何かが叫びを上げているかのように吠え何かがそれから飛び散っている・・・ただ
余りにもぼやけ過ぎているし音もくぐもっているせいで殆ど内容が判らない・・・
これは記憶なのか?なら誰の?では彼のか?多分違うだろう、映像が進むにつれて
自分の何かが欠けていく、戦いが終わりに向かう程に自分が削れていく勢いが増す
これは私の過去?いや私が私になる前、我々がまだ1つだった頃の分裂する時か?
笑っている、嗤っている・・・その4つの影は全てわらっているように見える、戦いを
愉しんで笑っているのか、それとも1つだった自分を拒絶して嗤っているのか?
判らない、判らないがどれもまた1つに戻ろうとしている・・・自分が主人格に基礎と
なるためか?あぁそれは今も感じ取れる、きっとこれから彼らに合うのだろう・・・
?死んでいるのに?そうだ今は死んでいるんだ、だったら次なんて無いじゃないか
今は死んでいる?死んだら終わりだろ?なんだ?おかしい世界が回る、全て黒しか
ないのにこの黒い世界が渦を巻いている様に見える?そして自分も廻っている
「そうして俺達は繋がっている?今も今までも?」
「そうだよ?僕達は繋がっている、そしてまた1つに戻るんだ!」
「我等が1つに!それだけが我等の望みであろう、さぁ集え!」
別たれた3つの欠片が私に呼びかけている、その表情は闇に覆われて伺えない・・・が
嗤っているのは判る、脳裏に映る唯一見えている彼らの口元は笑みに歪んでいて
その見えない視線は突き刺すように強く見られていると感じる、そして次に彼らと
同じように映った自分も同じく口元が歪み嗤っているようだった、ただ私だけが
その視線は虚ろで何処も見ていない、まるでこの夢のような世界を彷徨っているの
を見ているようで、現実での迷走している自分を映しているかのようにも思える
だが嗤っている、いやこれは違う?脚に何かを踏みしめた感覚を感じ右手には何か
を殴ったかのような感覚、そして体にはあちこちから何かにぶつかった感覚がある
すると真っ暗な世界に色が着いた、現実のようだが一面血と黒い泥が撒き散らされ
その中心部で彼と殴り合って・・・いや正確には互いに笑いながら拳をぶつけ合って
いる、そしてそれを抜けた一撃が互いの肉を撃っては抉り、時に胸部を貫き合い
心臓を引き抜いたり内部の泥を引き抜かれたりする、互いに血の赤と泥の黒を全身
に浴び濡らしながら互いに死ねない殺し合いを愉しんでいた、集中しているのか
最早声も音も聞こえず、次第に色は褪せて映り肉体の感覚が無くなっていく・・・
そして互いに動きは鈍っていき、それでも再生しながら次の一撃を狙って殴り合う
肉を削いだ動きの鈍くなった腕を掴んでへし折って引き千切り、そしてその腕を掴
まれて握り潰されそのまま千切られる、瞬時に互いの腕は修復されてまた殴り合う
不毛な戦いでしかない、なのに気分が高揚している気がする、頭部は熱くなりそこ
から全身に熱が移っているような感覚、地面を覆い尽くすように染まっている血に
触れれば焼かれたような痛みがジリジリと生まれ、黒に触れればそれが消えていく
あっちはその逆の様で血に触れる事で修復しているようだ、互いに傷付け合う事で
地面の赤と黒の血溜まりが広がっていく、その地面に足を滑らせながらも殴りつけ
殴られて滑って体勢を崩すを繰り返す、最早思考も溶けたかのように反射で体勢を
整えては攻撃を防ぎ、無意識による攻撃を行う、徐々に視界が歪み滲んでいく・・・
・・・・・・
・・・・
右手に何か温かみを感じて意識を起こすと、その右手は肘まで彼の左胸部を貫いて
おり、動き難くて下を見れば左胸部が彼の右手に貫かれている、そして顔を上げれ
ば眼の前に、意識を失っているのか笑ったまま目を閉じている彼の顔があった
「楽しかったなァ・・・お前さんはどうだ?」
「そうか、私にはそれが判らない」
「ククッ、見るからに楽しそうだがな?口は笑っているぞ」
「それなら良かったんじゃないか?」
互いに合わせたかのように腕を引き抜く、最後に赤い血を浴び黒い血を浴びせて
この戦いは終わった・・・何処か少し満足感と奇妙な空しさが残っている
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